K’sストーリー第七章 二組目の始まり(1)
 時は10月の半ば、すっかり秋になり、かなり過ごしやすくなった。俺、東健吾が通っ
ている高校では、今からおよそ一ヶ月後に文化祭が行われる。そこで、クラスでの出し物
を決めるべく、ロングホームルームの時間を利用して話し合いがされていた。教壇の上か
ら、学級委員長である近藤さんがみんなにたずねる。
「それでは、この2年A組は教室で喫茶店をやるということでいいでしょうか?反対意見
がある人は、手を挙げて発言してください」
 近藤さんにそう言われて挙手をする生徒はいなかった。それで彼女は続ける。
「では、喫茶店に決定しました。次に、具体的にどのようなお店にするか、何か意見があ
る人はいますか?」
「はいはいはいはいはーい!妙案ありでーす!」
 クラス中に聞こえる大きな声でそう言ったのは、俺の隣の席にいる親友の仁だった。
「間くん、そんな声を出さなくても聞こえます。それで、どんな案ですか?」
「女性客に、男性ウェイターがついておしゃべりで楽しい一時を過ごさせるお店なんか、
どうかな?」
 その言葉の後、謎のポーズを決める仁。そんな仁に俺は言う。
「おまえ、それってホストクラブっていうんじゃ…」
「ああ、そういう言い方もあるな」
「却下だ却下!高校の文化祭でそんなのできないだろ!」
 俺はそう言って反対したのだが−。
「いいんじゃないかしら、ちょっとしたおしゃべりぐらいだったら」
 クラスの女子の一人が言った。その娘は続けて言う。
「このクラス、間くんや東くんをはじめ、結構な美男子がたくさんいるって評判なのよ。
そんな男の子たちとお話できたら嬉しいって女の子は多いと思うわ」
「仁はともかく、俺が?まあそれは置いとくとしても、そんなお店にしちゃったら男性客
の入場は見込めなくなっちゃうんじゃない?」
「だったら、男子がウェイターをやる時間帯と、女子がウェイトレスをやる時間帯を作れ
ばいいんだよ。そうすれば、男と女、両方のお客さんを呼べるぜ」
 仁がまた提案をした。まったく、この男と来たらそういうアイデアはどんどん思い付く
んだから…。そしてこの仁の提案に、クラスの中から「それっていいかも」とか「なんだ
かおもしろそう」とかいう声が聞こえて、少しざわつきが大きくなった。そんなざわつき
を抑えるべく、近藤さんがみんなにたずねた。
「えー、間くんがどんどん話を進めてしまっているようなので、ここで一度、決を取りま
す。間くんが提案したようなお店でいいという人、手を挙げてください」
 すると、男子も女子もほとんどの人間が手を挙げた。おいおい、ここまで支持されてる
のか仁のアイデアは…。挙手の数を数えた近藤さんは、続けてこう言った。
「今ので過半数の人が賛成したわけですが、どうしても、死んでもそんなことはやりたく
ないという人がいたら手を挙げてください」
 正直言うと、俺もそこまで絶対に嫌だ、というわけではなかった。なので、この二度目
の近藤さんの質問に俺は手を挙げなかった。他に手を挙げる人もいなかった。そして、仁
が俺に聞いてきた。
「いいのか健吾?やりたくないんじゃなかったのか?」
「死んでもとか、そこまでの話じゃないんでね。他に、反対者もいないようだし」
「はい、そういうわけで一番のネックだった東くんが反対意見を取り下げたので…」
「ちょっと待ってよ近藤さん!」
 俺は思わず大きな声を出した。もちろん近藤さんはほんの冗談のつもりで言ったのだろ
うけど。そしてそんな風にして、このクラスの喫茶店計画は進んでいったのだった。

 その日の放課後、俺は学校内のとある部屋にいた。ここは、俺が所属している漫画部の
部室。文化祭に向けてのミーティングがあるということで、遅れている一人を除いた部員
