牙人☆アルザ(後編)

前編のあらすじ>
 アルザ・ロウは牙人族である。牙人族ははいつも何かを食べているが、それは超人的な力を制御するためである。その力でもって魔
族のカイル・イシュバーンを退治した彼女たちの旅は続く。
 亮二、アルザ、フィリーの三人はとある街の食堂にいた。それぞれが注文したメニューを食べているのだが、相変わらずアルザの食
べっぷりはものすごい。食べながら、亮二はこんなことを言った。
「俺さ、この旅やめようかと思ってるんだ」
「な、なんでよ!?」
 フィリーが驚きの声をあげた。亮二は続ける。
「もともと、異世界から迷い込んできた俺が元の世界に帰るための方法を探すための旅だろ?けど、旅をしてるうちに、このままこっ
ちの世界にいてもいいかななんて思うようになってきたんだ」
「そう…」
「実を言うと、帰りたい気持ちが半分、こっちに留まりたいって気持ちが半分なんだ。それに、もしも二人が旅を続けたいって言うの
なら、目的のない旅をしたっていい」
「うーん…」
 フィリーは腕を組んで考える。そしてアルザに聞いてみた。
「ねえ、アルザはどう思ってるの?」
「どうって、何がや?」
「あんた亮二の話聞いてなかったの!?簡単に言えば、亮二が元の世界に帰りたくなくなったから、この旅を終わりにしようって言っ
てるの!」
「この旅が終わる!?そんなん嫌や!この旅が終わってもうたら、うちはまた退屈な生活に逆戻りや!そんなん嫌や!」
「それじゃあ、俺が帰るにしろ帰らないにしろ、旅は続けるか…」
 そんな結論が出かかったその時であった。
「おい、そこの三人組!」
「誰よ?あーっ、あんた、カイル!」
 そこにいたのは、以前ゴーレムを操りとある街を占拠していた魔族のカイル・イシュバーンだった。彼はアルザにゴーレムを破壊さ
れ逃げ、以来行方知れずだったのである。
「また俺たちの前に姿を見せるとはな…。今度こそぶっ倒してやんぜ!」
 亮二は腰のダガーに手をかけた。
「ま、待ってくれ!オレは改心したんだ!貴様たちにあの街を追い出されて以来、やることなすことうまく行かなくて…」
「やることなすことって他の街の侵略?」
「そのつもりだった…。しかしゴーレムを失ったオレはあまりにも無力…。そこでオレは思ったんだ。世のため人のためになることを
しよう!そうすればみんなオレの気持ちをわかってくれる…ってな」
「おまえの気持ちって、『世界を我が物にしたい』だろ?そんなのわかってくれるヤツはいないと思うぜ」
「えーい、黙れ!とにかく今のオレは善良な一般市民なんだ!貴様らとやり合うつもりなどない!」
「そーゆーことならここでおまえをぶっ倒すのはやめてやるか」
 そう言うと亮二はダガーから手を放した。そして彼はカイルにたずねる。
「で、俺たちと闘う気がないなら、何の目的で声をかけたんだ?」
「そこなんだ!亮二、おまえは異世界からこの世界に迷い込んだんだってな?」
「なんでおまえがそのこと知ってるんだよ!?」
「悪いがさっきの話を盗み聞きさせてもらった。それでな、オレはその世界に帰る方法を知ってるんだよ」
「何いぃぃぃぃ!?」
 亮二が大きな声をあげた。
「この近くに遺跡があるんだけどな、その遺跡内に、人間を別の世界に転送する装置があるんだ!」
「そ、それは本当か!?」
「ああ。今のオレは嘘など言わんぞ」
「よし!アルザ、フィリー、さっそく行くぞ!」
「よっしゃ!」
「わかったわ!」
 そう言って三人は店を出ていこうとしたが−。
「待て待て。貴様ら、その遺跡の場所を知っているのか?」
 そうカイルに止められた。
「そういえば知らないなあ…。どこにあるんだ?教えろ!」
「まあそう焦るな。オレも一緒に連れていってくれるのなら教えてやる」
「なんであんたなんか連れていかなきゃならないのよ!」
「なあー、何でもいいからはよ行こうで」
 アルザが退屈しだした。亮二がカイルに言う。
「わかった、おまえの言う通りにする。ただし、おまえの言うことが嘘だったら…」
 亮二はダガーを抜いて刃を光らせた。
「こいつでぶった斬るからな!」
