#8◆ 胎児奇形を予防する妊婦は葉酸摂取を


妊娠初期における妊婦の葉酸の低摂取が、胎児における二分脊椎や無脳症などの神経管閉鎖障害のリスク上昇と関連することが指摘されてきました。1990年代初めに行われた無作為割付臨床試験により、1日400μgの葉酸を補給剤として投与することで、この神経管閉鎖障害のリスクを大幅に低下させることが確認されました。これらの研究結果を受けて、1992年に米国保健福祉省は、妊娠可能な女性全員が、1日400μg以上の葉酸を摂取することを勧める勧告を公表しました。日本でも二分脊椎の発症率が増加傾向である(1999年度厚生科学研究の「先天異常のモニタリングに関する研究」より)ことから、厚生労働省は2000年から妊娠の可能性のある女性に対して葉酸の摂取を推奨しています。そのため2002年4月から、母子健康手帳に葉酸の摂取についての記載が追加されています。

◆葉酸?
葉酸は水溶性ビタミンで、ビタミンBの一種です。葉酸は、細胞内でホモシステインというアミノ酸がメチオニンというアミノ酸に変換される反応を助ける働きをしています。メチオニンは、蛋白質の合成、核酸(DNA)の合成に必要です。このような作用により、細胞分裂が繰り返され、とくに胎児の神経管の正常な発育を促すため、母体の葉酸摂取は胎児にとって必要不可欠です。わが国の葉酸の摂取状況は、近年の国民栄養調査結果より妊娠可能な女性の葉酸栄養摂取量は、200μg/日なので不足なしていません。しかし、妊婦に対しては400μg/日が推奨されており、妊娠した場合、葉酸の1日摂取量は胎児の神経管閉鎖障害を予防するだけの量に達していません。

◆葉酸の効果的な摂取時期
葉酸の効果を十分に得るためには、葉酸の摂取時期が重要である。先天異常の多くは、器官形成期である妊娠成立直後から妊娠10週以前に発生し、とくに中枢神経系は妊娠7週未満に発生します。そのため、妊娠してからまたは妊娠の疑いを感じて、産婦人科の外来を訪れた時点で葉酸を摂取しても遅いと考えられます。なぜなら、最終月経開始日が妊娠0週0日となり、みなさん生理がないので産婦人科を受診する時には、すでに妊娠4週の開始日(妊娠4週0日)28日目であり、この日(妊娠4週0日)から妊娠2ヶ月に入るからです。したがって、少なくとも妊娠の1〜3ヶ月以前から、十分量の葉酸を摂取するのが望ましいとされています。

◆葉酸の効果的な摂取方法
1日野菜を350g以上摂取すれば葉酸を400μg以上取ることが可能ですが、農薬の心配や、葉酸は、熱に弱く水溶性のためゆで汁に溶出しやすく、調理によって失われやすい性質があります。また、食品中の葉酸(folate)とサプリメント中の葉酸(folic acid)の体内利用率に差が認められ、folic acidは約85%であるのに対し、folicは約50%とされています。folic acidのほうが体内への吸収がよいと考えられます。葉酸摂取が神経管閉鎖障害の発症リスクの低減に効果があることを示した疫学試験では、すべてにサプリメントを使用していることや、それぞれの食生活によっては1日400μgの葉酸を食事から摂取するのが難しいことから、諸外国においては葉酸400μgをサプリメントから摂取することが勧告に明記されています。