“フォレスト・ワルツ”のイベントをクリアした主人公たちは…。 「何つー説明の仕方だ!それとちゃんと名前があるんだから主人公言うな!」 わかったよ、ちゃんと説明するよ。りんご祭のあるというフォーウッドの村へやってきた理一たちは、村人の好意でそこへ一泊する ことになった。 「ねえみんな、この村には誰でも入れる温泉があるんだよ」 そうパーティメンバーに言ったのはこの村の出身者であるキャラットだった。それを聞いたフィリーが言う。 「じゃ、みんなで入りましょうか。あっ、もちろんみんなの中に理一は入ってないわよ」 「わかってるっつーの!女の子たちだけで先に入りなよ。俺はその後で入るから」 「それじゃ、そうさせてもらうわね」 そう言うとフィリーと二人の女の子は温泉へ向かったが、キャラットだけは残った。 「キャラット、おまえは行かないのか?」 「ボクは長老さまにお話があるんだ。だからその後で。それじゃあね」 そしてキャラットは長老の所へ行った。 それからしばらくして、フィリーたち三人が温泉から戻ってきた。しかしキャラットはまだ帰ってこない。 「遅いなあ、キャラットのヤツ。じゃあ俺が先に風呂に入っちまうか」 「ダメよ、レディーファーストって言葉があるでしょ?」 フィリーが理一を引き止めた。 「わかったよ、もう少し待つよ」 その言葉通り理一はキャラットが戻ってくるのを待ったが、30分過ぎても彼女は帰ってこない。 「あーっ、もう待ちきれねえ!俺はあいつより先に風呂に入らせてもらうぞ!」 そう言うと理一は一人で温泉へ行った。脱衣所に入ると先客がいた。キャラットではない。人間の男である。その彼を見た理一は一 言つぶやいた。 「うわーっ、すっげえ筋肉…」 その声に男が気がついた。 「私の筋肉がうらやましいかね?このようになりたいのならばひたすら鍛えることだ。鍛錬に鍛錬を重ね鍛えぬかれた人間の肉体は、 一流の美術品に勝るとも劣らない」 そして男は理一に向かって一発ポージング。その顔は嫌になるほどにこやかだった。 「ではさらばだ。縁があったらまた会おう」 男はそう言って脱衣所から出ていった。すれ違いざま、理一は男の手の中に奇妙な物を見た。 「あれってプロレスラーのかぶる覆面…?」 理一はなぜ彼があんな物を持っているのか不思議に思ったが、自分には関係のないこととそのことについて考えるのをやめた。 「そんなことより、さっさと温泉入ろうっと」 そして服を脱ぎ温泉へ。中には誰もいなかった。湯の中に入ると、理一は思いっきり足を伸ばした。 「あ〜、いい気持ちだ。極楽極楽って、俺はオヤジか?」 そんな冗談も飛び出すほどにいい気分になっていた理一だったが、誰かが脱衣所からこちらに向かってきていることに気がついた。 そしてその姿を見た彼は驚いた。さあ、この話を読んでいるあなたにはもう誰だかわかりますね? 「あれえ、理一さん」 「キャ、キャ、キャ、キャラット〜!?」 そう、読者の94%はわかったはずだ。彼女だ。しかもバスタオルを一枚体に巻きつけただけという、世の男性諸君が泣いて喜ぶお 約束の姿だ。 「理一さんが入ってたんだ。まあいいや。一緒に入ろ」 そう言うとキャラットは理一と一緒の湯につかった。 「あのさあキャラット、いくつか聞いていいかな?」 理一の声はうわずっている。 「ここって男女別じゃなかったの?」 「特にそういう決まりはないよ」 「そう…。じゃあ次の質問。他のみんな、今俺が温泉に入ってるって言わなかった?」 「もうみんな寝てたよ」 「はえーよみんな!…次。キャラットは、俺が入ってるってことを予想してなかった?」 「フィリーたちが寝てるし、理一さんも寝てると思ったの」 「そうか…。それじゃあ最後の質問。今、俺とキャラットが一緒に温泉に入ってることについて、キャラットはどう思ってる?」 「どうって、何が?」 「何がって…わかった、特に何も思ってないってことか。よし、質問は以上だ」 「変な理一さん」 そしてそれから理一もキャラットも何も言わずにいた。