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1 | |
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(少し暗めの部屋にマリーがいる) |
マリー: |
月夜の晩の丑三つ時に、ヤモリとバラとロウソクを、焼いてつぶして粉にして、スプーン一杯なめてみると…。
(なめる)苦ぁ…。(気を取り直す)そして一言唱えれば、世にも不思議な呪文になるはず…。えーと、何だっ
たっけ?うーんと、うーんと…あっ、思い出した! |
メリー: |
ピンシャンピロピロ、ドゥー! |
マリー: |
(こける)何、何なのよ!?…って、あんなマヌケな呪文を唱える知り合いは一人しかいないわね…。 |
メリー: |
(入ってくる)こっんっばっんっわ!あれ?マリーちゃん、何やってたの? |
マリー: |
魔法の秘薬作ってたのよ。もう少しで完成だったんだけど…。 |
メリー: |
だけど? |
マリー: |
あなたのおかげで呪文忘れちゃったじゃないの!えーっと、何だったかしら…。 |
メリー: |
ピンシャンピロピロ、ドゥー! |
マリー: |
そんなんじゃない!それはぜーったい違う! |
メリー: |
そんなことないわ。これってあらゆる呪文の代わりになるオールマイティな言葉なんだから。 |
マリー: |
それはメリーだからできることなの!それに、その呪文のおかげで街の人たちに迷惑かけまくってることを
忘れたのかしら? |
メリー: |
あたし、何かしたっけ? |
マリー: |
したわよ!何度も何度も何度も!忘れてるなら思い出させてあげるわよ。その一、森の中で火の魔法を使って、
制御不能になって火事を起こす。その二、召喚魔法に失敗して、街中にネズミが大量発生。その三、魔法の毛生
え薬を作ろうとして失敗、大勢の人をハゲにする。その四、人を宙に浮かせる魔法を制御できなくて、家一件宙
に浮かせる…。 |
メリー: |
あれ?最後のはマリーちゃんがやったことじゃなかったっけ? |
マリー: |
う、うるさいわね!空から落ちてきたあなたを助けようとしてでしょ! |
メリー: |
あっ、そうだった…。 |
マリー: |
とにかく、あなたのそのヘンテコリンな呪文は危険極まりない物なの。わかる? |
メリー: |
どぅわーいじょーぶだって。あたし、あの時よりもずっと魔法力が上がったし、魔法そのものだって上手になっ
たんだから。 |
マリー: |
信じられないわね、その言葉。 |
メリー: |
何よー、そういうことはこれを見てから言ってよね。 |
マリー: |
何これ?「魔法力認定試験・レベル9合格証」…。えーっ、うっそー!? |
メリー: |
ふふん、驚いた?普通あたしたちの学年じゃ、レベル7がやっとでしょ?その二つ上のレベルを合格しちゃうな
んて、すごいでしょ! |
マリー: |
ねえメリー、いったいどんなインチキしたの? |
メリー: |
何よそれ?あの試験会場は不正防止のための仕掛けがたっくさんあるのよ。その中でインチキなんてできるわけ
ないじゃない。 |
マリー: |
それはそうよね…。それじゃ、これはあなたの実力…? |
メリー: |
そーゆーこと! |
マリー: |
お見逸れしました。ごめんね、疑ったりして。 |
メリー: |
わかればいいわよ。だけど、試験の最中、ピンシャンピロピロ、ドゥーって何回も言いそうになっちゃって大変
だったわ。試験じゃちゃんとした呪文しか詠唱しちゃいけないから。 |
マリー: |
そうね。でも、普通に呪文を唱えればうまく魔法使えるんだったら、あの呪文やめたら? |
メリー: |
やーだよ。あれはあたしのトレードマークだもん。 |
マリー: |
人に迷惑かけるトレードマークなんてない方がいいわよ! |
メリー: |
どぅわーいじょーぶ!失敗して人に迷惑かけないよぅに、ちゃんと練習してるもん。 |
マリー: |
その練習中に迷惑かけなければいいけどね。 |
メリー: |
それは…ははははは…。 |
マリー: |
笑ってごまかさないの。まあ、これ見てわかるように素質自体はあるんだし、大丈夫なのかしら…。 |
メリー: |
そうそう、どぅわーいじょーぶ!と・こ・ろ・で、 |
マリー: |
何よ? |
メリー: |
さっき作ってた魔法の薬、いったい何だったのかなあ?あたしには、「恋の呪法大全第8巻」の109ぺージに
あるヤツに見えたんだけどなあ。 |
マリー: |
ど、どうしてそこまでわかるのよ!? |
メリー: |
それはここにその本があるから。今流行ってるのよねこれ。マリーちゃんも買ったんだ。 |
マリー: |
それが…実はわたし、今お金なくて、本屋で立ち読みしただけなのよね…。ねえメリー、ちょっと見せてくれな
い?109ぺージだけでいいから…。 |
メリー: |
別にいいけど、ただじゃ嫌だな。 |
マリー: |
何よ、友達からお金取る気?さっきも言ったけど、わたし今金欠なのよ。 |
メリー: |
そーゆー意味じゃないわよ。あたし、マリーちゃんが誰にこの秘法を使おうとしてたか気になるのよ。 |
マリー: |
えっ…。 |
メリー: |
だから、それを教えてくれたら見せてあげる。 |
マリー: |
そ、それは、えっと…。 |
メリー: |
なになに?マリーちゃんが気になる男の人って、いったい誰なの? |
マリー: |
メリー、ちょっと耳貸して…。(メリーに耳打ち) |
メリー: |
とぴょーん!それ本当!? |
マリー: |
こんなことで嘘ついても仕方ないでしょ。ほら、言ったんだから本見せてよ。それから、このことは誰にも言わ
ないでよね。もし誰かに話したりなんかしたら絶交だから! |
メリー: |
どぅわーいじょーぶ!こんなことで親友をなくしたくないもん、誰にも言わないわよ。それじゃあ、はい。(本
を渡す) |
マリー: |
ありがとう…って、何これ? |
メリー: |
えっ? |
マリー: |
「メリリンのと・き・め・きダイアリー」って書いてあるんだけど…。 |
メリー: |
あっ、間違えちゃった。それあたしの日記…。本当はこっちだったわ。 |
マリー: |
あなたねえ…。だいたい誰がメリリンなのよ?何なのよ「と・き・め・き」って? |
メリー: |
いいでしょ、人が自分の日記にどんな名前つけようが。 |
マリー: |
まあいいけどね。どれどれ、中にはどんなことが書いてあるのかしら〜? |
メリー: |
あーっ、見ちゃダメー!いくら友達でもそれはダメー! |
マリー: |
ふふっ、冗談よ。 |
メリー: |
よかった。それ見られたら、あたし、この世界で生きていけないわ。 |
マリー: |
いったい何が書いてあるのかしら…。まあ、見るつもりはないけど。それじゃ返すわ、はい。 |
メリー: |
ありがとう。ところで、あたしこれから人間界に遊びに行くんだけど、マリーちゃんも一緒に来ない? |
マリー: |
そうねえ、いいわよ。夜遊びは大人の香りね。 |
メリー: |
何それ? |
マリー: |
子供にはわからないわよ。 |
メリー: |
(通常と違う声で)おいねーちゃん、大人ぶってんじゃねーぞ! |
マリー: |
誰よあなた?まあいいわ。とにかく行きましょう、人間界に。 |
メリー: |
(通常の声で)よーし、それじゃレッツゴー!(暗転) |
|
2 | |
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(明かりがつくと、氷室と火野がスクワットをしている) |
氷室: |
497…498…499…500! |
火野: |
やっと終わった…。 |
氷室: |
火野くん、今までの中での最速タイムだ。鍛えられた証拠だな。 |
火野: |
そりゃどーも。毎日毎日、氷室先輩に鍛えられてるおかげです。サークルのある平日は言わずもがな、休日にも
毎朝直接僕の下宿に来てモーニングコールするんだもんな…。 |
氷室: |
鍛練というものはな、一日でもさぼってしまうとそれまでの積み重ねがパーになってしまうのだ。そうならない
ためのこの私の親心ではないか。君はそれがわからんのか?継続は力なり、だよ。 |
火野: |
継続はカなりはいいんですがね、僕たちってこの大学で魔法研究部をやってるんです。なのになんで毎日部室で
こんな風に体を鍛えなければならないんですか? |
氷室: |
ふっ、甘いな君は。魔法研究都だからと言って、魔法の研究だけをしていればいいというわけではないのだよ。
昔からよく言うだろう?魔法使いは体力だ! |
火野: |
魔法使いは体力だ!…って、そんな格言はありません。 |
氷室: |
それがあるんだ。今、街中のナウなヤングにバカウケ。 |
火野: |
そんなわけないでしょう!だいたい、そのナウなヤングって、いったいいつ時代の人ですか?もう、魔法のサー
クルなのにこんなことやってるから、大学の中でもお荷物扱いされてるんです。って言うか、ただでさえ怪しい
団体なのに、名前と違うことやってるから僕たちは…。 |
氷室: |
火野くん。 |
火野: |
はい? |
氷室: |
君はいったい誰に向かって口をきいているのかね? |
火野: |
ひ…氷室先輩ですが…。 |
氷室: |
私にはそうは思えないのだが。部長であるこの私に口答えをできる人間などこのサークルには存在しないと思っ
ていたのだがな…。 |
火野: |
いや、それは…。 |
氷室: |
今日は口答での警告だけで済ませてあげよう。だが、今度私に対し反論をした時には…。 |
火野: |
した時には…? |
氷室: |
君には、三途の川でスイミングをしてもらうことになる。ゆめゆめ、注意することだな。 |
火野: |
は、はい…! |
氷室: |
ふっ、わかればいいのだ。それでは、今日の鍛練はここまで!礼! |
火野: |
ありがとうございました!…何やってるんだろう、僕…。 |
氷室: |
何か言ったかね? |
火野: |
いえ、何も…。それじゃあ、失礼します。 |
氷室: |
うむ、それでは、また明日。(火野、外へ)さーて、と。帰る前に整理運動でもしていくか。(体操を始める)
…むっ!?(身構える) |
|
(間) |
氷室: |
あっ!?いっ!?うっ!?えっ!?おっ!?(体が奇妙に動く) |
マリー: |
クスクス…。 |
氷室: |
むうううう…だああああっ!(動きが止まる)何者だ!? |
|
(間) |
氷室: |
秘技、さにーふらっーしゅ!(効果音) |
マリー: |
きゃー!? |
氷室: |
そっちか!(飛び出していく) |
|
(マリーが飛び込んでくる) |
マリー: |
なになに、何なのよ!? |
氷室: |
(入ってくる)追いつめたぞ物の怪め!この私に魔法をかけるとはいい度胸だ! |
マリー: |
ど、どうしてあれが魔法だってわかったの!? |
氷室: |
ふっ、私を誰だと思っている。 |
マリー: |
…誰? |
氷室: |
知らぬならば教えてやろう!我こそは魔法研究部部長、その名も氷室零だ!自らの体を襲う怪現象…それが魔法
であるか否かは、感じただけでわかるわ! |
マリー: |
魔法研究部〜? |
氷室: |
そーだ!そしてその名にかけ、魔法を悪用する貴様のような人間を許すわけにはいかん! |
マリー: |
なんか、とんでもないヤツをからかうターゲットにしちゃったみたいね…。 |
氷室: |
からかうだと?この私をからかおうとはなかなかの度胸だなあ。 |
マリー: |
えヘヘ〜、度胸だけなら筑波山級。 |
氷室: |
ほう、余裕だな。これは私に対しケンカを売っていると判断してよろしいのかな? |
マリー: |
えっ?何それ? |
氷室: |
ふっ、本来闘いは好まぬ私だが、売られたケンカは買わねばなるまい。そう、降りかかるキノコは払わなくては
ならん! |
マリー: |
キノコじゃなくって火の粉でしょ? |
氷室: |
細かいことは気にするな。 |
マリー: |
気にするわよ。細かくないし。 |
氷室: |
とにかく行くぞ!撲殺ハンマー、カムヒアー!(腕を伸ばしたポーズを取るが腕とは逆の方向からハンマーが飛
