法隆寺

奈良：法隆寺 (Horyu-ji, Nara)

法隆寺に一人旅で訪れた時のことは、本当はあまり思い出したくない。春なのにまだ肌寒く、日程と交通手段の都合から、薬師寺の東方にあるバス停で法隆寺行きのバスが来るのを30分も待ちながら、「ああ、どこに行っても変わらない。」などと完璧に孤独に浸っていたのを、ついつい思い出してしまうからである。以来、旅に出ると、まるでトラウマのように、必ずあの時の気分を再現してしまう癖がついた。　それでも、特別展観されていた法隆寺金堂壁画の模写原画を見たときの衝撃だけは、決して忘れたくはない。これは全く冗談ではなく、あまりの美しさに感動して眩暈がし、圧倒されてまともに見ることさえできなかったのである。もちろん、金堂壁画は、まさにその模写作業の際のストーブの不始末から焼失し、現在は残されていない。私たちが見ることができるのは、あくまでも単なる模写である。もしかすると、その失われているという事自体が、このような感情に拍車をかけているのかも知れない。
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