その沈黙に耐えられなくなったのはキャラットである。 「もー、理一さん、どうして何もしゃべらないの?…って、あーっ、目つぶってる!?なんで!?ボクのこと見たくないの!?」 「見たくないわけじゃない。むしろ見たい。だが見てしまうと、おまえを危険な目に会わせることになるかもしれない。だからあえて 目をつぶってるんだ」 「意味がわかんないよ〜!とにかくボクはこの静かすぎる雰囲気が嫌なの!…あっ、そうだ、いいこと思いついた!」 「何だ?」 「ボク、理一さんのお背中流してあげる!」 この言葉に理一が焦った。 「いや、いい!余計なことはしなくていいよ!」 ところが、理一にこう言われたキャラットはショックを受けた。 「そんな、余計だなんて…。ボクは理一さんのためにそう言ったのに…」 キャラットは泣き出してしまった。大声をあげているわけではないが、すすり泣いているのが目をつぶっている理一にもわかる。 「ご、ごめん!そうだよな、キャラットは俺のことを思ってそう言ってくれたんだよな!わかった、流してもらうことにするよ」 理一がそう言うとキャラットが泣きやんだ。 「いいの?お背中流しても…」 「う、うん…」 「わーい!」 そうして二人は湯から出て、キャラットが理一の背中を流す体勢…すなわち、理一がキャラットに背を向けて座るという体勢になっ たのだが−。 「理一さん、どうして胸の前で手を合わせてるの?」 「平常心、平常心…」 「なんだかよくわからないなあ…。それにしても理一さんの背中って広いなあ」 「そ、そうか?」 「うん。それじゃ、行くよ」 その言葉の直後、理一は今までに感じたことのない感触を自分の背中に感じた。 「ちょ、ちょっと待てい!キャラット、おまえ、何で俺の背中をこすってるんだ!?」 「えっ?ボクの手だけど?」 「キャラットの…手…?」 「うん。フォーウッドはね、タオルとかスポンジの代わりに自分の手に石けんを含ませて体を洗うんだ。ついでに言うと足でもできる よ。あまりやる人はいないけど」 「そ、そうなんだ…。じゃあ、続けてくれる?」 「うん」 そしてキャラットは彼女の手でもって理一の背中を流す。その彼の心の中は−。 (うおおおおおっ!何という気持ちのよさだ!これまでにないこの感じ!!キャラットをパーティーに入れてよかった〜!!) これがさっきまで平常心とかつぶやいていた男か…。しかし、彼自身そのことに気がついたようで−。 (い、いかんいかん!ここは心を落ち着かせねば…) 理一はいつの間にか変な所に行っていた自分の腕を再び胸の前で合わせた。そして大きく息をつくと心の中でこんなことをつぶやき 始めた。 (色即是空、空即是色…) どうやらお経のようである。 (南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…) そしてそのうち−。 (南無妙法蓮華経…) おいおい、宗派が違ってるぞ。あげくの果てには−。 (天にまします我らが神よ…) もうムチャクチャである。しかし、これが効いたのか理一の心は落ち着いてきた。 (ふう、これで一安心…) そして彼の背中にお湯がかけられた。 「はい、終わったよ、理一さん」 キャラットが言った。 「ありがとう、キャラット」 「じゃあ、今度は交代だよ」 「えっ…」 「えっ、じゃないよ。今度は理一さんがボクの背中流すの。そうしないと不公平でしょ」 「それはそうかもしれないけど…」 「じゃあ早くやってよ。あっ、ボクの背中は普通のタオルでいいよ」 というわけで、理一がキャラットの背中を流すことになった。当然だが、キャラットは理一に背中を丸見せにしている。もちろんタ オルで前を全面隠してはいるが、後ろから見て、ちょっと視線を下にするとお尻が、お尻が…!てめーこの野郎、俺と代わりやがれ! …と言っても無理なので、とりあえずここは理一がどうするか見てみよう。 「それではお嬢様、いかせていただきます」 「何それ?」 そして理一はごくごく普通にキャラットの背中をタオルでこすった。