んでくる)あっ、こっちか。 |
マリー: |
えっ、えっ、えっ?今、ハンマーが飛んできた!? |
氷室: |
(ハンマーを拾う)さあ、年貢の納め時だ。おとなしくこの正義の一撃を受けるがよい! |
マリー: |
じょ、冗談じゃないわよ! |
氷室: |
そうだ、冗談ではない。私は本気だ。 |
マリー: |
あらら…。こうなったら逃げるしかないみたいね…。 |
氷室: |
逃げるだと?ケンカを売っておきながら逃げるとは、格闘家の風上にも置けぬ輩だな! |
マリー: |
わたしは格闘家じゃなくって魔法使いだからいいの! |
氷室: |
それはへ理屈だ。いずれにせよこの部室の出入り口は私の後ろにある一つのみ。逃げることなど不可能だ! |
マリー: |
それが逃げられるの。えーい、ト・メール!(効果音) |
氷室: |
(動きが止まる)ぬわにい、体が…! |
マリー: |
というわけで、バイバーイ!(氷室の後ろをすり抜けて外へ) |
氷室: |
ふんぬー!(体が動くようになる)おのれ、待たんかい!(出ていく) |
|
(火野が入ってくる) |
火野: |
あれ?先輩がいない…。いつもなら僕が帰ってから20分は整理運動してるって話なのに…。まあいいや、忘れ
物取ってさっさと帰ろっと。 |
|
(ノックの音) |
火野: |
えっ?氷室先輩ですか?…そんなはずはないな。どなたですか? |
メリー: |
(入ってくる)あの、すみません。あたしの友達見ませんでした?こっち来たような気がしたんだけど…。 |
火野: |
あれ?君、誰?この大学じゃ見たことのない顔だよね? |
メリー: |
うん、あたし、ここの学生じゃないから。 |
火野: |
そうなの。で、友達が何だって? |
メリー: |
友達探してるの。尖ってない耳が顔の横についてて、牙は生えてなくて、しっぽもないし、手や足がもこもこし
てたりもしないわ。 |
火野: |
そんなの当たり前だよ。そんな人間いるわけないじゃないか。 |
メリー: |
あたしの世界にはいるもん。あっ、でもそれって人間じゃない別の種族だったっけ。それじゃやっぱりそーゆー
人間はいないのね。 |
火野: |
君の世界?別の種族?いったい君は何者なんだ? |
メリー: |
あたし?あたしはねえ、夢と勇気の美少女魔道士、メリー・イースちゃんよ! |
火野: |
魔道士?要するに魔法使い?へえ、そうなんだ! |
メリー: |
何よ、何を喜んでるの?普通、目の前にいる人に「自分は魔法使いです」って言われたら、もっと驚くもんじゃ
ないの? |
火野: |
だってねえ、ここって魔法研究部だもん。本当の魔法使いに会えるなんて感激だなあ。 |
メリー: |
魔法研究部?人間界にあたしたちのことを研究する人たちがいたのね。 |
火野: |
まあね。 |
メリー: |
で、それはともかく、見なかった、あたしの友達? |
火野: |
ここにはしばらく前から僕と氷室先輩しかいなかったけど…。先輩が君の友達だって言うんだったら、話は別だ
けどね。 |
メリー: |
氷室先輩…って誰?あたしの友達はそーゆー名前じゃないわよ。 |
火野: |
そうなんだ。あの人だったら魔法使いの知り合いがいても全然不思議じゃないと思ったんだけど…。 |
メリー: |
だーかーらー、氷室先輩って誰なのよ? |
火野: |
自称、「神に最も近い男」。 |
メリー: |
…何それ? |
火野: |
さあ…。あくまで自称だし、何のジャンルでそう言ってるのかもよくわからないんだ。 |
メリー: |
変なの。とにかくここにあたしの友達はいないってことはわかったわ。お邪魔しました。それじゃ、バイバイ。 |
火野: |
あっ、ちょっと待って。これからどうするつもり? |
メリー: |
どうするって、友達探すに決まってるじゃないの。あっ、なになに?もしかして、「これからお茶でもどう?」
なーんてあたしのこと誘うつもり?いやーん、困っちゃう! |
火野: |
いや、そんなこと言うつもりは、これっっっっっっっぽっちもなかったんだけど…。もしかして君、自信過剰? |
メリー: |
でもダメよ。あたしはね、魔法のうまい人しか相手にしないからね。魔法が使えない人なんて、すぺぺのぺなん
だから。 |
火野: |
何だいそのすぺぺのぺってのは?とにかく僕は、よかったら君の友達探すの手伝ってあげてもいいよって、そう
言おうとしたんだよ。 |
メリー: |
えっ、手伝ってくれるの?ありがとう、助かるわ!いい人ね、えーっと…誰? |
火野: |
僕?火野一っていうんだけど…。 |
メリー: |
ふーん、一さんか。んじゃ、早く探しに行きましょ。 |
火野: |
ちょっと待って。名前は何ていうの? |
メリー: |
さっき言ったじゃない、メリー・イースよ。 |
火野: |
それは君の名前だろう?そうじゃなくて、君が探してる友達の名前だよ。 |
メリー: |
あっ、そーゆーこと。彼女の名前はマリー・ショウよ。あたしと同じ人間系魔法使い。まあ、あたしの方が実力
は上だけどねー。 |
火野: |
やっぱり自信過剰だこの娘…。じゃあ、探しに行こうか。 |
|
(マリーが飛び込んでくる) |
マリー: |
あーっ、ここって最初の部屋じゃないのー!もう行き止まり!美少女魔道士マリー・ショウ、絶体絶命の大ピー
ンチ! |
メリー: |
マ…マリーちゃん…? |
火野: |
マリーちゃん?じゃあ、この娘が君の友達? |
マリー: |
えっ、メリー!?どうしてあなたがここにいるの!? |
メリー: |
マリーちゃんを探してたのよ。それより、そんなに慌ててどうしたの? |
マリー: |
あっ、そうだったわ!追われてるの!さっきまでこの部屋にいた人に魔法かけて遊んでたら、ケンカを売ったと
かどうとかって言ってわたしのこと追いかけてくるのよ! |
火野: |
さっきまでここにいた…氷室先輩か!? |
メリー: |
自称、「神に最も近い男」の!? |
マリー: |
何それ? |
火野: |
詳しく説明してる暇はないよ。あの人にケンカを売ったら、ただじゃ帰してもらえないって噂があるんだ。 |
マリー: |
何それ!?こんなことになるんだったら、売り言葉に買い言葉であんなこと言わなければよかったわ…。 |
火野: |
後侮するのは後。ここは僕が何とかするから、君は奥に隠れてて。 |
マリー: |
何とかするって、どうするの? |
火野: |
それはこっちで考えるよ。ほら、早く! |
マリー: |
う、うん…。(奥へ) |
メリー: |
ねーねー、あたしはどうしたらいいかなあ? |
火野: |
直接氷室先輩の怒りは買ったわけじゃないけど、彼女の友達ってことでとばっちりを食うかもしれないな。やっ
ぱり君も隠れてた方がいいかも…。 |
メリー: |
わかったわ。じゃあ、後はお頭いね。(奥へ) |
氷室: |
(飛び込んでくる)ふわーはっはっはっはっは、もう逃げられんぞ!…ん?火野くんではないか。帰ったのでは
なかったのか? |
火野: |
いやあ、どうも。ちょっと忘れ物をしてしまいまして。ははははは…。 |
氷室: |
そうか。ところで、この部屋に女の子が逃げてこなかったか? |
火野: |
女の子…ですか?僕がここに戻ってきてから今まで、誰も入ってきませんけどねえ。その女の子、何かしたんで
すか? |
氷室: |
この私にケンカを売っておきながら逃げるという、格闘家の風上にも置けぬ卑劣なことをしたのだ。 |
火野: |
へえ、そうなんですか。とにかくここには来てませんよ。ええ、来てませんとも。 |
氷室: |
なーんか怪しいなあ…。そうか、わかったぞ! |
火野: |
な、何がです? |
氷室: |
おまえがあの小娘だな!うまく火野くんに化けたつもりだろうが、この私の目はごまかせんぞ! |
火野: |
何でいきなりそうなるんですか!? |
氷室: |
さあ、正体を現せ!さもないと、この撲殺ハンマーでボコボコにしてやるぞ! |
火野: |
この人の場合、正体表してもボコボコにするんだろうな…。 |
氷室: |
当然だ。 |
火野: |
‥‥‥‥。と、とにかく、僕はその女の子じゃありません。疑うんだったら、僕にしかわからないようなことを
質間してみたらどうですか? |
氷室: |
なるほど、いい考えだ。では間題だ。かつてウルトラマンタロウに登場し、タロウにバケツで水をぶっかけられ
た怪獣の名前は? |
火野: |
そんなの知りませんよ! |
氷室: |
このサークルにいれば自然と身につくはずの知識だ!ニセモノめ、ついにしっぽを出したな!ちなみに答えは、
酔っ払い怪獣ベロンだ。 |
火野: |
だからわかりませんって!(氷室、ハンマーを構える)うわー、助けてくれー!いーのーちーだーけーはーおー
たーすーけーをー! |
氷室: |
そこまで命乞いをするのならワンモアタイムで間題を出してあげよう。(替え歌のため削除) |
火野: |
(替え歌のため削除。どんな答えかは後の二つから想像してください) |
氷室: |
郷に入っては? |
火野: |
郷ヒロミ。 |
氷室: |
見頃食べ頃? |
火野: |
野口五郎。 |
二人: |
イ〜エィ!(二人でハイタッチ) |
氷室: |
そーか、君は本物の火野くんだったのか! |
火野: |
だからさっきからそう言ってるでしょう…。 |
氷室: |
いやあ、すまなかった。少し興奮してしまったようだ。そうか、君はあの娘ではなかったのか。それなら、彼女
はいったいどこへ…。 |
火野: |
さあ、わかりません。魔法使いだし、魔法でどこかに消えたんじゃないでしょうか? |
氷室: |
なるほど、その可能性はある…って、ちょっと待てーい! |
火野: |
な、何か? |
氷室: |
なぜ君は彼女が魔法使いだと知っている?私はそのことについては一言も言ってはいないはずだが…。 |
火野: |
しまった…。 |
氷室: |
どうやら、君は彼女本人ではなくても、彼女のことを知っているようだな。そしてかばっている。さあ言いたま
え。彼女はどこに行った? |
火野: |
‥‥‥‥。 |
氷室: |
言わないのか?言わないのなら、あの娘に向けられるはずだった力が、そっくりそのまま君に向けられることと
なる。 |
火野: |
‥‥‥‥。 |
氷室: |
最終通告だ。彼女がどこに行ったのか言いたまえ。さもないと…。 |
マリー: |
やめてー!(奥から出てくる) |
メリー: |
マリーちゃん、行っちゃダメ!(出てくる) |
氷室: |
とうとう出てきたな魔女っ娘め!さあ、正義の鉄槌を受けるのだ! |
火野: |
誰が正義なんですか!それに、魔法使いだからって彼女が悪人とは限らないでしょう! |
氷室: |
今のは言葉のあやだ。確かに彼女が悪であるとは一概には言い切れぬ。しかしそんなことはどうでもいいのだ。
ケンカを売られた以上、私はそれを打ち倒さねばならぬ! |
火野: |
彼女が先輩にケンカを売ったのは勢いで、本当に挑戦したわけじゃないんです! |
メリー: |
そうなの。マリーちゃんは昔から、売られたケンカは買っちゃう人なの。 |
マリー: |
もういいわ、メリーも、一さんも。悪いのはこの人にいたずらしたわたしの方だし、この人からの罰を甘んじて
受けることにするわ。 |
火野: |
マリーちゃん! |
氷室: |
ほほう、なかなかいい度胸をしているな。 |
マリー: |
大丈夫よ。殺されることはないと思うし。 |
火野: |
いや、下手したら殺されちゃうって! |
メリー: |
マリーちゃん、あたしも一緒に罰を受けるわ。だって、人間界に遊びに行こうってマリーちゃんを誘ったのはあ
たしだし…。 |
マリー: |
メリー…。 |
氷室: |
麗しき友情だな。しかし、その程度のことで心を動かされる私ではない。目的のためならばいくらでも非情にな
れる…それが真の格闘家という物だ! |
マリー: |
いいから早くやりなさいよ! |
氷室: |
そこまで覚悟ができているのならば、その覚悟が変わらないうちにやってやろう!行くぞ、脳天から竹槍!(マ
リーの頭の上にハンマーを振り上げる) |
火野: |
やめてくれー! |
|