「わ、わかったわかった。わかったからそんな物騒な物はしまってくれ…」
 こうして、カイルを含めた四人で亮二たちは遺跡に向かったのである。

 四人は遺跡についた。巨大な塔が天上に向かって伸びている。
「ここから先はオレと亮二だけで行かせてくれ」
 塔の入り口でカイルが言った。
「なんでや。ここに入ったら亮二はそのまま元の世界に帰ってしまうんやで」
「そうよ。私たちはこれまでずーっと亮二と旅してきたんだから、最後の瞬間を見届ける権利があるのよ!」
 アルザとフィリーがカイルに突っかかる。
「ま、まあ、貴様たちのその主張はもっともだ。だが安心しろ。ここに入ったからと言ってすぐにこいつの世界に転送されるわけでは
ない。またオレたちは戻ってくる」
「まあ、そういうことならええか…」
「そうね」
「納得してくれたか。では亮二、行くとしよう」
「ああ」
 そうして亮二とカイルは塔の中に入った。螺旋階段がはるか上空まで続いている。その高さにぽかんと口を開けている亮二にカイル
が言った。
「おい、何を大口開けている。貴様の目指す物はこの塔のてっぺんにあるんだ。さっさと登れ」
「わかったよ。でも…」
「何だ?」
「俺が先に行くと後ろからおまえが何やるかわからないからな。おまえが先に行けよ」
「貴様、このオレが信じられないと言うのか!?」
「悪人だからな、おまえは」
「では聞くが、そう言う貴様はどうなのだ?オレが先に行って貴様が後ろから何もしないという保障だってあるまい!」
「そんなことしたらこの遺跡のことがわからなくなる。俺にとってそういうのはまずいから、俺は黙っておまえについていくよ」
「ふん、そうまで言うのなら貴様のことを信じてやろう。亮二、このオレの心の広さに感謝しろよ!」
「どうでもいいからさっさと登れよ」
 塔に入っていきなりこんな言い争いがあって、カイルが先に怪談を上っていくことになった。亮二は言葉通り黙ってカイルについて
いく。そして一時間ほどかかって、ついに二人は塔の最上階についたのである。
「この扉の向こうだ」
 そう言ってカイルが何やら呪文を唱えると扉が開いた。驚いたことに、そこには数多くのコンピューターがあったのである。
「こ、これは…!俺がいた世界のコンピューターよりすごい…。この世界にこんな技術があったなんて…!!」
 亮二はカイルを押しのけて部屋に入るとコンピューターをいじってみた。しかしよくわからない。
「うーん、わっかんねえなあ…。なあカイル、これはどういう機械…」
 そう言って亮二が振り返ると、なんとカイルが手刀を振り下ろしてきていた。
「あっ、危ねえ!」
 亮二は間一髪その手刀をよけた。
「てめー、何しやがる!?やっぱり心の底から信用してなくて正解だったぜ!」
 そして亮二は腰のダガーに手をかけた。カイルが言う。
「ちっ、運のいいヤツだ。いいだろう、教えてやる。この装置は貴様を別世界に転送する物などではない。究極の破壊兵器なのだ!」
「な…に…?」
「こいつさえあれば世界征服もたやすい。そのために貴様が必要なのだ!」
「どういうことだ!?」
「この装置ははるか昔に貴様のいた世界からやってきた人間が作り上げた物だそうだ。そしてこいつを動かすためにはその世界の人間
の肉体が必要とある」
「そのために俺を…。カイル、許さねえぞ!!」
 亮二がダガーを抜いた。
「こうなれば力ずくでも貴様を装置にセットしてやるか…」
 カイルも剣を抜いた。対峙する二人。先に亮二が動いた。
「でやああああっ!」
 一方、塔の下ではアルザとフィリーがカイルの言葉を信じ亮二の帰りを持っていた。
「遅いわねえ、二人とも」
 フィリーは退屈をもてあましていた。それはアルザも同じである。
「ほんまや。この塔がごっつ高いのはわかるけど、あいつら上で何して…ん?」
 アルザは自分の耳に何かが聞こえたような気がした。そこで耳をすましてみる。
「アルザ、どうかしたの?」
「しっ!…そんな、亮二とカイルが戦っとる!」
「えっ、どういうこと!?」
「そこまではわからんが、このままだと亮二が殺されてまう!はあっ!」
