極!

「何だこれは?」
 輝(主人公)の率いるパーティーはとあるダンジョンでアイテムを見つけた。一つの箱である。
「開けてみればわかるんじゃない?」
 フィリーが言う。
「ちょっと貸してみてください。おや、箱の周りに何か書いてありますね…」
 輝から箱をもらうと、メイヤーはそれを調べ始めた。
「ねえ輝さん、ボク、なんだか嫌な予感がする…」
 耳をぴょこぴょこさせながらキャラットが言った。
「この箱に入っている物がわかりました。この中には、『殺○の波動に目覚めし者』の魂を宿した数珠が入っています」
 そう言うとメイヤーは箱を輝に返した。
「『○意の波動に目覚めし者』?」
「何十年か前、この地方で暴れ回っていた無敵の格闘家です。闘いを挑んできた何人もの戦士たちを打ち倒してきました。最後は同じ
力を持つ格闘家に倒されましたが…」
「その魂を宿した数珠か…。だったらそれをつければものすごいパワーアップができるんじゃないか?」
「そうかもしれませんね。ですが呪われている可能性も…。まだ箱に何か書いてあるので、それを解読してからの方が…」
「呪われてたら私が何とかするわよ。輝、つけてみなさいよ」
 フィリーが輝をうながす。
「よし…」
 そう言うと輝は箱の蓋を開けた。確かに数珠が入っていた。輝はそれを首にかけようとする。
「輝さん!」
 キャラットが叫んだがもう輝は数珠をつけてしまった。そして、待つこと数秒−。
「あのさ…何も起きないんだけど…」
 輝の体には何の変化も見られない。
「本当に何も起きないのかなあ?輝さん、ボクに貸してよ」
「ああ、いいよ」
 そして輝から数珠を受け取ったキャラットはそれを首にかけた。するとその瞬間−。
「うわあ!?」
 急にキャラットが大きな声をあげて頭を押さえた。
「キャラット、大丈夫か!?」
「頭が…頭が痛いよう!!」
 そうして痛がっていたキャラットだったが、突然苦しむのをやめた。
「キャ…キャラット…?」
 心配そうにフィリーがキャラットの顔を覗き込む。が−。
「きゃー!眼が、眼が!」
「フィリー、眼がどうかした…えっ!?」
 輝も思わず声をあげた。何と、キャラットの眼が赤く光っているのである。そして彼女は言った。
「我が名はキャラット!ウサギを極めし者なり!」
 そう言うとキャラットは側の壁に鉄拳を叩き込んだ。壁に大きなひびが入る。しばしの沈黙。その沈黙を破って輝が言った。
「…ねえメイヤー、どういうこと?」
「どうやらこれが数珠の効力のようですね」
「どうしたらいいかな、私たち…」
「逃げましょう」
「ラジャー!!」
 三人は一目散にその場から走り去った。残ったキャラットは−。
「うおおおおおお!」
 おたけびとともに壁にパンチやキックを入れる。壁はどんどんと破壊されていった。
「いったいどういうことなんだよ!?」
 輝がメイヤーに問いつめる。彼らはキャラットから逃げ、物かげに隠れていた。
「ですからあれが数珠の効力です。あの数珠をつけると強大な力を手にいれることができますが、同時に殺○の波動に目覚め、あらゆ
る破壊活動を行うようになるとあります」
「俺がつけた時には何も起きなかったぞ」
「この箱の説明によるとですね、○意の波動に目覚めることができるのは、ある一つのことを極めた人だけのようです。私がつければ
考古学を極めし者とかになるんでしょうね」
「つまり俺は何も極めていない半端者だと…?それじゃキャラットは何なんだよ?ウサギを極めし者って何だよ?ウサギに極めるとか
極めないとかあるのかよ!?」
「そんなことを私に言われましても…。数珠に宿った魂がそう判断したのですから」
「そんないいかげんな!」
「輝、声が大きいわよ!キャラットに見つかったらどうするのよ!!」
「そこにおったか」
 すでに遅かった。三人の背後にはキャラットが立っていた。相変わらず眼は赤く光っている。
「ふはははははは…弱者には死、あるのみ!!」
 いつものかわいい声で恐ろしいことを言うキャラット。また輝たち三人は逃げ出した。走りながら輝がメイヤーにたずねる。
「おい、キャラットを元に戻す方法はないのか!?」
「数珠を外せばおそらくは元に戻るでしょう。ですが、この箱の解説によると…」
「よし!」
 メイヤーの言葉を最後まで聞かず、輝は足を止め、キャラットを迎え撃つ準備をした。
(あの技なら数珠だけを破壊することができる!)
 そう心の中でつぶやく輝。そしてその輝に向かってくるキャラット。二人はお互いの射程に入った。
「でありゃあ!」
 渾身の一撃を放った輝だったが、キャラットはそれをかわした。そして逆に輝を捕まえたのである。
「しまっ…!」
 次の瞬間、辺りがフラッシュした。光の中、打撃音が響きわたる。
「ぐわああああああああっ!!」
 輝の叫び声だ。周囲の明るさが元に戻ると輝は地面にはいつくばっていた。キャラットはそのすぐ側で仁王立ちをしている。背中に
“兎”の文字が光っていた。そして次に彼女は物かげからこの様子を見ていたフィリーを見つけると−。
「ふわーはっはっは、滅○、○殺ぅ!」
「きゃー!助けてー!」
 キャラットはフィリーを追いかけていった。
「あの…輝さん、生きてます?」
 フィリーとは別の所に隠れていたメイヤーが出てきて輝に近づく。
「な…何とか…」
「あのですね、この箱に書かれているんですが、あの数珠の効力は30分で一度切れるそうです。その後10分間チャージして、また
30分間暴れるんだそうです。ですから、チャージの間に数珠を外せばいいわけなんですね」
「そういうことは早く言ってよ…」
「言おうと思ったら、輝さんが勝手に引き返してしまうものですから…あれ?輝さん?輝さん!?」
 輝はすでに気を失っていた。