(氷室、ハンマーを下ろすが、途中で急停止し、軽くマリーの頭を叩く) |
マリー: |
えっ…? |
氷室: |
ふむ、さっきの追いかけっこで予想以上に体力を消耗してしまったようだな…。今の私にこれ以上の攻撃はでき
ん。マリーとやら、命拾いをしたな。 |
火野: |
先輩…。 |
氷室: |
さて、私は帰るとしよう。火野くん、明日はサークルに遅れぬようにな。 |
火野: |
は…はい! |
氷室: |
では諸君、さらばだ。(出ていく) |
|
(間) |
メリー: |
カ…カッコいい! |
マリー: |
は…はははは…はあ…。(膝を落とす)わたしの覚悟っていったい何だったのよ…。 |
火野: |
まあ何にせよ、ほとんど何もされなくてよかったね。奇跡だよ。 |
マリー: |
それはそうだけど、わたしもう疲れちゃったわよ…。 |
メリー: |
じゃあ、そろそろ帰ろっか? |
火野: |
そっか、帰っちゃうのか。気をつけてね…って、どこに帰るの? |
マリー: |
帰るって言ったら、家に決まってるじゃないの。 |
火野: |
どこにあるの? |
メリー: |
魔法世界よ。こっちと向こうの世界をつなぐ秘密のトンネルがあるの。もちろん、この世界の人は誰も知らない
けどね。 |
マリー: |
メリー、余計なこと話してないでもう行きましょ。先行くわよ。じゃあね。(出ていく) |
メリー: |
あっ、ちょっと待ってよ!(出ていこうとするが立ち止まる)一さん、今日はどうもありがとう。それじゃあ、
バイバイ。 |
火野: |
うん、バイバイ。(メリー出ていく)行っちゃった…。でもあの娘たちって本当に魔法使いだったのかなあ…。
ま、いっか。僕も帰ろうっと。(出ていく。暗転) |
|
3 | |
メリー: |
(入ってくる)こっんっにっちっはー!…あれ? |
マリー: |
(入ってくる)どうしたの? |
メリー: |
誰もいないの。さっき人に聞いたら、もう学校は終わったって言われたのに…。 |
マリー: |
授業が終わったからって、すぐにサークルが始まるわけじゃないんじゃないの? |
メリー: |
そっか…。 |
マリー: |
だいたい、あなた何しにここに来たの?あんな危険人物のいる所にわざわざ来ることもないじゃない。 |
メリー: |
そーゆーマリーちゃんだって一緒に来てるじゃないの。 |
マリー: |
わたしはあなたが何かしないか心配だからついてきてあげたの!もう気分は保護者よ。 |
メリー: |
昨日はその保護者がトラブルメーカーになりました。 |
マリー: |
うるさい! |
メリー: |
あたしはねえ、一さんに用事があるの。マリーちゃん探すの手伝おうとしてくれたし、それにマリーちゃんのこ
とかばってくれたから、そのお礼しようと思って。 |
マリー: |
あら、ずいぶんと律儀なのねえ。で、何するの? |
メリー: |
魔法の国から持ってきたマジックアイテムあげようかなーって。あの人、先輩からいぢめを受けてるみたいだか
ら、普通の人でも使える防御用のアイテム持ってきたのよ。 |
マリー: |
何か、役に立たなそうなアイテムね。 |
メリー: |
そんなことないわよ。普通の人間の攻撃ならバッチーンって跳ね返しちゃうんだから。 |
マリー: |
もしかしたらあの先輩、人間じゃないかもよ。 |
メリー: |
えっ? |
マリー: |
昨日追いかけられてる時…正確にはその少し前ね。あの人、どこからともなくハンマーを呼び寄せたのよ。 |
メリー: |
ハンマーって、マリーちゃんの頭をピコンってやったあれ? |
マリー: |
そう。もしかしたらあれは、召喚魔法の一種かもしれないわ。例えそうじゃなくても、ああいうことができる以
上、普通の人間じゃない可能性が極めて高いわ。 |
メリー: |
そういえばこのサークルって魔法研究部だし、もしかしたら…えっ!? |
マリー: |
どうしたの? |
メリー: |
あたしの持ってる魔カ探知機が反応してる…すごい小さいけど、魔力を持った人が来る! |
マリー: |
ちょっと嘘でしょう!?どうしてこの世界に魔カを持った人間がいるの!? |
メリー: |
そんなのわからないわよ!ねえマリーちゃん、どうする? |
マリー: |
とりあえず、姿を隠して様子を見ましょう。メリー、キ・エールの魔法使えるわよね? |
メリー: |
うん。 |
マリー: |
それじゃ使うわよ。 |
二人: |
キ・エール!(効果音。これからしばらく、この二人の体は消えたことになる) |
氷室: |
(「おれはジャイアンさまだ!」の替え歌を歌いながら入ってくる)…む!?(室内を見渡す)確かに何者かの
気配を感じる…! |
火野: |
(入ってくる)あれ、先輩、もう来てたんですか?でも、遅刻じゃないですよね、僕? |
氷室: |
(火野をにらみつける) |
火野: |
! |
氷室: |
君か…。 |
火野: |
ど、どうしたんですか? |
氷室: |
この部屋に何者かが潜んでいるのだ。しかし、気配すれども姿は見えず、ほんにあなたは屁のようだ、という状
況でな。 |
火野: |
どんな言い回しですかそれは。でも、僕は何も感じませんよ。 |
氷室: |
神経を磨ぎ澄ますのだ。そうすれば、今まで感じなかった物を感じることができる。それができてこそ一流の格
闘家だ。 |
火野: |
別に一流の格闘家になるつもりはないんですが…。 |
氷室: |
ぬわあにい!?そんな女々しいことを言うとは、貴様、それでも軍人かあ!? |
火野: |
いえ、違います。一般市民です。 |
氷室: |
(片膝を落として)武士道、地に落ちたり…。 |
火野: |
あの…格闘家なんでしょうか?軍人なんでしょうか?武士なんでしょうか? |
氷室: |
と、こんなことをやっている場合ではないのだ。この謎の気配の正体を突き止めねば…。(ペンライトを出す)
ちゃらららっちゃらーん!へべれけライトぉ! |
火野: |
何ですか、それは? |
氷室: |
氷室六つ道具の一つ、へべれけライトだ。このライトから発せられる光はな、見えない物を見せてくれるのだ。
まあ言ってみれば、外道照身霊波光線のような物だな。 |
火野: |
「のような物だ」と言われても、元ネタを知らないんですが…。 |
氷室: |
ぬわーにぃ!?君はダイヤモンドアイを知らぬと言うのか!? |
火野: |
知りません!それよりも、本当に効果あるんですか、それ? |
氷室: |
モチのロンだ。この間暗闇で使ったのだが、効果抜群だった。 |
火野: |
それはただの懐中電燈でしょう! |
氷室: |
えーい、黙れ!使うと言ったら使うぞ、私は! |
火野: |
しょうがないな…。やりたいなら好きにしてください。 |
氷室: |
ではそうさせてもらおう。私の勘ではな、ここいら辺が怪しいと思うのだ。 |
メリー: |
よかった、全然違うとこ指してるわ。 |
マリー: |
しっ! |
氷室: |
では行くぞ。へべれけへべれけ、ぴかぴか光れ!(スイッチを入れる) |
|
(間) |
メリー: |
あれえ?マリーちゃん、姿が見えてきてる! |
マリー: |
メリー、あなたも! |
メリー: |
もしかして、本当にさっきの光が…。 |
マリー: |
そんなわけないでしょう!単に魔法の効果が薄れてきただけよ。ねえメリー、どうする? |
メリー: |
こうなったら逃げよう!えーい、テレポート! |
マリー: |
ダメ、魔法力が足りない! |
メリー: |
それじゃあ…ピ・カーン!(効果音と照明効果) |
氷室: |
むっ、何だこの光は!? |
火野: |
まぶしいっ! |
メリー: |
今のうち!(メリーとマリー、奥へ) |
氷室: |
むうっ、気配が消えた…。 |
火野: |
でも、確かにさっき声がしました。どこかで聞いた声が…。 |
氷室: |
おのれ、どこへ行った!出てこい!さもないと、私に対しケンカを売ったと見なすぞ! |
マリー: |
ケンカ!?また追いかけられるのは嫌ー! |
メリー: |
落ち着いて!ばれちゃうわよ! |
氷室: |
火野くん、今、何か聞こえなかったかね? |
火野: |
ええ、聞こえました。どこからでしょうか? |
マリー: |
!…ばれちゃった? |
メリー: |
あたしが何とかごまかしてみる。 |
マリー: |
頼んだわよ。 |
メリー: |
モォ〜。 |
マリー: |
…って、何で牛なのよ!? |
氷室: |
むっ、今のは…豚か…。(こける火野。奥の方からもがたっという音がする) |
火野: |
あの…一つ聞いてもよろしいでしょうか? |
氷室: |
何だね? |
火野: |
どうしてそういうお約束をやるのですか? |
氷室: |
何を言うか、やってこそお約束ではないか。 |
火野: |
それはそうかもしれませんが…。 |
氷室: |
とにかく、今のでこの部室の奥に誰かがいることがわかった。出てきたまえ。さもないと…ほおおおお…! |
火野: |
わー、何をするつもりですかー!?誰か知らないけど早く出てきてー!! |
|
(メリーとマリー、奥から出てくる) |
氷室: |
おや、君たちは…。 |
火野: |
メリーちゃんとマリーちゃん…だったっけ?どうしてこんな所にいるの? |
メリー: |
それは…はははははははは…ねえ、マリーちゃん? |
マリー: |
えっ?あっ、そうなのよ。はははははははは。 |
氷室: |
何をしに来たのだ?私にケンカを売りに来たのであれば、いくらでも受けて立つが? |
火野: |
そんな命知らずはそうそういませんってば。 |
メリー: |
えっと…あたしは一さんに用事があるんだけど…。 |
火野: |
僕? |
氷室: |
火野くん、今日は時間がないぞ。彼女の話は作業をしながら聞いてやりなさい。 |
マリー: |
作業って…何やってるの? |
火野: |
魔導書の解読。 |
メリー: |
へえ。この世界のどこでそんな物を手に入れたの? |
火野: |
氷室先輩がどこからか持ってきたんだ。鋼の肉体を手に入れる術が書いてあるんだって。 |
マリー: |
鋼の肉体ねえ…。そういえば、どうして魔法研究部が格闘技の修業してるの? |
メリー: |
そうね、真の格闘家がどうとかって言ってたもんね。一さんに言われなかったら、格闘技サークルかと思ってた
わよ。 |
火野: |
それは氷室先輩の趣味。でも先輩、ここが魔法サークルだって自覚を持ってたんですね。 |
氷室: |
うるさい。いいからさっさと作業を始めたまえ。必殺技をかけるぞ。 |
火野: |
わ、わかりました。わかったからそれだけはご勘弁を〜。(奥へ) |
メリー: |
ちょっと待って!用があるって言ったでしょ!(奥へ) |
氷室: |
君は行かないのか? |
マリー: |
行かないわよ。別にあの人に用はないもん。 |
氷室: |
では、なぜここに来たのかね? |
マリー: |
メリーの付き添いよ。 |
氷室: |
なるほど。ところで、昨日のことは反省したかな? |
マリー: |
悪かったわよ。たぶんもうやらないわ。少なくともあなたには…。 |
氷室: |
それが懸命な判断という物だ。しかし私としては、君のような強者が闘いを挑んできてくれるのは喜ばしいこと
なのだが…。 |
マリー: |
どっちなのよ? |
氷室: |
卑怯なことはするな。闘うならば正々堂々来い、ということだ。 |
マリー: |
だから、あなたと闘うなんてしないわよ。ねえ、あなたっていったい何者なの?昨日のあれ、どう見ても普通の
人間を超えてるわよ。 |
氷室: |
修業の成果、鍛練のたまもの、と言っておこう。 |
マリー: |
超人的な行動はそれで説明がつくけど、ハンマーの召喚は何なの?やっぱり、魔法研究部だけに、研究している
うちに本当に魔法が使えるようになったとか…。そういえば、メリーが持ってた魔力探知機が反応したけど…。 |
氷室: |
ばれてしまっては仕方がない。そう、あれは魔法。つまり私は魔道士なのだ。 |
マリー: |
本当に!?じゃあ、何か魔法使ってみせてよ! |
氷室: |
いいだろう。ではまず、空中浮遊を。むうううううん…たあっ!(ジャンプ) |
|
(間) |
氷室: |
