交通事故鑑定人・林洋
 交通事故鑑定人とは何をする人か

              

 交通事故が起こり、被害者が発生し、事故の原因や責任の所在について見解の相違が生じ、裁判に発展することがあります。

 このような時に、裁判所や訴訟の当事者や代理人からの要請に応じて 「この事故は実際にはどのように起こったのか」について物理的、工学的に合理的な推論をし、これを鑑定書に纏めて提供するのが交通事故鑑定人の仕事です。

 鑑定書は、通常、書証として裁判所に提出され、鑑定人は、その後、証人として法廷に呼び出され、証人尋問を受けます。

 私は、1985年に(財)日本自動車研究所を退職して技術士として独立し、以来、専らこの仕事をやって来ました。

交通事故工学鑑定の特徴

  裁判所で取り扱われる事件として交通事故が特徴的な点は、事件が実にドラスチックな物理現象、衝突転倒破壊衝突後の運動と同時発生的に起こることです。

 また、この物理現象の結果が、警察の実況見分というかたちで、早い時期に観察、記録されていることです。殺人や詐欺といった純人間的な行動だけから成り立つ事件とは非常に違う性格です。事故現場の物的証拠が比較的客観的に、かつ、多角的に確認されていることが多い。

 ですから、このようにして得られた「事故現場の証拠」と物理法則、自動車の運動特性、構造特性、人間工学的知識等との整合の下に推論することによって実に鮮明に過去に起こった事故の真相を推定出来る場合が多いのです。

  ただし、この分野の学問的知識体系は、法医学とは違って日が浅いこともあり完成されているとはいえない。率直にいって、まだまだ、無知故の誤解や為にする欺瞞が跋扈する可能性が大きい世界でもあります。

 「事故現場の証拠との整合性」と並んで、工学鑑定で、もう一つ大事なことは、「多角的検証」ですね。交通事故は実験室内で起こる「予め何が起こるかが判っている、冷静に観測されている物理現象」ではないのですから、事故現場の証拠の中には誤解の証拠もある、嘘の証拠が紛れ込んでいる場合もあるという状況の下での推論ですから、この不利をカバーする為に、出来るだけ多角的に検証することが大切です。そうすると、誤解や嘘の証拠が弾き出されて来ることもよくあります。

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