「う…ううん…」
 しばらくして、輝は目を覚ました。
「あっ。輝さん、大丈夫!?」
 目を覚ました輝のすぐ上にキャラットの顔があった。もう眼は赤くない。
「キャ、キャラット!?おまえこそ大丈夫なのか!?」
「うん、平気だよ。メイヤーさんが数珠を取ってくれたから」
「そうか…あれ?何か、頭が…」
 輝は自分の頭が妙に柔らかい物の上に乗っていることに気がついた。 するとフィリーが言った。
「輝がこんなになっちゃったのは自分のせいだからって、キャラットが膝枕してくれてるのよ。災い転じてってヤツね」
「あ、ありがとう、キャラット…」
 顔を赤くして輝が起き上がる。顔が赤いのはキャラットも同じだ。
「輝さんが気を失っている間にいろいろと調べてみたのですが、数珠の効力が発揮されるのはこれを身につけている間だけで、外すと
もう後遺症とかはないみたいですね」
 メイヤーがそう言ったが、なぜか口調がきつい。
「あの…メイヤー、怒ってる?」
「別に…」
 そうは言うものの、やはり彼女は怒っているようだ。そんなことは気にせずにフィリーが言う。
「さあ、余計な時間くっちゃったけど、早く行きましょう。このダンジョンに入った目的は他にあるんだから」
「そうだな、行こう。あれ?そういえばあの数珠は?」
「ちゃんと箱に戻したよ、ほら」
 キャラットが数珠の入った箱を輝に見せた。
「それじゃこれはここに捨てておこう。またキャラットがあんな風になったら困るし」
「そうだね。それじゃ、行こう!」
 そうして箱を残し、四人はダンジョンを進むのであった。

 それから少しして−。
「いたっ!アルザ、急に止まらないでよ!」
「そんなこと言うたかてリラ、けったいな箱が落ちとるんやもん」
 カイルの命令で、先発隊としてこのダンジョンを探索に来た二人だ。
「箱?何か入ってるの?」
「わからへん。開けてみればわかる…およ、何やこれ?」
「これって数珠よ。首にかけるアクセサリー。残念だけど食べられないわ」
「何や、食いもんやないんか」
 がっかりするアルザを横目に、リラはこんなことを考えた。
(思いっきり怪しいわね、これ。いつものように試しにアルザにつけてもらいますか)
 そして彼女は言う。
「ねえアルザ、これつけてみてくれないかなあ?」
「またか?別にええけど」
 そう言って数珠をかけるアルザ。
「まったく、こんなことしても腹の足しにも…うわっ!?」
「アルザ、どうしたの!?」
 リラが言う。アルザの眼が赤く光った。
「我が名はアルザ!大食いを…」
「きゃーっ!?」
 以来、リラは正体不明のアイテムをアルザに装備させることはしなくなったと言う。

<了>

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