全員が集まっている。が、その一人が部長なもんだから、今は待ち状態だ。
「それにしても…」
 俺の隣に座っている女の子がつぶやくように口を開いた。中学時代からの俺の後輩の香
菜ちゃんだ。
「この漫画部って、こんなに人がいたんですね。えーっと…数えたところで11人、部長
さんも入れると12人もいるんですね」
「ああ、3年生五人、2年生四人、1年生三人で全部で12人。女の子の部員は各学年一
人ずつだね。そういえば、新入生歓迎の会でも、全員はそろわなかったんだよね。その後
はこの部の伝統で、出たいヤツが出たい時に出るから、そろうはずもないし…」
「夏休み中に合宿とかもありませんでしたしね」
「そうだね。何人かはつるんで例の同人誌イベントに行った人もいたみたいだけど…。と
にかく全員が集まるのは、文化祭一ヶ月前と文化祭当日ぐらいなんだよね。ところで香菜
ちゃん、今日は“鬼賀屋”のバイトは平気なの?」
「はい。昨日のうちに、今日はこのミーティングがあるから遅くなりますって話しておき
ましたから。一時間半ぐらいは遅れて行っても大丈夫です」
「そっか。でも、今日も喜久、帰り遅いんだよね?」
「そうですね。喜久さんの学校の文化祭があと二週間後に迫ってるので、ここ数日、帰り
が遅くなってます。ですから、いつもはわたしが出ない曜日でも、代わりにお店に出てる
んですけど…」
「今日、香菜ちゃんも喜久もいなくて、あの店大丈夫なのかな?」
「店長さん夫婦…喜久さんのお父さんとお母さんががんばるからって言っていました。最
近お二人、わたしや喜久さんによく言ってるんです。この店で働くのは後になってからで
もできる。今は、高校生としてしかできないことをやれって」
「そうかあ、あの二人、両方とも高校中退だからなあ。そう言う気持ちもわかるよ」
 俺たちがそんなことを話しているうちに、遅れていた部長が部室に入ってきた。
「いやー、悪い悪い。遅れちまった。えーっと、全員そろってるな?」
「一番最後に来た人間が何言ってるんだよー!」
 部長と同じ3年生の部員がやじを飛ばした。
「悪かったよ。それじゃ遅れてるし、さっそくミーティングを始めたいと思う。ちょうど
一ヶ月後に文化祭があるのは知っての通りだが、そこで我が漫画部は何をやったらいいだ
ろうか?」
 という感じでようやく漫画部のミーティングが始まった。そして、十数分の話し合いの
後、結論が出た。
「よし、それじゃあ今年の漫画部の出し物は似顔絵描きに決定ってことでいいな?」
「似顔絵描きかあ。そーゆーのって漫画部じゃなくて美術部がするもんじゃあ…」
「漫画部だって絵を描く部活動だ、やったっていいだろう。それに今年の美術部は油絵の
展示ってことだから、かぶりはしない。それじゃあ各自当日までみっちり練習すること。
ってなわけで今日のミーティングは終了。帰っていいぞー」
 そう部長が言ったのだが、その部長を含め、帰る部員はほとんどいなかった。みんな他
の部員を相手に似顔絵描きの練習を始めたんだ。もちろん俺も同じ2年生部員に声をかけ
て練習を始めた。

 漫画部のミーティングが終わってから、俺は相手を変えつつ何枚かの似顔絵を描いた。
みんな結構うまいと言ってくれたが、自分ではまだまだだと思っている。そして時計を見
ると描き始めてから一時間ぐらいが過ぎていて、気づくと3年生部員は全員帰っていた。
「よし、それじゃ俺もそろそろ帰るか。それじゃみんな、お先ー」
 そう言って俺は帰り支度をして部室を出たのだが、後ろから声が聞こえた。
「センパーイ」
「あっ、香菜ちゃん。君ももう終わりにしたの?」
「はい、“鬼賀屋”でのバイトがありますので…」
「あーっ、健吾くんと香菜ちゃんだあー」