 そしてアルザは一瞬で牙人族の力を解放した。髪が逆立ち、体が一回り大きくなる。
「うち、亮二を助けに行ってくるで!」
「私も行く!」
 だが、フィリーのことを置いてアルザは塔に入ってしまった。亮二たちが一歩ずつ登っていった階段を、アルザはその何倍、何十倍
ものスピードで駆け上った。彼女には時間がないのである。牙人族の力をコントロールできるのはわずか15分だけなのだ。
「亮二、待っとれ!」
 そして再び塔の最上階。亮二はカイルに追いつめられていた。ただでさえダガー対剣という不利な組み合わせであるうえ、実力にも
差があった。
「さて亮二、オレとしてもここで貴様を殺すわけにはいかない。生きたまま装置にセットされろ。そうすればこの世界の征服に貢献す
ることができるぞ!」
「バカ野郎。そんなんだったら死んだ方がましだぜ!」
「そうか…。ならば死ね!」
 その言葉とともにカイルが剣を振り上げた。その時−。
「どおりゃあっ!!」
「うおっ!?」
 突然部屋に飛びこんできたアルザがカイルに体当たりをくらわし、カイルは壁まで吹っ飛んだ。
「き、貴様…!」
 カイルがよろよろと立ち上がり、剣を構え直す。
「おんどりゃー、亮二に何してんねん!?」
 その声と共にアルザの体から闘気が吹き出す。それだけでカイルを圧倒していた。
「くそう…こうなれば貴様も殺すのみ!きえええっ!」
 カイルがアルザに向かっていったが彼女はそれを軽くかわした。そして逆にカイルの胸ぐらをつかんだのである。
「この…放せ!」
「うちには時間がないんや。これで終わりや!」
 アルザはカイルを部屋の外へと放り投げた。そこは螺旋階段。真ん中の何もない空間に飛ばされたカイルは下に落ちていった。
「うわああああああっ!」
 その悲鳴はしだいに小さくなっていきついには聞こえなくなった。アルザは食べ物を口にして元の姿に戻ると、亮二に話しかけた。
「亮二、大丈夫かいな?」
「ああっ、だけどまたおまえに助けられちまった…ムチャクチャカッコ悪いな、俺…」
「気にすることあらへん。それより、いったい何があったんや?」
「実はな…」
 そして亮二はこの部屋にある装置のことを説明した。
「そんなけったいなもんがこの世界にあったんか…。そのために亮二やうちらだますなんて、カイルのヤツ、許さへんで!」
「その気持ちはわかるけど、許さないってもうやっちまったじゃん」
「ははっ、そやな。ほな、フィリーが待っとるし、下戻ろ」
「そうするか」
 そうして二人は階段を降りていったのだが、一番下まで戻ってきた時に奇妙なことに気がついた。カイルの死体がないのだ。最上階
から落とされた彼が無事であるはずはないのに…。
「あいつは…どこに行ったんだ!?」
「わからへん。もしかしてまだ生きとるんか!?」
 そこで亮二たちは周囲は見渡し神経を研ぎ澄ました。だが何も見えないし感じない。
「何がどうなってるのかよくわからないけど、とにかくここにはいないみたいだな」
「そやな。とにかく、外出よ」
 アルザたちは塔の外に出た。外ではフィリーがそわそわしてぱたぱた飛んでいた。そして塔から出てきた二人に気がつくと−。
「あーっ、あんたたち!…よかった、無事だったのね…」
「フィリー、ごめん。俺がカイルの口車に乗ったばっかりに…」
「もうええって。それよりフィリー、うちらより先にカイルが出てこんかったか?」
「えっ?」
 アルザの言葉にフィリーが驚いた顔をした。そして少し考えこう言った。
「カイルは出てこなかったわ。でも、塔の上から何か光が…」
「光?」
「ええ。真っ白な光が、あっちの森の中に落ちていったの」
 この言葉に亮二とアルザは顔を見合わせた。そして何も言わずにうなずき合うと、フィリーのさした方角へ走り出そうとした。
「待ちなさいよ!また私を置いてくつもり!?」
「あっ、ごめん。じゃあ、この中にでも入ってろ」
 フィリーを亮二のポケットの中に入れ、今度こそ二人は走り出した。彼らは走り、そしてたどりついた。森の中に、いん石でも落ち
たのではないかという跡があったのである。