空中浮遊でしたー! |
マリー: |
ど〜こ〜が〜浮遊なのよ〜! |
氷室: |
一瞬、宙に浮かんだではないか。 |
マリー: |
だ〜か〜ら〜! |
氷室: |
では次に、召喚魔法を。 |
マリー: |
人の話聞きなさいよ! |
氷室: |
昨日はハンマーを呼び出したが今回はもっとすごい物を呼び出してあげよう。生物だ。 |
マリー: |
そんな高度な魔法が使えるの!? |
氷室: |
まあ見ていたまえ。はまがちょふぐりぐり…。(奥に呼びかける)おーい、火野くーん! |
火野: |
(奥から出てくる)何ですか? |
氷室: |
いや、特に用はないのだが…。 |
火野: |
だったら呼ばないでくださいよ。 |
氷室: |
すまんすまん。戻って作業を続けてくれたまえ。 |
火野: |
まったくもう…。(奥へ) |
|
(間) |
氷室: |
召喚魔法でしたー! |
マリー: |
だから、ど〜こ〜が〜召喚なの〜! |
氷室: |
彼を呼び出したではないか。 |
マリー: |
‥‥‥‥。もういいわ。要するに、あなたが魔法使いだっていうのは嘘なのね。 |
氷室: |
何だと? |
マリー: |
それをごまかすのに、そんな変な魔法もどきをやったってわけよね。 |
氷室: |
黙れ魔女。 |
マリー: |
何、図星?そうなんだ、やっぱり。きゃはははは! |
氷室: |
マリーくん! |
マリー: |
えっ? |
氷室: |
それ以上の暴言は、私に対しケンカを売っていると見なす。よろしいか? |
マリー: |
!…ごめんなさい、もう言いません。 |
氷室: |
わかればよろしい。まあ、私が本物の魔法使いか否かは、いずれわかることとなるだろう。 |
|
(奥からメリーと火野が出てくる) |
マリー: |
あれ、どうしたの? |
メリー: |
話終わったから。 |
氷室: |
火野くん、メリーくんに変なことはしてないだろうね? |
火野: |
しません。 |
氷室: |
冗談だ。君がそんな人間ではないことは、私が一番よく知っている。 |
火野: |
氷室先輩によく知られててもねえ…。 |
氷室: |
何か言ったかね? |
火野: |
いえ、何にも…。 |
メリー: |
じゃあ、用事も終わったし、帰ろう、マリーちゃん。 |
マリー: |
そうね。いつまでもここにいると危険だし。 |
火野: |
危険って…氷室先輩、マリーちゃんに何かしたんですか!? |
氷室: |
いや、彼女に対しては何もしていないが。 |
メリー: |
何か、気になる言い方ね…。 |
氷室: |
この目を見ろ!これが嘘をついている人間の目か!? |
|
(間) |
メリー: |
なーんか、魚が腐ったような目じゃない? |
火野: |
言っちゃダメだってば!そんなこと言うと、ケンカを売ってると見なされるよ! |
マリー: |
きゃーっ!! |
メリー: |
マリーちゃん、どうしたの!? |
氷室: |
どうも、ケンカという言葉に対し過敏になってしまっているようだな。 |
マリー: |
メリー、帰ろう!寒気がしてきた! |
メリー: |
うん、その方がいいかもね。 |
氷室: |
あっ、二人ともちょっと待ちたまえ。君たち、明日もここに来てはくれないだろうか? |
マリー: |
明日も!?…メリー、どうする?わたしはあんまり来たくないんだけど…。 |
メリー: |
うーん、どうしようか…。 |
氷室: |
来てくれたら手厚く…。 |
マリー: |
もてなしてくれるの? |
氷室: |
葬ってあげよう。 |
火野: |
葬っちゃまずいでしょ、葬っちゃ! |
メリー: |
‥‥‥‥。帰ろ、マリーちゃん。 |
マリー: |
そうね。 |
氷室: |
ああっ、待ってくれ!冗談だ!来てくれたら、お茶とお菓子ぐらい出してあげるぞ。 |
メリー: |
あたし来るー! |
マリー: |
何て単純な…。 |
メリー: |
ねえ、マリーちゃんも来ようよー。一緒にお菓子食べようよー。 |
マリー: |
うーん…先輩、何もしないでよね。それを約束してくれたら来てあげる。 |
氷室: |
どぅわーいじょーぶ!危険なことはせぬ。それでは、詳しいことはまた明日話そう。 |
メリー: |
うん。それじゃ二人とも、バイバイ。 |
マリー: |
じゃあね。(二人、出ていく) |
火野: |
氷室先輩、あの二人を呼んで、いったい何を企んでるんですか? |
氷室: |
企むとは失礼な!まあ、確かに考えがあってのことなのだがな。 |
火野: |
どんな考えですか? |
氷室: |
それはまだ秘密だ。このサークルのためになる、グッドでナイスでワンダホーなアイデアとだけ言っておこう。 |
火野: |
‥‥‥‥? |
氷室: |
さあ、それでは解読の続きだ。そしてその後、また君の体を鍛えてあげよう。 |
火野: |
やっぱりやるんですか…。(暗転) |
|
4 | |
|
(照明がつくと、火野が氷室に関節技をかけられている) |
火野: |
あの…一つ聞いてもよろしいでしょうか? |
氷室: |
何だね? |
火野: |
どうして僕はいきなりこんな技をかけられているのでしょう? |
氷室: |
知れたこと。私の新技の実験で、あーる。 |
火野: |
あの…苦しいのでそろそろ外してもらえませんか? |
氷室: |
まあそう焦るな。えーっと、理論上ではここをこーすれば…。 |
火野: |
あたたたたたたた!先輩、痛いです!! |
氷室: |
ふわははは、実験は成功だあ!ほれ、外すぞ。 |
火野: |
あーっ、痛かった…死ぬかと思った。いや、マジで…。 |
氷室: |
(客席に向かって)よい子はまねしちゃダメだぞ。もちろん、悪い子や普通の子もね。 |
火野: |
氷室先輩、今日はなんだかテンション高くないですか? |
氷室: |
うーん、どうテンション。はーっはっは、おもしれー!はっはっは! |
火野: |
やっぱり変だよこの人…。 |
氷室: |
今日からこのサークルに新入部員が入ってくるからな。それで知らず知らずのうちに私のテンションも高くなっ
ているのかもしれん。 |
火野: |
新入部員…まさか、あの二人ですか!? |
氷室: |
今までに彼女たち以外に登場人物がいたかね? |
火野: |
いませんが…。でも、ちょっと待ってくださいよ。二人ともこの大学の学生じゃないんですよ。そんな人が部員
として認められるわけないじゃないですか。 |
氷室: |
君のことだからそう言うと思っていたよ。だがな、これを見たまえ。 |
火野: |
何ですかこれ…「サークルの設立および存続にあたって」…。 |
氷室: |
この大学で定められている規約だ。その「部員について」の項を読みたまえ。 |
火野: |
はい。部員について。この大学内に存在するサークルの部員となれる者は、本学の学生の他、学外の者でも有志
であれば部員となることができるううううう!? |
氷室: |
そーゆーことだ。よーするに、ぶっちゃけた話誰でもいいということだ。 |
火野: |
だからって、その規則を採用してるサークルは少ないんじゃ…。 |
氷室: |
そんなことはないぞ。現に、この魔法研究部も採用している。 |
火野: |
えっ? |
氷室: |
私は、ここの学生ではないのだ。 |
|
(間) |
火野: |
えーっ!? |
氷室: |
そんな驚くか? |
火野: |
驚きますよ!僕、ずっとあなたのことを先輩だと思ってたんですよ! |
氷室: |
先輩であることは間違いない。なぜなら、私はここのOBだからだ。 |
火野: |
…いったい、何年前の卒業生なんですか? |
氷室: |
去年ここを卒業した。 |
火野: |
先輩、仕事は何をやってるんです? |
氷室: |
詳しいことは言えんが、夜の仕事とだけ言っておこう。 |
火野: |
…いつ寝てるんですか? |
氷室: |
無論、君たちが大学の講義を受けている間である。 |
火野: |
先輩、このサークルの部長でしたよね? |
氷室: |
うむ、そのとーりだ。その規約にも、「部長は本学の学生でなければならない」とは書かれていないしな。 |
火野: |
だからって…。ああ、僕の中の常識が、音を立てて崩れていく…。 |
氷室: |
ガラガラガラ。 |
火野: |
うわあああああああああっ!! |
氷室: |
と、火野くんをからかうのはこれくらいにして、ポーズを考えるか。 |
火野: |
ポーズ? |
氷室: |
彼女たちがこの部室に入ってきた時に、私がどのようなポーズをとっていれば威厳を見せつけることができると
思うかね? |
火野: |
さあ…。 |
氷室: |
立っているべきだろうか、それとも座っているべきだろうか…。あっ、間をとって中腰というのは…。 |
火野: |
‥‥‥‥。天井にぶら下がってみたらどうですか? |
氷室: |
よし、中腰で行こう!文句はないな? |
火野: |
文句も何も…。 |
マリー: |
(おどおどと入ってくる)あの…こんにちは…。 |
火野: |
あっ、マリーちゃん。 |
氷室: |
おや、マリーくんではないか。どうかねこのポーズ。部長としての威厳が出ているかね? |
マリー: |
‥‥‥‥。ぜんっぜん…。 |
氷室: |
何だと!?火野くん、話が違うではないか! |
火野: |
僕のせいじゃないでしょう!責任転嫁しないでください! |
氷室: |
私は火などつけていないぞ! |
火野: |
テンカ違いです! |
氷室: |
まあそう熱くなるな。 |
火野: |
誰のせいで熱くなってると思ってるんですか! |
氷室: |
誰のせいだね? |
火野: |
あ・な・た・の・せ・い・で・す〜! |
マリー: |
一さん、そんなにうるさくすると魔法で黙らせるわよ!ダ・マール!(効果音) |
火野: |
むぐっ!?(口が開かなくなる)む〜む〜! |
氷室: |
おお、見事なものだな。 |
マリー: |
ふふん、任せてよ。 |
火野: |
んぐ、んぐ、んぐぐぐぐ〜! |
氷室: |
…って、なんだか様子が変なんだが…。 |
マリー: |
おかしいわねえ…。あっ!もしかして一さん、鼻つまってる? |
火野: |
(うなずく) |
マリー: |
きゃー、それってたいへん!魔法よ、解けろ!(効果音) |
火野: |
(口が開く)ぷはーっ!!はあはあはあ…死ぬか思たわ…。何てことするんだ君はー! |
マリー: |
ごめんなさい。まさか鼻つまってるとは思わなかったから…。 |
氷室: |
まーまー、一命はとりとめたんだし、いいではないか。ところでマリーくん、メリーくんはどうした? |
マリー: |
ええっ、来てないの?先にここに来てると思ったのに…。 |
火野: |
それが来てないんだよ。 |
氷室: |
ふーむ、さすがに心配になってきたな。ちょっと探してこよう。(出ていく) |
マリー: |
行ってらっしゃーい。でも、本当にどうしたのかしら?先に魔法学校出たはずなのに…。 |
火野: |
そういえば、魔法学校って何やってるの? |
マリー: |
魔法の勉強よ。 |
火野: |
そのまんまじゃないか。それって、全員行くことが義務づけられてるの? |
マリー: |
別に。まあ、こっちの世界で言う専門学校みたいな物かしらね。 |
メリー: |
(元気なく入ってくる)こんにちは…。 |
マリー: |
あっ、メリー!いったい何やってたのよ?わたしたち、心配してたんだから。 |
メリー: |
ごめん。家に帰って調べ物してたの…。 |
火野: |
まあまあ。ねえメリーちゃん、氷室先輩に会わなかった? |
メリー: |
ううん、会ってないわ。 |
火野: |
そっか、行き違いになっちゃったか…。あの人、君を探しに行ったんだけど…。 |
マリー: |
そういえばさあ、このサークルに三日連続で来てるのに、あなたとあの先輩以外の人、見たことないんだけど。
他に部員いないの? |
火野: |
!…るーるーるるるー…。 |
メリー: |
あっ、歌い出しちゃった。 |
マリー: |
もしかして、本当に部員は二人だけ…? |
火野: |
僕たち以外はみんな幽霊…。 |
メリー: |
なんで一さんは毎日来てるの? |
マリー: |