 俺たちの会話に割り込むように、声がした。そちらを見ると、俺の恋人である克美さん
が俺たちに向かって小走りで近づいてきた。
「二人とも、やっほー」
「やっほーはいいんですけど、どうして克美さんがこの部室棟にいるんです?克美さんっ
て、何の部活もやってませんでしたよね?」
「うん、無所属だよ。でも文化祭の時は毎年、お料理部の助っ人やってるんだ」
「そうなんですか。…あっ、お二人ともすみません、バイトの時間が迫ってますので、わ
たし…」
「あっ、そうなんだ。引き止めてごめんね香菜ちゃん。あっ、そうだ。ねえ健吾くん、ボ
クたちもあのお店に食べに行かない?」
「俺はいいですけど…片瀬先生の夕飯は大丈夫なんですか?」
「平気平気、ボクらが学校帰りにあの店に寄ってくのは、よくあることでしょ?お父さん
だってわかってるよ」
「それもそうか…じゃあ、行きましょうか」
「おーっ!」
 というわけで俺たち三人は学校を出てラーメンの“鬼賀屋”に行った。店に入ると開口
一番、香菜ちゃんが言う。
「すみません、遅くなりました!」
 その香菜ちゃんの声に、店の親父さんが奥の方から答える。
「香菜ちゃんかい?平気だよ。だってまだ昨日話した時間になってないんだから」
「よかった…。それじゃわたし、奥で着替えてきます。センパイ、克美さん、ごゆっくり
どうぞ」
 そう言って香菜ちゃんは店の奥に消えた。その後に、今度は親父さんが奥から顔を出し
て俺たちに言ってきた。
「健吾と克美ちゃんも来たんか。ま、ゆっくりしていきな。二人とも、何食うんだい?」
「ボク、Kスペ!」
「俺は普通のラーメンでいいや」
「あいよ。二人とも、どこか適当なテーブルで待っててくれ」
「はーい」
 と、俺たちがテーブルにつこうとしたその時、店の戸が開いて、一人の男が飛び込むよ
うに入ってきた。
「親父さーん、喜久さん帰ってるー?」
 仁だった。帰宅部のこいつは俺たちが部活をしている間に一度家に帰ったのか、制服で
なく私服になっている。そしてこの男の質問に、親父さんはぶっきらぼうにこう言った。
「まだ帰ってねーよ」
「あっ、そう。何時ごろ帰ってくるの?」
「知らねーって。今週の土日が文化祭本番なんだ、遅くまで準備やるかもしれねーしな。
それより仁、せっかく来たんだ、何か頼め」
「最初からそのつもりだよ。ミソラーメン頼むよ」
「あいよ」
 と、ここでようやく仁が俺と克美さんに気がついた。
「あれ、来てたんだ二人とも」
「俺たちも今来たところだよ。それにしても、何の部にも入ってないヤツは気楽でいいよ
な。俺たちなんか、ついさっきまで部活やってたってのによー」
「そう言うな。俺だってこれからバイトに行くんだからさ。その前に腹ごしらえと、愛し
の喜久さんの顔を見ようと思ってここに来たんだけど…」
「喜久さんはまだ帰ってきてなかったね。残念だったね仁くん」
「そうっスね。あーあ、バイトの時間ギリギリまでここで待っててみようかなー」
「好きにしろ。まあ、立ってるのも何だし、ここ座れよ」
「サンキュー、健吾」
 こうして仁も俺たちと同じテーブルについた。そしてラーメンを待つ俺たち。そのうち
店の奥から仕事用のエプロンに着替えた香菜ちゃんが出てきて、仕事を始めた。そんな中
で、俺は克美さんにこんなことを聞いてみた。
「克美さん、克美さんって文化祭の時は毎年お料理部の手伝いやってるんですか?」
「うん、そうだよ。いつも、あの部のお友達が誘ってくれるんだあ。普段は家のことが忙
しくてできないけど、こういう時ぐらいはって」
「いいお友達ですね。あっ、克美さんって他の家事も得意ですよね?そういった部の助っ
人はやらないんですか?」
「うーん、お料理以外のはやったことがないなあ…あっ、家事とは全然関係ないけど、一
つあった」