「この近くにカイルがいるのか…?」
「わからへん。少なくともうちは何も感じへんで」
「俺も何も感じない。結局無駄骨だったか…」
「ごめんね、二人とも。私の情報、役に立たなかったわね」
「まあいいさ。とにかく、あの塔には俺を元の世界に戻す物なんてないわけだし、一度街に戻ろう」
「うん」
 そうして三人がいん石跡に背を向けたその時−。
「うっ!?」
 亮二が声をあげた。その声にアルザとフィリーが振り返ると亮二が倒れていた。そしてそこには全身黒ずくめの男がいたのだ。
「カイル!?どういうこと!?」
「何があったかはオレにもわからん。だがオレは生きている。そして生きたままの亮二を手に入れることができた!天はオレに味方し
た!」
 そう言って亮二を抱えあげるとカイルは塔へ向かって走り出した。ものすごいスピードである。
「おんどりゃー、待たんかい!」
 アルザはカイルを追って走り出した。フィリーは彼女にしがみついている。だが、アルザが走ってもカイルには追いつけない。
「あいつ、人一人かついどるのに何てスピードなんや!?」
 とうとうカイルは塔の中に入ってしまった。それに続いてアルザも中へ。再び螺旋階段を登ることになった。ここまで来てもカイル
とアルザの距離は縮まらない。そしてついに最上階にたどりついたカイルは扉を閉めてしまった。
「亮二!亮二ー!!」
 遅れてたどりついたアルザが扉を叩く。しかし開かない。
「怒るのよ、アルザ!」
「おおおおおおっ!」
 アルザが力を解放し、扉に一撃を加えた。
「ふふふ、ここまでうまく行くとはな…」
 扉の向こうではカイルが装置を動かす準備をしていた。壁にある十字架に亮二を手かせ足かせではりつけた。
「さあ、準備は整った。究極の破壊兵器よ、その力を示せ!」
 そのカイルの声と共に部屋中の機械が動き出した。
「ふははははは、これで世界はオレの物だー!」
 しかし、次の瞬間カイルの体が光に包まれた。そして部屋の壁の一部分が開いた。
「何だこれは!?いったい何が…うおっ!?」
 カイルは見えない力に押され、開いた壁から打ち出されてしまった。おそらく、さっきフィリーが見た光もこれと同じ物なのであろ
う。カイルが部屋からいなくなった後、壁は元に戻った。
「ううっ…何が起きてるんだ…?」
 十字架にはりつけられたままの亮二が目を覚ました。その彼に語りかける声がする。
「ようこそ、我が主」
「誰だ…?」
「私はあの男が言っていた究極の破壊兵器です。私はあなたを主人と認めました。さあ、ご命令を。あなたの命令があれば、私はこの
世界の全てを壊すことができます」
「そんな命令なんかしねえよ!そんなことより、こんな状態の俺を解放しろよ!」
「それはできません。すでにあなたと私は一心同体です。さあ、ご命令を。命令がない場合、私は無差別に破壊活動を行います」
「ふざけるな!そんなに言うなら命令してやる!おまえ、機能を停止させろ!」
「私が機能を停止することは、すなわちあなたの死を意味します。よろしいのですか?」
「な…!」
 こう言われて亮二は迷った。このままだとこの世界が滅びてしまう。しかしそれを止めるためには自分の命を犠牲にしなくてはなら
ない。少し考えた後で彼はつぶやいた。
「迷うこともねえか。俺一人の命でこの世界が助かるなら安いもんだよな」
 そしてこう言ったのである。
「おい、機械を止めろ。喜んで死んでやるからよ」
「…よろしいのですか?」
「何度も言わせるなよ」
「…了解しました」
 その声と共に、部屋中の機械が光り出したのである。
「はあっ…はあっ…はあっ…」
 扉の外である。牙人族の力を解放したにもかかわらず、アルザは扉を壊せないでいた。
「んなアホな…。うちに壊せん物があるなんて…」
 その拳は血に染まっていた。
「アルザ、もうそろそろタイムリミットよ。一度何か食べて元に戻らないと…」
 そうフィリーが言ったのだが、アルザは予期せぬ答えを言った。
「フィリー、うちは最後の力を使うで」
「えっ?」
 フィリーは自分の耳を疑った。
「今、何て…?」
