<前書き>
 この話は「はいれ」と「でてけ」がクロスオーバーした続編になっています。「はいれ」はこちらで、「でてけ」
こちらで読めますのでぜひ一読を。
タイトル
 「バイトでファイト」
登場人物
 氷室達也(ひむろたつや)
 風間昇(かざまのぼる)
 沢登晶(さわのぼりあきら)
 栗本翔(くりもとかける)
場所
 栗本のアパート、風間の都屋

     (風間と氷室がドアから入ってくる)
 風間: 劇団の練習があるのに、わざわざすみませんね、氷室先輩。
 氷室: 今日は休みだから構わんさ。
 風間: 金がかなりピンチで、バイト探してるんですよ。で、バイト紹介人をしてる氷室先輩のお世話になろうと思いま
して…。
 氷室: ふわははは、任せておきたまえ。演劇を通じてつちかったこの人脈があれば楽勝よ!
 風間: はあ…。そういえば、劇団に新しい人が入ったって聞きましたけど?
 氷室: うむ、一年の小山田二郎という男だ。
 風間: えっ、彼がCDKに入ったんですか?
 氷室: 何だ、知り合いか?
 風間: 同じ学年ですから。先輩、小山田には変なことしてないでしょうね?
 氷室: ふはははは、彼は筋がいい。そのうち無敵の演劇戦士にしてくれる。
 風間: またそんなことを…。そんなことばかりしてると、俺みたいに逃げちゃいますよ、あいつも。
 氷室: なあ風間くん、戻ってきてはくれないか?小山田くんが入っても男子部員は彼と俺しかいないんだ。
 風間: 男子部員がやめていった原因はあなたでしょう?自業自得ですよ。
 氷室: そんなこと言わないでくれたまえ。いいバイトを教えてやるから、な?
 風間: ちょっと心ひかれますが、それはそれ、これはこれです。
 氷室: まあ、仕方ないか。
     (ノックの音)
 栗本: 昇さん、いいですか?
 風間: どうぞ。
 栗本: (入ってくる。おぼんにお茶などを乗せている)昇さんとそちらのお客様にお茶などを持ってきましたので、ど
うぞ。
 風間: あっ、どうも。
 栗本: それじゃあ。(出ていく)
 氷室: 彼女はここの大家かね?
 風間: ええ、そうですよ。
 氷室: ふーん、へえ、そうか。ほうほう…。
 風間: 何ですかその意味ありげな言葉は…。
 氷室: 気にするな。それではさっそく、バイトの紹介を…。
 風間: あっ、ちょっと待ってください。(隣の部屋とつながっている壁の穴に向かって)おい晶、ちょっと来い。
 沢登: なあに?(穴から出てくる)
 風間: 今朝話しただろう?この人がアルバイトでバイトの紹介をやってる氷室先輩だ。
 沢登: あっ、そうなんだ。こんにちは。
 氷室: うむ、こんにちは。風間くん、誰だね?
 風間: さっきの大家さんの妹です。
 沢登: 沢登晶でーす。女子高生やってまーす。
 氷室: そうか。む、これは?うむ、うむむむむ…。(なめまわすように沢登を見る)
 沢登: 何?ねえ、何なの?
 風間: どうしたんですか、そんないやらしい目で晶のこと見て?
 氷室: いやらしいとは失敬だな!俺は演劇に向いている体だなと思って見ただけだ!
 沢登: は?
 氷室: うーむ。実に理想的だ。まさに演劇をやるための−骨格だ。(風間と沢登、こける)
 風間: 骨格って…別に骨格で演劇やるわけじゃないでしょう。
 氷室: いーや、これからは骨だ!これから人間は、骨で物事を表現するようになる!名付けてボーンアクト!
 沢登: そのまんまじゃない…。
 氷室: いいじゃないか別に。ところで風間くん、なぜこの娘を呼んだのだ?