 思い出したように克美さんが言い、そして俺にたずねてきた。
「健吾くんは、『魔法盗賊マジカルマリーナ』って知ってる?」
「えっと…名前くらいは。確か、何年か前にテレビでやってた、魔法少女物のアニメです
よね?」
「うん、そう。それでね、それの主人公の…誰だったっけ?」
「海野水紀…じゃありませんでしたっけ?」
「あっ、そうそう。その娘だ」
「おい健吾、おまえなんでそんなこと知ってるんだ?実は見てたとか?」
 仁が口を挟んできた。
「見てたわけじゃねーよ。ジャンルは違えど、漫画やアニメが好きな人間ならそれくらい
は知ってるさ。で、そのヒロインがどうしたんですか?」
 俺がまた克美さんに聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「うんとね、高校1年の時ね、その娘のコスプレしたの」
「はあっ!?な、なんでまた、そんなことを…」
 思わず大きな声を出した俺の質問に、克美さんはこう答えた。
「1年の時、同じクラスにアニメ同好会の男の子がいて、やってくれないかって頼まれた
の。ボクが主人公のマジカルマリーナで、あと、別の娘がライバルのデッドスペクターを
やったんだ」
「アニメ同好会?うちの学校にそんな部活ありましたっけ?」
「その年で廃部になっちゃったの。大島伴くんって子が、がんばってたんだけどねえ」
 克美さんが言ったその名前を聞いて、思わず俺の動きが止まった。そんな俺に仁が聞い
てくる。
「おーい、どうした健吾?今の人が、何かあったのか?」
「その大島さんって、今の漫画部の部長だ…。あの人、昔そんなことやってたのか…」
「あー、そうだ。そういえば彼、漫画部とアニメ同好会の掛け持ちしてたんだっけ」
「ところで克美さん、その時着た服はどうしたんですか?」
 なぜか、仕事をしていた香菜ちゃんが話に加わってきた。
「文化祭の後、記念にくれるって言うからもらったよ。今も家のどこかにあると思う」
「それじゃ、よかったら今度見せてもらえませんか?参考にしたいんで…」
 おいおい、何の参考だよ…って、香菜ちゃんって服作りが好きだったんだ。前々からそ
の予兆はあったけど、とうとうコスプレに手を出し始めたってことか。それで、香菜ちゃ
んにこう言われた克美さんがこんな風に答えた。
「いいよ。全然OK。なんだったら、久しぶりに着てみてもいいし」
「本当ですか?ありがとうございます」
 今の克美さんの様子からすると、一昨年の文化祭の時も結構乗り気でやってたようだ。
父親が漫画家なだけあって、そういうのが嫌いじゃないってことか。と、ここで俺は、と
あることを思い出した。克美さんがやったマジカルマリーナ、劇中では小学5年生の女の
子だった(ちなみにデッドスペクターは女子大生)。なるほど、部長が克美さんを選んだ
のもよくわかる。小学生の役をやってまるで無理のない高校生もどうかと思うけど、それ
が克美さんなんだから問題はないだろう。そして、俺がそんなことを考えていると−。
「ただいまー」
 そんな声と共に、一人の女の子が店に入ってきた。喜久だった。彼女の姿を見た仁が嬉
しそうな顔になる。
「喜久さーん!俺のいる間に帰ってきてくれたんだぁ!会えてよかったあ!」
 そして仁は席を立つと、喜久に迫っていった。だが、ある程度まで近づいた時、喜久が
持っていた鞄を自分の前に差し出して仁をブロックした。それにまともに突っ込む仁。
「むぎゃっ!痛てててて…モロに鞄とキスしちゃったよ…。ひどいよ喜久さん…」
「あら、ごめんなさい仁くん。身の危険を感じたから、つい、ね」
 謝ってはいるが、喜久の顔は微妙に笑っていた。うーん、ある意味小悪魔みたいな娘だ
なあ…。そんなことを思っていると、喜久が俺たちに気がついた。