「最後の力を使う言うたんや。15分のタイムリミットが過ぎた時、牙人族はもう一段階パワーアップする。それだったらこの扉かて
壊せるはずや」
「でも、そんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫やないやろな。理性なんか吹っ飛んでまうやろし、寿命も思いっきり縮まる。その短くなった命で、死ぬまで何かをぶっ壊す
んや」
「そんな…!どうしてそんな力を使うのよ!?」
「あいつ…亮二だけには助かってもらいたいんや。それで自分が死んでもかまわへん。だって…うちはあいつが大好きなんや!」
 アルザの目には涙が浮かんでいた。
「アルザ…」
 フィリーも涙を流す。
「ほな行くで!うわああああああああっ!!」
 アルザの体が震え出す。彼女の体に変化が現れた。まず、牙が巨大化していった。爪も伸びていった。そして何と、頭に二本の角が
生えてきたのである。
「があああああああっ!」
 体がこれまで以上に大きくなる。その顔には、もう理性など見えなかった。
「あ…あわわわわわわっ…!!」
 フィリーはアルザの変貌の様子に震えている。腰が抜けそうになったが、かろうじて飛んでその場から逃げることができた。
「がううううっ!」
 アルザの変身が完了した。そして、扉に一発パンチをくらわせた。なんと、今まで彼女が何度叩いても壊れなかった扉が一撃で壊れ
たのである。
「す…すごい…」
 物陰からその様子を見ていたフィリーがつぶやいた。アルザは部屋の中に入っていく。十字架の上で自らの死を覚悟していた亮二が
誰かがこの部屋に入ってきたことに気がついた。
「あれは…アルザ!?来るな、来ちゃダメだ!」
 亮二のその声もアルザには届いていない。向かってきている。その時、あの声がした。
「侵入者あり、侵入者あり。抹殺せよ、抹殺せよ」
 その声の後、アルザに向けて何かが発射された。レーザー光線のようだ。
「アルザー!!」
 だが、アルザはそれを物ともせずに進んでいった。そしてコンピューターに一撃をおみまいしたのである。
「ソンショウジンダイ…キノウテイカ…」
 無機質な声が部屋に響く。そして再びレーザーがアルザを襲う。
「うおおおおおおっ!」
 今度は効いている。とうとう倒れてしまった。しかし、最後の力で前に進むと、亮二を十字架から解放するべく手かせと足かせを破
壊した。
「アルザ…おまえはアルザだろう!?」
「ううっ…」
 アルザはうなり声をあげてうなずいた。もうほとんど理性は残っていなかったが、目の前にいる亮二を攻撃することはなかった。そ
の時、塔が揺れた。
「地震…?いや、この塔が崩れる!」
 亮二が言った時にはもう遅く、すでに塔は下から大きな音とともに崩れ始めていた。
「きゃーきゃー!」
 部屋の外にいたフィリーは逃げる。彼女の場合はわざわざ階段を降りる手間がないので塔が崩れる前に脱出することができた。しか
し、亮二とアルザは…。
「亮二ー!アルザー!!」
 塔の外から彼らの名前を呼ぶフィリー。しかし、その呼び声もむなしく、崩れ落ちる塔から二人が出てくることはなかった。

 崩れさった塔を前に、フィリーはぼうっとしていた。
「この下に…あの二人がいるのよね…」
 そうつぶやくと彼女は小さい手でがれきを持ち上げようとした。しかしできない。
「やっぱり無理か…」
 ぼうぜんとするフィリーだったが−。
「えっ?今、何て言ったの?」
 風の精霊が彼女に話しかけたのである。
「あいつら生きてるの!?どこに?…そう、そこまではわからないの…」
 風の精霊によると、塔が崩れる直前、アルザと亮二はどこかに消えてしまったという。その時、なぜかアルザは元の姿に戻っていた
そうだ。
「そっか、あいつら生きてるんだ…。生きてれば、いつかは会えるわよね!」
 フィリーは服についたほこりを払い落とした。そして空へと飛び立つ。
「今度は、あの二人を探す旅に行くわよ!」

<了>

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