そうよねえ。そもそもどうしてこのサークルに入ったの? |
火野: |
!…るーるーるるるー…。 |
メリー: |
また歌い出しちゃったわ…。何かひどい経緯でもあるのかしら? |
火野: |
あれは、今年度の入学式の日のことでした…。(以下回想シーン)へーえ、さすがにいろんなサークルがあるな
あ。どこに入ろうかなああああ!?(突然出てきた氷室に連れ去られる。すぐに出てくる)…ということがあっ
たんだよ…。 |
マリー: |
よーするに、入学式の日にいきなり拉致されちゃったわけね。だけど、そんなんだったらすぐにやめちゃえばよ
かったじゃない。 |
火野: |
確かに、その日僕と同様に拉致された新入生たちはみんなやめていきました…。 |
メリー: |
だったらどうして一さんはやめなかったの?あっ、もしかして写真屋さんに出せないような恥ずかしい写真を撮
られて、それをネタにおどされてるとか…。 |
火野: |
違うよ。いくら氷室先輩でも、そんな非常識なことはしないよ。 |
マリー: |
拉致するのは非常識じゃないのかしら? |
メリー: |
ほら、ここの常識って普通じゃないから…。 |
火野: |
氷室先輩は、確かにやってることは残虐非道で支離滅裂、因果横暴五里霧中だけど、それもこれもみんな、この
サークルのためを思ってやってることなんだ。 |
マリー: |
そうかしら…。 |
火野: |
それに、魔法の研究なんて、はたから見ればバカらしいことを真剣にやってる。そのひたむきさと熱意に僕は心
を打たれた。だから、やめないで残ってるんだ。出てくるのが二人しかいないサークルだけどね。 |
メリー: |
ふーん、いい話じゃないの。あたし、ちょっと感動しちゃったわ。 |
氷室: |
(奥から出てくる)ただいまー。 |
三人: |
うわああっ!? |
氷室: |
おや、メリーくん、来ていたのかね。探してしまったではないか。 |
火野: |
ひ、ひ、氷室先輩!?ななななななんでこっちから出てくるんですか!?メリーちゃんを探しに外に行ったはず
でしょう!? |
氷室: |
いや、それがいきなり魔空空間に引き摺り込まれてしまってな。かろうじて脱出はできたものの、誤って部室の
奥に出てきてしまったのだ。 |
火野: |
な…何ですか、その魔空空間ってのは…? |
氷室: |
なぬ、魔空空間を知らぬというのか!?まったく、ベロンは知らない、ダイヤモンドアイは知らない、挙句の果
てに魔空空間まで知らないとは、君は学校で何を習ってきたのだ? |
火野: |
そんな物学校で教わりませんよ!それより何より…。 |
氷室: |
がぶりより。 |
火野: |
えっ!? |
氷室: |
のこったー!よったよったよったー!! |
メリー: |
ただいまの決まり手は寄り切り、寄り切って氷室先輩の勝ち。 |
マリー: |
何よそのアナウンス? |
氷室: |
火野くん、今のような不意打ちに対応できないようでは、一流の格闘家にはなれないぞ。 |
火野: |
やめましょーよこーゆー横道それたとこで笑い取るお芝居はー! |
氷室: |
まー、いいではないか。さて、それではいいかげん本題に入ろうか。 |
メリー: |
ねー、お菓子とお茶出してくれるって、昨日言ってたわよね?だからあたし来たのよ。 |
氷室: |
おう、そんなことも言っていたな。火野くん、彼女たちにお菓子を。 |
火野: |
あるんですか、そんな物? |
氷室: |
奥の部屋に私の非常用お菓子がある。 |
火野: |
何なんですかそれ…。まあいいや、取ってきます。(奥へ)あ、本当だ、あった。(奥から出てくる)はいどう
ぞ。(氷室にお菓子を渡す) |
氷室: |
はいどうぞ。(マリーにお菓子を渡す) |
マリー: |
はいどうぞ。(メリーにお菓子を渡す) |
メリー: |
はいどうも。(お菓子を食べる)う〜ん、おいしい〜! |
マリー: |
ちょっと、一人で食べてないでわたしにもちょうだいよ。 |
メリー: |
それじゃあ、はい。 |
マリー: |
ありがとう。うん、結構おいしいわね、これ。 |
氷室: |
さて、お菓子も食べたし、本題に入ろうか。 |
メリー: |
あーっ、マリーちゃんずるい。そんなにたくさん取ってー! |
マリー: |
あなた最初に一人で食べてたじゃない。 |
メリー: |
その分差し引いてもマリーちゃん取り過ぎよー! |
氷室: |
人の話を聞けーい! |
二人: |
はい! |
氷室: |
まったく…。話が終わるまでこのお菓子は没収だ! |
メリー: |
あーん、そんなー!ねえ、返してよ氷室先輩。メリリンのお・ね.が.い。 |
|
(間) |
氷室: |
で、君たちにしたい話というのはだね…。 |
メリー: |
うっそー、あたしの色仕掛けが効かない!? |
マリー: |
効くわけないでしょう!まったく、天下無敵のすっとこどっこいなんだからこの娘は! |
火野: |
…マリーちゃん、君本当にメリーちゃんの友達? |
氷室: |
だいたいお菓子の一つや二つでそんなに騒ぐでない。このままでは話が進まないので単刀直入に言わせてもらお
う。マリーくんとメリーくん、この魔法研究部に、部員として入部してはくれないか!? |
|
(間) |
メリー: |
は? |
マリー: |
何それ? |
火野: |
ほらほらー、二人とも面くらっちゃってるじゃないですか。 |
氷室: |
ならば君にも面をくらわせよう。(火野の額にチョップ) |
火野: |
あたっ。 |
氷室: |
実はこのサークル、慢性的な部員不足でな。猫の手どころか魔女の手も借りたいんだ。 |
メリー: |
魔女じゃないわよ。美少女魔道士だもん。 |
マリー: |
そんなことはどーでもいいのよ。わたしたち、ここの学生じゃないから入部なんて…。 |
氷室: |
どぅわーいじょーぶ!火野くんにも話したが、入部に関しここの学生である必要はない! |
火野: |
…なんだって。 |
マリー: |
そんなこと言われても…ねえ、どうする? |
メリー: |
あたし…入部する。 |
火野: |
えっ!? |
氷室: |
そーか、入ってくれるか! |
マリー: |
そんなに簡単に決めちゃっていいの? |
メリー: |
うん、どうせ魔法学校じゃ何もやってないしね。それに…。 |
マリー: |
それに? |
メリー: |
(チラリと氷室を見て)ううん、何でもない…。 |
マリー: |
あれ?あなた、何か変じゃない? |
メリー: |
えっ?ううん、そんなこと、ないない。 |
氷室: |
で、マリーくん、君はどうするのかね? |
マリー: |
そうね…。わたしもメリーと一緒で何のクラブにも入ってないからどうせ暇だし…メリーがやるって言うなら、
わたしも入るわ。 |
氷室: |
うっしゃあ!これで一気に部員二人増えたー! |
火野: |
いいのか、こんな増え方で本当にいいのか…。 |
氷室: |
いいのだ、これで! |
マリー: |
で、わたしたちは何やるの? |
メリー: |
って言うかこのサークルって何やってるの?昨日は魔導書の解読やってたけど、それ以外に何やってるの? |
氷室: |
そうだな、具体的には…むっ!?(外に向かって構える) |
火野: |
どうしたんですか!? |
氷室: |
何かが来る…三人とも、下がっていたまえ! |
マリー: |
は、はい…。(三人、下がり座る) |
|
(沈黙) |
メリー: |
ねえ、二人とも、いい? |
火野: |
何? |
メリー: |
ここだけの話なんだけど…。(小声で話す) |
火野: |
兄さん!? |
氷室: |
ん?兄さんがどうした? |
火野: |
…が6、2×4=8、2×5=10…。 |
マリー: |
何てごまかし方してるのよあなたは!?そんなんでごまかせるわけが…。 |
氷室: |
なーんだ、九九の練習か。(マリーこける) |
マリー: |
わからない…この人たちわからないわ…。 |
氷室: |
む?とかやっているうちに気配は消えた…。どうやらこの部室を襲撃に来たのではないようだな。さてそれでは
危機も去ったことだし、魔法研究部の活動を始めよう。 |
三人: |
はーい。 |
氷室: |
今日から本物の魔法使いがメンバーとなった。そこで実際に彼女たちに魔法を使ってもらい、なぜそのようなこ
とができるのか、そしてどうすれば私たちがそれを使えるようになるのかを考証していきたいと思う。 |
火野: |
おお、何か、「これぞ魔法研究部!」って感じですね! |
氷室: |
というわけでまずはメリーくん、何か魔法を使ってくれたまえ。 |
メリー: |
はーい。うーんと、何使おっかなあ…。 |
火野: |
お願いだから危ないヤツはやめてよね…。 |
メリー: |
よし、あの魔法にしよう!ピンシャンピロピロ、ドゥー! |
|
(間) |
火野: |
…何したの? |
メリー: |
ドラゴンの召喚したんだけど…。 |
氷室: |
出てこないではないか…ああっ!?ドラゴンの召喚だあ!? |
火野: |
そんな危険な魔法使うなー! |
マリー: |
きゃあああ!? |
メリー: |
マリーちゃん!? |
火野: |
どうしたの!? |
マリー: |
寒い…。なんだか、気を抜くと誰かに心をさらわれそうで…。 |
氷室: |
心をさらわれる? |
マリー: |
ああああああ!!…おさまった…。 |
メリー: |
もしかして…あたしの魔法のせい? |
マリー: |
そうかもね。まったく、あなたって娘は…。 |
メリー: |
ごめーん。でも、もう平気なんでしょ? |
マリー: |
うん、大丈夫だと思うけど…。 |
氷室: |
どれ、ちょっと顔を見せてみたまえ。 |
|
(氷室、マリーの顔をじっと見る。マリーも氷室をじっと見る) |
氷室: |
(いきなり)キックオフ。 |
マリー: |
はあっ!? |
氷室: |
いや、何でもない…。 |
|
(氷室、再びマリーの顔をじっと見た後、ぺちんと額を叩く) |
マリー: |
痛っ!何すんのよ! |
氷室: |
ふむ…。これはもしかすると、悪魔にとりつかれたかもしれんな…。 |
メリー: |
は?何それ? |
マリー: |
そんなわけないわよ。まあ確かに、小悪魔みたいな女の子だって言われることはよくあるけどね。 |
氷室: |
‥‥‥‥。火野くん、布団とロープを持ってきてくれないか? |
火野: |
何をするんですか? |
氷室: |
このアマを簀巻きにして、学内の池に沈めてくれるわ。 |
マリー: |
だだだだって、本当に言われてるんだもん。(メリーに)ねえ? |
メリー: |
まあ…言われてるって言えば言われてるかもしれないわね…。(小声で)いたずら好きなせいだけど。 |
氷室: |
ふむ、そういうことなら簀巻きはやめてやろう。 |
火野: |
ところで先輩、何の根拠があってマリーちゃんに悪魔がついたなんて言うんです? |
氷室: |
ははははは、根拠は何だと思うかね? |
火野: |
野性の勘? |
氷室: |
ふっ、違うな。 |
メリー: |
女の勘? |
氷室: |
私は男だ! |
マリー: |
タイムボカン? |
氷室: |
そーそー、乗物に乗ってスイッチ押したら、爆発と共に過去の世界へ…って、こら。 |
マリー: |
先輩、ノリがいいわねえ。 |
氷室: |
そもそもなんで知ってるんだ?まあ、それはともかくとしてだな、マリーくんについたその悪魔、私が見事祓っ
てくれようぞ! |
火野: |
はあっ!? |
メリー: |
そんなことができるの!? |
氷室: |
まあ、任せておきたまえ。ちょっと待ってろ。(奥へ) |
火野: |
できるのかなあ、悪魔祓いなんて…。 |
メリー: |
いきなり普通の人間がそう言っても、何ムチャなことをと思うけど…。 |
マリー: |
氷室先輩がメリーのお兄さんなら話は別だわ。 |
氷室: |
(出てくる)やあ、待たせたね。 |
火野: |
先輩、そのカッコは…。 |
メリー: |
どうしていきなり白衣なの? |
氷室: |
いいのだ。これが私流の悪魔祓いだ。 |
マリー: |
なんだかなあ…。まあとにかく、先輩のお手並み拝見といきましょうか。 |
氷室: |