「あっ、健くんと克美さんも来てたんだ。いらっしゃいませ」
「ああ、お邪魔してるよ。それより喜久、思ってたより早かったね。今週末が君の学校の
文化祭だから、もっと遅くなるかと思ってたんだけど…」
「今日は香菜ちゃんが来るのが遅くなるって昨日聞いたから、クラスのみんなに早く帰ら
せてもらったの。だけど、それでも香菜ちゃんより遅かったみたいね。あっ、そうだわ。
ちょうど全員そろってるし…」
 そう言うと喜久は持っていた鞄を開けて、中から何かを取り出した。それが何か、仁は
一発でわかったようだ。
「あっ!喜久さん、それってもしかして、君の所の文化祭のチケット?」
「うん、そうよ。いる?」
 そんなことを言いながら喜久はその数枚のチケットをヒラヒラさせる。そうだ、喜久の
学校は私立の女子高で、校外の人間が文化祭に参加するにはチケットが必要だったんだ。
去年そのことを知った時は驚いたっけ。で、目の前で揺れる紙を見ながら仁が言う。
「もちろんいる!いやあ、喜久さんからくれるって言ってくれるなんて嬉しいなあ」
「あげるわけじゃないわ。2000円ね」
 その喜久の言葉に仁が一瞬固まった。が、すぐさま動きを取り戻して言う。
「えーっ、お金取るのーっ?」
 すると、こう言われた喜久はくすりと笑ってからこう言った。
「やあねえ、冗談よ、冗談。友達のあなたに売りつけるなんてことはしないわ。ただでい
いってば。はい、あげる」
「あっ、ありがとう。そうか、冗談か。そりゃそうだよね。あーよかった。うん、確かに
本物だ。今度の日曜日ね」
 仁はほっとして受け取ったチケットをしげしげと見ている。俺はそんなこの男を横目に
喜久にこう言った。
「ねえ喜久、そういう冗談はやめた方がいいと思うよ。噂なんだけど、君の学校って美人
ぞろいで外部の人間の憧れの的だから、文化祭のチケットがネットオークションで売られ
てるって話を聞いたことがあるんだ」
「えっ、そうなの?知らなかったわ。それはともかく、健くんもいるでしょ?」
「そうだな、仁が行くとなったら、こいつの暴走を抑えるために俺も行かなきゃな」
「何だよそりゃ。俺が暴走なんてするかよ」
「暴走ってほどじゃないけど去年の文化祭ではわたしの友達に声かけまくってたわよね」
「うっ…」
 喜久の言葉に仁は言葉を詰まらせてしまった。
「まあ、あれぐらいならとりあえず大丈夫だけどね。それじゃあ健くん、はい」
「ありがとう」
 俺は喜久に礼を言ってチケットを受け取った。そして彼女は手の中の紙を数える。
「チケットは生徒一人に五枚配られるから残りはあと三枚ね。克美さん、来てみます?」
「次の日曜だったよね?ごめん、受験の模試があるから、ボク行けないや」
「あっ、そうなんですか。克美さん、受験生ですもんね。それじゃあ香菜ちゃんは…香菜
ちゃんも無理ね」
「そうですね。喜久さんがいない分、このお店で働かなきゃいけませんから…」
「そうよね。ごめんね香菜ちゃん、わたしのせいでいつもより働かせちゃって」
「わたしは大丈夫です。その代わり、喜久さんの所の文化祭が終わってわたしたちの学校
のが終わるまでの間は…」
「わかってるわ、今度はわたしがあなたの代わりにがんばるから。それはそうと、お父さ
んもお母さんもダメだろうし、残り三枚どうしようかしら…」
 そう言って喜久は何やら考え始めた。そして少ししてから俺にこんなことを言った。
「ねえ健くん、ネットオークションのやり方ってわかる?」
「冗談だよね!?それもさっきのと同じく、冗談だよね!?」
 俺は思わず大きな声を出してしまった。そんな俺を見て、みんなが笑った。結局喜久の
言葉はやっぱり冗談だったので、すごくほっとした俺がそこにはいた。

ページのトップへ
図書室へ
ご意見などはこちら