ちっ、つまらんヤツだ。おや?何かつぶやいてるぞ?どうやら さっきのわけのわからないお経のようだ。結局、最後まで特に何をすることもなく、お湯をかけて終わった。 「お嬢様、終わりました」 「だから何なの、そのお嬢様って?」 「いや、別に…。じゃあ、俺、もうあがるよ」 そう言って理一は脱衣所に向かおうとしたのだが−。 「ダメだよ、もう一回お湯に入らないと湯冷めしちゃうよ」 というわけで、またも理一とキャラットは二人で温泉につかることになった。そしてまた理一は目をつぶり、口をつぐんだ。 「だから黙らないでよ〜。そうだ、しりとりやろう!フォーウッド!」 「ドラゴン」 「‥‥‥‥。りんご!」 「ご飯」 「‥‥‥‥。お祭り!」 「リボン」 「理一さん、怒るよ!」 「悪いけどそっとしておいてくれ。そうしないと、俺はおまえをお嫁に行けない体にしてしまうかもしれない」 「意味わかんないよぉ…。あれ?誰かが外で服脱いでる…」 キャラットは耳をぴょこぴょこさせ、そして言った。 「そこに誰がいるの?」 「あっ、キャラットおねーちゃん?セロだよ」 「セロ?まだ起きてたの?」 「うん。ねえ、そっちに行ってもいいでしょ?」 「いいよ」 ちょっと待てーい!理一はそう心の中で叫んだ。しかしそれも口に出さなければ誰もわからない。誰かが近づいてきているのが目を つぶっていても足音でわかった。それも走ってきている。そしてこんな声がした。 「たあーっ!」 セロがお湯に飛び込んできたのでキャラットは立ち上がってそれをよけた。すると理一の顔に何やら柔らかい物が当たった。 (これは…お、し、り…?) 理一の体温が急激に上昇する。 (落ち着け、俺!理一の理の字は理性の理だ!) それで理一は何とかいろいろな物の爆発を抑えることができた。ところでキャラットは自分の体の一部が理一に触れたことに気づい てもいないらしい。さっきまでと同じように湯につかり、そしてセロに言った。 「セロ、お湯に飛びこんだらダメって、ボクが村にいたころから言ってたでしょ?」 「ごめんなさい。でも、街でお風呂に入る時はやってないよ。このお風呂に入るの久しぶりだから、ついやっちゃった」 「もう…。それとセロ、女の子なんだからタオルで体隠さなきゃダメでしょ。何もつけないで入ってくるんだから…」 「ぶっ…!!」 理一は思わず吹き出した。目を開ければそこには、推定年齢一桁の全裸の女の子がいるのである。 (俺はロリコンじゃねえけど…ロリコンじゃねえけど…!) 心の中でつぶやく理一。そんな彼の気持ちなど知らず、セロははしゃいでいる。 「おねーちゃん、それそれー!」 「うわあっ、お湯かけないでよ!理一さん、助けてー」 「こ、こら!抱きつくな!」 そう、キャラットは理一に抱きついたのだ。柔らかい胸が理一の腕に密着する。目をつぶっている分感触が鮮明になっている。 (うおお、理性が…!) その場は何とか持ちこたえた理一だったが、キャラットたちの攻撃は終わらない。 「あれ、理一さんって結構胸板が厚いんだね。つんつん…」 「本当だ。つんつん…」 (ぐおっ、二人でつんつんするんじゃなーい!) そしてとうとう理一がキレた。 「えーい、やめんかー!」 その声を出す際に理一はかっと目を見開いてしまった。すると眼前にはバスタオル一枚の15歳の少女(しかも自分に抱きついてい る)と、全裸の年齢が一桁の女の子。理一の言語中枢が200年ほど逆行した。すっくと立ち上がるとこんなことを言った。 「拙者、先に風呂から出るゆえ、お二方はゆっくりと湯につかっているでござるよ」 そしてそのまま脱衣所へ。なお、その際に彼は下腹部あるいはそのもう少し下を押さえ前かがみになっていた。残された二人はきょ とんとしている。 「おねーちゃん、おにーちゃんどうしたの?おなかでも痛いのかなあ…」 「ボクにもわからない…」 ところで温泉を出た理一はすぐさまトイレに駆け込んだが、そこで何をしたのかは彼の名誉に関わることなのであえて伏せておく。 <了> 図書室へ |