むわーかせて!それではマリーくん、舞台の中央に立ってくれたまえ。 |
火野: |
舞台って言わないでください。 |
氷室: |
それでは行くぞ!はまがちょふぐりぐりたぽん…この者を支配せし、諸悪の根源よ。我の名において、即刻この
場から…。 |
全員: |
立ち去れーい!(ポーズつき) |
|
(間) |
マリー: |
あれ?何も起きない…。 |
メリー: |
はあ? |
火野: |
氷室先輩! |
氷室: |
んー、違ったかなあ…。 |
メリー: |
じゃあ今度はあたしがやってみるわ。ピンシャンピロピロ、ドゥー! |
火野: |
うおっ!? |
|
(突然、「ラジオ体操第一」の曲がかかる) |
火野: |
腕を前から大きく上に上げて、のびのびと背伸びの運動から!(音楽に合わせて体操) |
マリー: |
一さんが壊れたー! |
氷室: |
メリーくん、君って娘は! |
メリー: |
あれ?失敗しちゃった。 |
マリー: |
「失敗しちゃった」じゃないわよ!だからその呪文はやめろって言ってるのに…。 |
氷室: |
何とかしたまえ! |
メリー: |
えーっと、止める呪文は…ピンシャンピロピロ、ドゥー! |
マリー: |
だからそれはー!! |
|
(音楽は止まるが、別の曲が…) |
マリー: |
何これ!? |
氷室: |
これは…茨城県民体操だ!何てローカルなんだ! |
|
(火野、音楽に合わせて体操をする) |
マリー: |
ねえ先輩、何とかできないの!? |
氷室: |
むう、かくなる上は…秘技、気絶点!てやっ!!(火野を突く) |
火野: |
はうあっ!?(倒れる) |
マリー: |
とどめ刺してどうするの!? |
氷室: |
ふう、何とか一命は取り止めたようだな。 |
メリー: |
言葉の使い方、間違ってると思う…。 |
氷室: |
うるさい!そもそも君が変な魔法をかけたせいだろうが! |
火野: |
う…ううん…。(起きる) |
マリー: |
あっ、起きた!一さん、大丈夫!? |
火野: |
ううっ…何か、思いっきり背中を突かれた感触が残ってるんだけど…。 |
氷室: |
それはきっと…気のせいだ、うん!それではみんな元に戻ったところで、本日の魔法実験その二を行う。 |
マリー: |
今度は何やるの? |
氷室: |
ふふふ、リンショウ実験だ。 |
火野: |
えー、あれやるんですかあ? |
氷室: |
つべこべ言うな。では行くぞ! |
火野: |
はいはい。 |
メリー: |
リンショウ実験って…何やるのかしら? |
マリー: |
さあ…。 |
氷室: |
かーえーるーのーうーたーが…。 |
火野: |
かーえーるーのーうーたーが…。(メリーとマリーこける) |
氷室: |
火野くん、ストップ!(メリーたちに)ダメじゃないか、君たちも続けてくれなくては! |
マリー: |
続けられないわよ!こんなことやるなんて思ってなかったもん! |
氷室: |
んー、違ったかなあ…。 |
メリー: |
何か…本気なのか冗談なのかわからない…。 |
氷室: |
二人とも、要領はわかったな?それでは改めて…。 |
火野: |
先輩、もうやめません?魔法の研究に関係ないと思います。 |
氷室: |
何を言うか!魔法の詠唱にはな、はっきりとした発音、大きな声が必要なのだよ。 |
火野: |
ならリンショウ実験なんて言わないで、素直に発声練習とかって言ったらいいんじゃないでしょうか? |
氷室: |
この私に意見するとはな…。火野くん、君とはもう親でもなければ子でもない! |
火野: |
当たり前じゃないですか。 |
氷室: |
うう…とことん私に刃向かうつもりか!そっちがその気ならなあ、私にも考えがあるぞ! |
火野: |
ど…どんな考えですか? |
氷室: |
‥‥‥‥。えーっとお…。 |
火野: |
考えがないじゃないですか! |
氷室: |
ええい、うるさいうるさい!火野くん、いちいちうるさい!そんな男は女にもてんぞ! |
火野: |
変な方向に話を持っていかないでください。大きなお世話ですよ。そう言う先輩はどうなんですか?浮いた噂一
つ聞きませんけど。 |
氷室: |
ふん、本来格闘家という物はな、ストイックでなければならんのだ。 |
マリー: |
そんなこと言っても、性欲の一つくらいはあるんでしょう? |
メリー: |
そうそう、人間は誰でも三つの欲を持ってるんだもんね。 |
氷室: |
それはすなわち食欲性欲破壊欲。しかし私は修業の末に理性で性欲を押さえつけることに成功した。今の私にあ
るのは、わずかな食欲と大いなる破壊欲だけだ。 |
メリー: |
大いなる破壊欲って、ものすごく間題ない? |
氷室: |
とは言えど、全ての性欲をなくすことはさすがに不可能で、ある特定の部類の人間に対する性欲だけは残ってし
まったがな。 |
火野: |
特定の部類の人間って…どんな人たちですか? |
氷室: |
それを君に教える義務はない。とにかく!最強を目指す私に色恋にかまけている暇などないのだ。 |
マリー: |
そんなのつまんない人生よ。ねえ? |
メリー: |
そうそう。せっかく産まれてきたのに恋愛を経験しないなんて寂しすぎるわよ。 |
氷室: |
やけに悟ったような物言いだな。君たちのようなガキンチョにそのようなことを言われるとは、夢にも思ってい
なかったぞ。 |
マリー: |
ガ…ガキンチョですってえ!? |
メリー: |
何よそれ!確かにあたしたちは先輩より年下だけど、伊達に17年間生きてきたわけじゃないんだからね! |
氷室: |
…今、何と言った…? |
メリー: |
だから、伊達に17年間生きてきたわけじゃ…。 |
火野: |
メリーちゃんって17歳だったの!?…マリーちゃんは? |
マリー: |
わたしも同い年よ。 |
氷室: |
何と…。認めん、認めんぞ!ステッキを持った魔女っ娘は、小学校高学年から行ってても中学生ぐらいの年齢で
なければならんのだ! |
メリー: |
あら、それは美少女魔道士に対する偏見よ。 |
氷室: |
うるさい!私の趣味に口出しせんでもらおう! |
マリー: |
あれ?あー、そっか!先輩の言ってる特定の部類の人間って…。 |
メリー: |
ある年齢以下の女の子…。 |
火野: |
それってつまり、氷室先輩があれだってこと? |
マリー: |
そう、あれ。 |
メリー: |
それ以外に考えられないわよね。 |
氷室: |
そのとーり!私はロリコンだ! |
|
(間) |
氷室: |
しまった、自分でカミングアウトしまった…。 |
火野: |
ふーん、それが氷室先輩の本性だったんですか…。 |
マリー: |
ストイックが聞いてあきれるわね…。 |
メリー: |
あたしたちを入部させたのも、それが目的だったのかしら? |
氷室: |
いや、その、あのな…。 |
火野: |
ある意味尊敬してたのにな、先輩のこと…。 |
マリー: |
どうする?やめちゃおっか、このサークル…。 |
メリー: |
何か、身の危険を感じてきちゃったわ。 |
氷室: |
ええい、黙れ黙れ!君たちこそ何だ!ロリコンというだけで人を差別して…それこそ偏見ではないか!私は心で
思っていても、実際に小さな女の子に手を出したことはない! |
火野: |
あっ、開き直った。 |
マリー: |
きゃー、助けてー! |
メリー: |
襲われるー! |
氷室: |
おのれらー!もはや許さん!!銀河爆裂、ギャラクシアンエクスプロージョン!!(爆発音) |
三人: |
うわあっ!?(吹っ飛ぶ) |
氷室: |
今日のサークルはこれまで!ふんだ!!(外へ) |
マリー: |
な…何、今の…? |
火野: |
魔法…かな…。それとも、必殺技かな…。 |
メリー: |
どちらにしても普通の人間のできることじゃないわよ…あたたたたた…。 |
火野: |
じゃあ、さっき言ってた、氷室先輩がメリーちゃんのお兄さんだって話が、真実味を帯びてきたね。 |
マリー: |
メリーのお兄さんって、何年か前に家出しちゃったのよね? |
メリー: |
うん…。あたしのお兄ちゃんとお父さんは、考え方の違いからしょっちゅうケンカしてたの。あたしの家は結構
由緒ある魔法使い一家なんだけど、お兄ちゃんは魔法の勉強はそこそこに、体の方ばかり鍛えてたの。「魔法使
いは体力だ!」って言って…。 |
火野: |
それ、氷室先輩の口癖だよ! |
メリー: |
お父さんはそれが気に入らなくて、ケンカして…とうとうお兄ちゃん、魔法なしで最強になるために家を飛び出
して…。お父さんももう許してくれてるのに…心配してるのに…。 |
マリー: |
メリー、泣かないでよ!そのお兄さんが見つかったのよ! |
メリー: |
うん…。その確信を得るためにあたしはここに入ったんだもん。側にいれば、お兄ちゃんだって証拠が見つかる
かもしれないし…。 |
マリー: |
そういうことだったの…。わかったわメリー。わたしもあの人の正体には興味があるし、しっぽつかむの手伝う
わ。一さんも、ね? |
火野: |
うん。謎だらけの…今日また一つ謎が増えたあの先輩が何者なのか突き止めなきゃ…。 |
マリー: |
ねえ、もしも本当にあの先輩がお兄さんだったらどうするの? |
メリー: |
もちろん、一緒に帰ろうって言うわ。 |
マリー: |
それがいいわ。家族がこんな形で別れて暮らしてるなんて、よくないことだもんね。 |
メリー: |
うん。あっ、このことはお兄ちゃん…じゃなくって氷室先輩には言わないでね。 |
火野: |
わかった。そういえば、お兄さんもロリコンだったの? |
メリー: |
表向きにはわからなかったけど…。 |
マリー: |
でも、裏で何やってたかわからないわよ〜。(三人、うなずく) |
メリー: |
あっ、そうだ。一さん、先輩の連絡先教えてよ。 |
火野: |
それが…知らないんだ。 |
マリー: |
えーっ?それでよく部長と部員やってるわね。困ったことはないの? |
火野: |
別に…。あの人と連絡取りたい時は、ここに来ればだいたいはいるし…。 |
メリー: |
じゃあ…どうすればいいのよ? |
火野: |
明日まで待とう。明日になれば、また先輩はこの部室に来るはずだ。 |
マリー: |
今日、あんな風に機嫌損ねたのよ。サボるってことはないかしら? |
火野: |
いや、あの人は必ず来る。なぜなら、このサークルは先輩の命だからだ。この魔法研究部が廃部になったら、そ
の時は後追い自殺するって言ってたこともある。 |
マリー: |
何よそれ? |
メリー: |
とにかく、明日ここに来る以外にあの人と接触する方法がないんだったらそうするしかないわね。 |
火野: |
うん、そうだね。それにしても、君たちが17歳だったなんてねえ…。 |
マリー: |
あら、それよりも大人っぽく見えて? |
火野: |
ほざけ魔女。それよりも年下に見えたんだよ。 |
メリー: |
どうしてよ?ほら、よく見なさいよ。ちゃんと出るとこ出てるでしょ? |
マリー: |
そうよそうよ。(メリーとマリー、セクシーポーズを取る) |
火野: |
うーん、そうだね…。そうか!精神年齢が低いからだ! |
マリー: |
一さーん、それ以上言うと本気でぷっ殺すわよ。 |
火野: |
…「ぷっ殺す」? |
マリー: |
「ぷっ殺す」。 |
火野: |
「ぷっ」? |
マリー: |
「ぷっ」。 |
火野: |
ごめん、僕が悪かった…。 |
メリー: |
なんだかなあ…。まあいいか。それじゃマリーちゃん、サークルも終わっちゃったし、今日はもう帰る? |
マリー: |
そうね。なんだか疲れちゃったし。それじゃ一さん、また明日。 |
メリー: |
バイバイキーン。(二人外へ) |
火野: |
(二人を見送った後少しして)…バイキン?(暗転) |
|
5 | |
|
(照明がつくとメリーとマリーがいる) |
二人: |
ジャンケンポン!あいこでしょ!あいこでしょ!あいこでしょ!む〜…。(と言いながら次に出す手を考える)
ジャンケンポーン!! |
メリー: |
やったー!勝ちい!! |
マリー: |
うわーん、負けちゃったー!! |
メリー: |