 風間: 実は、俺が金欠なの、半分はこいつのせいなんですよ。だからこいつにも手伝わせようと思って。
 沢登: 何だよー、ボクの責任って?
 風間: おまえ、俺にあれ買えこれ買えってうるさくしたろう。そのせいで俺は金がピンチなんだ。
 沢登: だったらダメって言えばよかったじゃない。そうすればボクだって…。
 風間: あのなあ、いつだったかそう言ったら泣きわめいただろうがおまえは!
 氷室: (ヤンキー座りをしてタバコを吹かすまねをしながら)けーっ、何だよ、いちゃついてんじゃねーよてめーら。
 沢登: 何か、いきなり性格変わってるんだけど…。
 風間: 先輩、別にいちゃついてるわけじゃないですよ。それに先輩にだって彼女いるじゃないですか。
 氷室: う、うむ、そうだな…。最初、俺とあいつは目的が同じだったから互いに利用し合っていただけなのだが…。
 沢登: そのうちに恋心がってヤツ?目的って何なの?
 氷室: ふっ、聞いて驚くな。それはなあ…世界征服だ!はーはっはっは!
     (間)
 沢登: あー、驚いた…。
 風間: うん、びっくりしたな…。
 氷室: 見ていろ人間ども。やがて世界は俺たち二人が支配するのだ!ふわーっはっはっはっは!(ずっと笑っている)
 沢登: …ねえ昇、この人大丈夫?
 風間: 大丈夫だとは思うけど…断言できないのが辛いね。
 氷室: はっはっはっはっはっはっはっは…ごほっ!ごほごほごほ…。
 沢登: ほらほら、何かお約束のギャグやってるし…。
 風間: 大丈夫だ、たぶん…。
 氷室: こほん…。それでは本題に入ろう。とその前に、一服いいかな?
 風間: あれ?先輩、タバコ吸いましたっけ?
 氷室: (薬の包みを出し、湯飲みに入れる)さあ、飲んでくれたまえ。
 風間: 一服盛ってどうするんですか。
 氷室: ははは、軽いモンゴリアンジョークだ。
 沢登: …普通はアメリカンジョークだよねえ?
 風間: 先輩、そんなバカやってる暇があったら、早くバイト紹介してください。
 氷室: バカとは失敬な…。まあいい。それでは今度こそ本題に入ろう。
     (ノックの音)
 風間: ん?どうぞ。
     (栗本が入ってくる)
 風間: あれ、翔さん?まだお茶菓子とかはありますけど…。
 栗本: いえ、そうじゃないんです。あの、アルバイトの話なんですけど…私も混ぜてもらえないでしょうか?
 沢登: お姉ちゃんが?
 栗本: 最近みんな食欲があるみたいで、ちょっと食費が…。それで…。
 氷室: 任せておきたまえ!みんなまとめて面倒を見ることとしよう!
 栗本: ありがとうございます。
 氷室: それでは…。(手帳を取り出す)さて、どんなバイトがしたいのかな?
 風間: そうですねえ。ちょっとぐらいきつくても時給が高いヤツがいいですね。
 氷室: なるほど。ではこれはどうだ?氷室達也必殺技実験台、時給1500円。ただしケガをした場合の治療費は含み
ません。
 風間: …遠慮しておきます。
 氷室: ちょっとぐらいきつくてもいいと言ったではないか。
 風間: ちょっとじゃないでしょう。命に関わりますよ。
 氷室: 仕方がないな。それではこれなんかどうだ?「ザ・マッチョメン」というバーだ。
 風間: はあ?
 氷室: (ポージングをして)筋肉質のあなた、その肉体美をお客様の前で思う存分披露してみませんか、ムフッ!
 風間: …パスします。
 氷室: そうか。まあ確かに君はそれほど筋肉質ではないからなあ。
 風間: 例えムキムキでもやりませんよ。他にはないんですか?
 氷室: そうだなあ…。(手帳をめくる)
 沢登: ねえねえ、ボクにできるアルバイトないかな?