それじゃ、ジュース買ってきてね、マリーちゃん。(と言いながらマリーにお金を渡す) |
マリー: |
はいはい。(外へ) |
|
(少しして氷室が入ってくる) |
メリー: |
!…本当に来た…。 |
氷室: |
ん?何の話だね? |
メリー: |
昨日、先輩が帰った後に三人で話してたの。今日はすねて来ないんじゃないかって。 |
氷室: |
すねる?この私がか?ふん、鼻で笑って、へそが茶を沸かすわ。 |
メリー: |
どんな表現よ。 |
氷室: |
すねたわけではない。私の力を思い知らせただけだ。最近甘く見られていたからな。特に君たちが来てからとい
うもの、火野くんが私に対し反抗的になったのでちょっとばかりお灸をすえてやったのだ。 |
メリー: |
昨日は確かに言い過ぎちゃったわ。ごめんなさい。世の中にはロリコンでも正しく生きてる人、たくさんいるも
んね。 |
氷室: |
ロリコン言うなあ!まったく、どいつもこいつも人を変人みたいに…。 |
メリー: |
違うって言うの? |
氷室: |
何か言ったくわあ! |
メリー: |
ううん、なーんにも。 |
氷室: |
ふん、まあいい。それはそうと並びかえはソート。 |
メリー: |
はいいっ!? |
氷室: |
…すまん、聞かなかったことにしてくれ。 |
メリー: |
…そうね、今のは幻聴ね。それで、何? |
氷室: |
メリーくん、何か悩み事でもあるのかね? |
メリー: |
えっ?ううん、別にないけど…。 |
氷室: |
考えられる理由としては…そうか、金がない! |
メリー: |
はあ? |
氷室: |
そーか、そうだったのか。よーし、いいだろう。普段は金貸しなどしない私だが、他ならぬかわいい後輩のため
だ。トイチで貸してあげよう。 |
メリー: |
トイチ? |
氷室: |
利息が十日で一割だ。あっ、担保はなしでいいぞ。女子供大歓迎だ。 |
メリー: |
ちょっと待ってよ。誰がお金に困ってるって言った? |
氷室: |
何だ、違うのかね? |
メリー: |
違うわよ。だいたいね、あたしん家はお金持ちなの。魔法世界の中でも五本の指に入るほどのね。 |
氷室: |
ふーん、そうなのか。だが、家が金持ちでも本人は貧乏ということもあるんだよな。 |
メリー: |
あたしは人並みにお金持ってます! |
氷室: |
あー、わかったわかった。では、君は何を悩んでいるんだ? |
メリー: |
だから悩んでないってば。強いて言うなら、どうしてあたしってこんなにかわいいのかしらーってことぐらいか
しらね。 |
氷室: |
…寝言が言いたいのならば、私が永久に眠らせてくれようか? |
メリー: |
じょ、冗談じゃないの!まったく、これだからロリコンさんは…。 |
氷室: |
関係ないだろう!メリーくん、君がそれほどまでに私を変人さんにしたいのであれば、お望み通りなってやろう
じゃあないか!氷室零、暴走モード、スイッチー、オン!ドックン、ドックン、ドックン…ウアーッ!はい!暴
走氷室、ゲットアップ!! |
メリー: |
…暴走した先輩って、いつもとどこが違うの? |
氷室: |
通常に比べ、ジャンプカと防御力が低くなっている。 |
メリー: |
なんだかよくわからない…。 |
氷室: |
その代わりに見よ、この機敏な動き! |
メリー: |
…奇妙な動きの間違いじゃないの? |
氷室: |
そしてさらに!暴走した私ならではの行動もあるのだ!! |
メリー: |
えっ、何それ? |
氷室: |
ふふっ、知りたいかね? |
メリー: |
怖い物見たさで…。 |
氷室: |
ならば教えよう。暴走した私は!女の子を手当たり次第に!脱がす!見る!触る!揉む! |
メリー: |
…は? |
氷室: |
魔女っ娘は脱がーす!! |
メリー: |
きゃーっ!!誰かこのロリコン親父何とかしてー!! |
火野: |
待て待て待てーい! |
氷室: |
何奴!? |
火野: |
(奥から飛び出してくる)火野一、見参! |
氷室: |
火野くん!?なぜ君が奥から出てくるのだ!? |
火野: |
こんなこともあろうかと、しばらく前からスタンバってたんです。先輩! |
氷室: |
何だね! |
火野: |
メリーちゃんをいじめないでください。かわいそうじゃないですか。 |
氷室: |
はっはっは、いじめているわけではない。私なりの愛情表現なのだよ。 |
メリー: |
そんな愛情表現受けてたら、体がいくつあっても足りないわよ! |
氷室: |
いくつあっても?メリーくんがたくさん…。(想像する)いーいではないか。 |
メリー: |
うわっ、完全に中年オジン…。一さん助けて!乙女のピンチよ!! |
火野: |
うん。先輩、僕は目が覚めました。もうこれ以上、先輩の暴挙を見過ごせません! |
氷室: |
見過ごせない、とな?それはつまり私を倒すということか…。 |
火野: |
そうです。そしてそうすれば、「OBが部長」という非常識なサークルがなくなります。 |
氷室: |
そうか、私亡き後は君がこのサークルを仕切るということか…。残念だが平成の世に下剋上は起きん。勝つのは
常にこの私である!さあ、かかってきなさい! |
|
(二人身構える。間。少しして爆発音) |
三人: |
!? |
氷室: |
メリーくん、魔法で火野くんの助太刀をするのはルール違反だぞ! |
メリー: |
あ、あたしじゃないわよ!って言うか、ルールなんてあった!? |
氷室: |
では火野くん、君かね? |
火野: |
いえ、僕でもありません。何か、外の方で爆発が起きたみたいです…。 |
氷室: |
外か…。よし、私が見てくる。その間、一時休戦だ。(外へ) |
火野: |
(氷室が外に行った後、崩れ落ちる) |
メリー: |
一さん!どうしたの!? |
火野: |
氷室先輩相手に緊張してたのが、先輩がいなくなったせいで…。 |
メリー: |
あの先輩にあそこまで大見得きれたんだもん、偉い偉い。(火野の肩などをマッサージする)あ、そうだ。一さ
ん、膝枕してあげようか? |
火野: |
な、何言い出すんだよいきなり!? |
メリー: |
いいからいいから。膝枕は男のロマンなんでしょう? |
火野: |
…そんな情報、いったいどこで仕入れたんだい? |
メリー: |
お兄ちゃんが家出をする前にそんなこと言ってたの。女の子に膝枕してもらうのと、女の子をおんぶするのは、
永遠の男のロマンなんだって。 |
火野: |
はあ…。 |
メリー: |
というわけで、どうぞ。 |
火野: |
い、いいってば! |
メリー: |
あれ?なになに、照れてるの?一さんかーわいい! |
火野: |
かわいいって…こら、年上の人間にかわいいはないだろう!からかうんじゃないよ! |
メリー: |
えヘヘ。 |
火野: |
もう…。あっ、それはそうとメリーちゃん、今日マリーちゃんは? |
メリー: |
パシリ。 |
火野: |
あー、そう…。 |
氷室: |
うっひょー!? |
二人: |
? |
|
(氷室が手にハンマーを持って入ってくる) |
火野: |
氷室先輩?さっきの声は何ですか? |
氷室: |
うがーっ!(ハンマーで火野を乱打) |
火野: |
いたっ!いてててて!先輩、やめてください!今は休戦中でしょう!? |
メリー: |
やめなさいよ!ト・メール!!(効果音) |
氷室: |
あうっ!?(動きが止まる) |
火野: |
な…何したの? |
メリー: |
人の動きを止める魔法をかけたの。でも、あまり長くはもたないわ。 |
火野: |
いったい、先輩はどうしちゃったんだ!? |
メリー: |
わからない…。でも、変な魔力を感じるの…。 |
火野: |
変な魔力? |
メリー: |
どす黒くて…何か、ずっと感じてると吐き気がするような魔力を…。 |
火野: |
その魔力を、氷室先輩から感じてるの? |
メリー: |
違う…。先輩からじゃない…。近くに誰かいる!そいつがこの魔カを…! |
火野: |
先輩はそいつに操られてる…? |
メリー: |
うん、きっとそうよ。よーし、あたしがその正体を暴いてあげるわ! |
火野: |
正体を暴く!? |
メリー: |
一さん、手伝って!魔法を使うわ! |
火野: |
僕にできるの!? |
メリー: |
いいからあたしの言う通りやって!先輩にかけた魔法が切れる前に! |
火野: |
わかった!で、どうするの? |
メリー: |
あたしと同じポーズを取って。まずはこう! |
火野: |
こう? |
メリー: |
次にこう! |
火野: |
こう! |
メリー: |
最後にこう! |
火野: |
こう! |
メリー: |
そして呪文! |
二人: |
ピンシャンピロピロ、ドゥー! |
|
(間) |
火野: |
何だよ、何も起きないじゃないか。 |
メリー: |
まあ見ててよ。うーんと…そこだあ! |
マリー: |
きゃあっ! |
メリー: |
え?(リールを巻くマイムをすると腕を引っ張られるようにマリーが出てくる)そんな…マリーちゃん!? |
火野: |
そんな…もしかして、間違いじゃない? |
マリー: |
ふふふ、よくわたしの仕業だってことがわかったわね。 |
メリー: |
えっ、それじゃやっぱり!?マリーちゃん、いったいどうして!? |
マリー: |
わたしはマリーじゃないわ。 |
火野: |
何!? |
マリー: |
わたしはこの娘の体を乗っ取ったのよ。 |
メリー: |
乗っ取ったあ!?いったいあなたは何者なの!? |
マリー: |
あら、自分で呼び出しておいてそれはないんじゃないの? |
メリー: |
えっ? |
火野: |
まさか、昨日のあれで…? |
マリー: |
その通り。で、わたしはこの娘の体を使って遊ぼうって思ってるのよ。 |
火野: |
そんなことはさせない! |
マリー: |
させないって…どうするつもりよ? |
火野: |
悪は許さん! |
メリー: |
ちょっと待ってよ。この娘、悪? |
火野: |
他人の体を操って遊ぼうなんて許されることじゃない!間違いなく悪だ! |
メリー: |
一さんって、こんな熱い人だったんだ…。 |
火野: |
悪は減び正義が勝つ!これが世の常だ! |
氷室: |
ふっ、若いな、火野くん。 |
火野: |
へっ?先輩、気がついたんですか!? |
氷室: |
さっきから魔法にかかったふりをして君たちの話を聞いていたのだよ。しかし、マリーくんの体が乗っ取られる
とは、これはまたやっかいなことになったものだ…。 |
火野: |
そうです!だからここは僕と先輩で手を組んで、あいつをやっつけましょう!正義が勝つということを証明して
あげましょう! |
氷室: |
だーかーら君は、アホなのだ。 |
火野: |
先輩…? |
氷室: |
残念だが、戦いの場においては正義が勝つという思想は甘ったれた物でしかない。正義が勝つのではなく、勝っ
た者が正義なのだ。だが、誰が勝つかと問うならば…。 |
メリー: |
問うならば? |
氷室: |
それはこの、ザ・スーパー無敵オブ最強、氷室零に他ならぬ!つまりはこの私が正義であり、法律であり、ルー
ルブックなのであーる!ふふふふふ…はははははは…はーはっはっはっはっはっは! |
三人: |
‥‥‥‥。 |
氷室: |
と、いうわけで、私が正義であることを証明するために、マリーくんにはその礎となってもらおう。さあ、覚悟
いたせ! |
メリー: |
だからちょっと待ってって!マリーちゃんをやっつけちゃうの!?体はマリーちゃんの物なのよ!! |
氷室: |
そんなことを言っていてはヤツは倒せん!大の虫を殺すためには、小の虫をも殺す必要があるのだ! |
メリー: |
そんな格言ないわよ! |
火野: |
先輩、正義が勝つでも勝った者が正義でもいいですから、早く何とかしましょうよ。 |
氷室: |
よし、いいだろう。私が彼女を倒す。君たちは邪魔にならないようにしていたまえ。 |
マリー: |
もうこうなったらやけよ。いいわ、戦ってあげる! |
氷室: |
ふっふっふ、ついにその気になったか。それではこちらも本気を出させてもらうことにしよう!行くぞ、ざざ虫
パワーアーップ! |
火野: |
先輩、それは! |