 氷室: 君か?うーんと…おっ、これなんかどうだ?
 沢登: 何?
 氷室: 女性の下着、古着、高く買い取ります。特に女子高生大歓迎。
 風間: 先輩、それって要するに…。
 栗本: ウルトラ。
 風間: ブルセラ。
 沢登: ボク、そんなのやだよお…。
 風間: というわけなので、違うのをお願いします。
 氷室: まったく注文の多い。それでは…おっ、これは。そちらの大家さん、家事などはできますかな?
 栗本: はい、毎日やってますから得意です。家事手伝いのお仕事ですか?
 氷室: その通り。ただし服装に注文があって…。
 栗本: どんな服装ですか?
 氷室: ズバリ、裸エプロン。
 風間: やば過ぎるー!
 栗本: お断りします。
 沢登: そりゃそうだよね…。
 栗本: こんな時期にそのような服装をしたら、風邪をひいてしまいますから。
 沢登: お姉ちゃん、論点が違うよ!
 風間: (半泣きで)先輩、もういいです。多少稼ぎが悪くてもいいから、普通の職種をお願いします…。
 氷室: そうかそうか。人間、やはり地道に働くのが一番だよ。
 沢登: だったら変な仕事ばかり紹介しないでよ…。
 氷室: それじゃあこんなのはいかがかな?時給900円のパン屋。業務内容はごく普通の…おや?どうした君たち?
 栗本: (おぼんの上から物をどける)昇さん、これ使いますか?
 風間: ええ。(おぼんを受け取る)
 氷室: どうしたというのだいったい?
 沢登: そんなまともでそれでいて給料がいい仕事があるんだったら…。
 風間: 最初に言ってください!(おぼんで氷室を叩こうとする)
 氷室: おっと。(おぼんをよけてそのまま窓の方へ逃げる)とうっ!(窓から飛び降りる)
 栗本: えっ、ここ二階!
 沢登: (窓の外を見て)…大丈夫みたい。こっちに向かってピースしてる…。
 栗本: あらそう。じゃあいいわ。(風間からおぼんをもらい、乗っていた物を戻す)
 氷室: 金が必要になったら呼びたまえ!バイト紹介人氷室達也は、いつでも君たちの前に現れるぞ!
 沢登: だから今必要なんだってばー!あっ、こら、逃げるなー!…行っちゃった…。
 風間: あう、結局バイトの紹介してもらえなかった…。
 栗本: ねえ二人とも、ここにメモが落ちてたんだけど、これってさっきのパン屋の電話番号じゃない?
 風間: どれどれ…。あっ、間違いなくそうだ!ラッキー!
 沢登: さっそく電話してみようよ。ボク、電話持ってくる。(ドアから出ていく)
 風間: いやあ、よかったよかった。もしかすると、先輩、わざと落としていってくれたのかな?
 栗本: でも、何か嫌な予感がするのは私だけかしら?
 沢登: (電話を持って入ってくる)はい、持ってきたよ。
 風間: サンキュー。さて、それでは…。(電話をかける)ああ?何だって?知るかそんなこと!(電話を切る)
 沢登: どうしたの?
 風間: どこかのテレクラにつながった…。
 沢登: えっ?
 風間: は…はははははは…。
 栗本: ほほほほほ…。
 沢登: あははははは…あの先輩、ぶっ殺ーす!
 栗本: 晶ちゃん、女の子がそんな言葉使っちゃダメよ。
 沢登: でも、この怒りは収まらないし…。
 栗本: それでも女の子なんだから、「この世から存在を抹消して、ついでに一族を根絶やしにしてやる」って言いなさ
い、ね?
 沢登: お…お姉ちゃん…。
 風間: 俺はこの時、氷室先輩よりもこんな恐ろしいことを平然とした顔で言う翔さんの方が怖いと思った…マル。
 栗本: やっぱり基本は、撲殺よね。(オチの音楽の後に暗転、END)

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