メリー: |
何、何なの? |
火野: |
説明しよう!氷室先輩はその怒りが、頂点までは行かなくてもある程度まで溜まった時、決して正義とは言えな
い自分勝手なヒーローへと…。 |
メリー: |
変身するの!? |
火野: |
着替える。 |
メリー: |
(こける)着替え〜?それってコスプレ…。 |
氷室: |
というわけで…。(ズボンを脱ごうとする。メリーとマリー、きゃーきゃー声をあげる) |
火野: |
先輩!女の子の前ですよ!お客さんもいるんだし…。 |
氷室: |
そうか。じゃあ、奥で着替えてくるから、間を持たせておいてくれ。じゃっ!(奥へ) |
|
(間) |
メリー: |
ねえ、あたしたち、この間何やってればいいの? |
火野: |
先輩に言われた通り、間を持たせるしかないでしょ。 |
マリー: |
ねー、まだあ?早くしないと魔法暴発させちゃうわよ? |
メリー: |
一応、待っててくれてるみたいね…。 |
火野: |
結構いい人なのかも…。 |
氷室: |
着替え完了! |
メリー: |
やっと来たあ! |
氷室: |
(出てくる。ただしあまり変わっていない) |
メリー: |
先輩、ほとんど変わってない…。 |
マリー: |
何〜?それがわたしと戦う相手なの〜? |
氷室: |
撲殺仮面参上!部星の広さも、三畳。 |
メリー: |
名前がカッコ悪い〜!! |
火野: |
おまけにギャグはつまらない…。 |
氷室: |
何だね何だね君たち!この洗繍されたフォルム、素晴らしいったらありゃしない! |
マリー: |
ありゃしないのはわかったから、さっさとやるわよ。(やる気なさげに)あー、もー、早いとこ終わりにしちゃ
おっと…。 |
氷室: |
さあ、来たまえ!(身構える) |
|
(間) |
氷室: |
続く。(三人こける) |
火野: |
勝手に続き物にするなー! |
氷室: |
ダメかね?この続きはまた別の機会にと思ったのだが…。 |
火野: |
ダメですよそんなの。この場で終わりにしてください。 |
マリー: |
終わりにしてあげるわよ。わたしの必殺魔法でね!必殺、チュ・ドーン!(効果音) |
氷室: |
ばぁくれぇつ! |
|
(間) |
火野: |
あれ…?何ともない…? |
氷室: |
力に力をぶつけて相殺させたのだ。さあ、そろそろ客も飽きてきた!遊びは終わりだ!行くぞメリーくん、マジ
カルコンビネーションだ! |
メリー: |
えっ、その名前は…。わかったわ、お兄ちゃん! |
|
(音楽) |
氷室: |
愛と! |
メリー: |
勇気と! |
氷室: |
欲望と! |
メリー: |
自分勝手なエゴイズム! |
氷室: |
みんなまとめてみじん切り! |
メリー: |
レンジでチンして、はい、できあがり! |
二人: |
秘技、マジカルコンビネーション! |
メリー: |
ピンシャンピロピロ、ドゥー! |
氷室: |
きゅ〜きょく、超!撲殺ハンマー、ウェルカム! |
|
(間) |
氷室: |
持ってこーい! |
火野: |
僕ですかー!?はい、わかりました!(奥へ。ハンマーを持って戻ってくる)どうぞ! |
氷室: |
(ハンマーを受け取るが…)違う!(ハンマーを投げ捨てる)これはただの撲殺ハンマーだろう!私が欲しいの
は、きゅ〜きょく、超!撲殺ハンマーだ! |
火野: |
超撲殺ハンマーですか? |
氷室: |
ノンノンノン。きゅ〜きょく、超!撲殺ハンマーだ。 |
火野: |
きゅ〜きょく、超!撲殺ハンマー…。 |
氷室: |
そのたうり!わかったらとっとと持ってこーい! |
火野: |
ラジャー!(ハンマーを持って奥へ。別のハンマーを持って戻ってくる)これですか!? |
氷室: |
うむ、ご苦労!(ハンマーを受け取る) |
マリー: |
何?それでわたしを殴り殺そうっての? |
氷室: |
ふふふふふふ…。ブーメラン、ブーメラン、ブーメラン、ブーメラン…。(頭の上でハンマーを振り回す)ニヤ
リ。(ハンマーを床に落とす) |
マリー: |
えっ…? |
氷室: |
氷室行きまーす!ウアーツ! |
|
(次の瞬間、全ての照明が落ちる。暗闇の中でザクザクという音がする。次に照明がつくと、氷室が座って客席
に背を向け、顔だけ振り返った状態になっている) |
氷室: |
ウーツ!(再び照明が落ちる)ウオ!ウオ!ウオォー! |
マリー: |
きゃあああっ!! |
|
(次の瞬間、全ての照明がつく。氷室が客席に背を向け仁王立ち。その側にマリーが倒れている) |
氷室: |
無敵!(霧笛が鳴る) |
メリー: |
(マリーに駆け寄る)マリーちゃん、マリーちゃん! |
火野: |
先輩、何てことするんですかあ! |
氷室: |
どぅわーいじょーぶ!ちゃーんと手加減をしておいた。 |
火野: |
と言うと? |
氷室: |
通常なら17回の攻撃を、15回にしておいた。 |
火野: |
たった二回減らしたくらいじゃ意味ないじゃないですか!だいたい、今の技にハンマーは必要なかったじゃない
ですか。せっかく人が持ってきたのに…。 |
氷室: |
ふふっ、あれは精神統一の踊りのために必要だったのだよ。 |
火野: |
踊りってさっきのブーメランですか?あんなので精神統一ができるとは思えませんが…。 |
氷室: |
ふん、しょせん凡人には、天才の行動は理解できん。 |
メリー: |
ねえお兄ちゃん、マリーちゃんが目を覚まさないんだけど…どうしよう? |
氷室: |
ふふっ、心配するな。あと5秒…4…3…2…1…はい! |
マリー: |
おっはよーございまーす! |
火野: |
本当に起きた!? |
メリー: |
しかも無駄に元気!マリーちゃん、大丈夫なの!? |
マリー: |
う、うん…。 |
氷室: |
大丈夫なはずだ。なぜなら私はマリーくんの肉体にはダメージを与えてはいない。 |
火野: |
どういうことですか? |
氷室: |
今の技はな、暗闇の中で精神的ダメージを与える言葉を唱えるという技なのだ。 |
メリー: |
ウオウオ唸ってただけに聞こえたんだけど…。 |
氷室: |
普通の人間の耳にはそう聞こえる。だが、ターゲットとなった人物の心には、ちゃんとした言葉で聞こえるのだ
よこれが。 |
火野: |
ほんまかいな。 |
メリー: |
でも、どうして言葉だけなのにマリーちゃんは悲鳴をあげたりしたの? |
氷室: |
ふふふ、聞くに耐えない言葉だったんだろうなあ、彼女にとっては。さあマリーくん、もうそろそろ本当のこと
を言ってはどうかね? |
火野: |
本当のこと?何です、本当のことって? |
氷室: |
マリーくんが悪魔にとりつかれたというのは、あれはみんな狂言だ。 |
メリー: |
えーっ! |
火野: |
本当!? |
メリー: |
狂言ってなあに?(三人こける)あらやだ、ベタベタだったみたいね、やっぱり。 |
火野: |
確信犯かい…。それはそうとマリーちゃん、狂言って本当なの? |
氷室: |
私は最初から芝届だと気づいていた。だからあのようにマリーくんをやっつけることを前提とした話をしたのだ
よ。ちなみに暗闇の中でささやいた言葉は、私は本当のことに気づいてるぞ。おとなしく自供したらどうだ。田
舎のお母さんは泣いているぞ。かつ丼でも食うか、といった類だ。 |
メリー: |
まさか…そんな…マリーちゃん、本当なの? |
マリー: |
‥‥‥‥。 |
氷室: |
沈黙は肯定を表す。私の言ったことが事実だということだ。 |
火野: |
でも、それじゃメリーちゃんが感じたどす黒い魔力ってのは…。 |
氷室: |
その魔力の正体はこれだ。 |
マリー: |
えっ?あっ、いつの間に…。 |
氷室: |
先ほどの暗闇の中で拝借させてもらった。メリーくん、これが何だかわかるかね? |
メリー: |
これは…デビルボトル…? |
氷室: |
そう、暗黒の力を貯えておける小瓶、デビルボトルだ。 |
メリー: |
でも、この小瓶じゃあんな強い魔力は出せないはずじゃ…。 |
氷室: |
おおかた、マリーくんが改造してより強力な魔力を放出できるようにしたのだろう。さあて、話してもらおうか
な?なぜ君は、アイテムを改造してまで、悪魔にとりつかれたふりをしたのだ? |
マリー: |
ふ…ふえええええええ…。 |
火野: |
あーらーらこーらーら…。 |
メリー: |
泣ーかした泣ーかした…。 |
二人: |
氷室先輩が泣ーかした…。 |
氷室: |
だ、黙らんかい!ほら、マリーくんも、いいかげんに泣きやみたまえ。 |
マリー: |
ひっくひっく…。 |
火野: |
あーらーらこーらーら…。 |
メリー: |
泣ーかした泣ーかした…。 |
氷室: |
泣くんじゃねー!泣いて全てが解決すると思ったら大間違いじゃー! |
マリー: |
きゃー!ごめんなさーい! |
メリー: |
あっ、泣きやんだわ。まさに泣く子も黙るね。 |
火野: |
でも氷室先輩の場合、泣く子をさらに泣かせることもあるんだよね。 |
氷室: |
余計なことは言うな!さてとマリーくん、いいかげん話してもらおうか。このままでは話が進まん。 |
マリー: |
正体…確かめたかったの…。 |
氷室: |
正体だと?いったい誰の正体なのかね? |
マリー: |
もちろん氷室先輩よ。わたしが悪魔に操られたことにすれば、本当の本気を見せてくれるんじゃないかって思っ
て…。 |
氷室: |
本気か…。確かに私としたことが、少しばかり熱くなり過ぎてしまったようだ。芝居だとわかっていたにもかか
わらずな。だがなマリーくん、あれを見たまえ。 |
マリー: |
あっ、きれいな満月…。 |
火野: |
あの、ここって室内…。 |
氷室: |
月を見るたび思い出せ。人に本当のことをしゃべらせるのは力でも嘘でもない。この人にならば本当のことを話
してもいいと思わせること…すなわち、信頼関係が大切なのだよ。 |
マリー: |
はい!あの、先輩…。 |
氷室: |
(無言でマリーの肩に手を回す) |
マリー: |
!…先輩…。 |
氷室: |
足払いー!(マリーの足を払う) |
マリー: |
きゃあっ!?(尻もちをつく)いたたたた…。ちょっと、何すんのよ!? |
氷室: |
はーっはっはっは、完・全・勝・利ー!! |
火野: |
せ、先輩!こんな女の子に完全勝利してどうするんですか!? |
氷室: |
私の気分がよくなる。 |
火野: |
‥‥‥‥。それだけですか? |
氷室: |
他に何があると言うのだね? |
火野: |
‥‥‥‥。 |
氷室: |
そして、私に敗れた女の子は、もれなく脱がされる運命にー!! |
メリー: |
いいかげんにしなさーい!!(ハンマーで氷室の頭を殴打) |
氷室: |
おうっ!? |
メリー: |
お兄ちゃん、それはただの変態さんよ!! |
氷室: |
痛てててってー…。メリーくん、さっきから気になっていたのだが、その「お兄ちゃん」というのはいったい何
なのだね?まあ確かに、妹でない女の子に「お兄ちゃん」と呼ばれるのは、世の男性諸君の多くが持っているで
あろう望みだが…。 |
|
(このセリフを聞いたメリーとマリーが火野のことを見る。火野は自分は違うというゼスチャー) |
メリー: |
(氷室の方を見て)とぼけないで。氷室零っていうのは嘘の名前で、本当はあたしのお兄ちゃんのゲイル・イー
スなんでしょう? |
氷室: |
はて〜、何のことやら。 |
メリー: |
まだシラを切るつもりなの!?さっき使ったマジカルコンビネーションはイース家に伝わる奥義で、一族以外に
知ってる人はいないはずよ。 |
火野: |
そうなの?先輩、ここまで証拠がそろってたらもう逃げられませんよ。 |
マリー: |
そうよ。本当のことを言った方がいいと思うわ。 |
氷室: |
はっはっは。本当のことも何も、私は氷室零、それ以外の何者でもない。 |
メリー: |
‥‥‥‥。わかったわお兄ちゃん。そっちがその気なら、あたしにも考えがあるわ。力ずくで魔法世界まで連れ
てっちゃうんだから! |
氷室: |
力ずく、だと?おもしろい。私に対しケンカを売ったと見なす! |
火野: |
ちょっと待ったあ!氷室先輩を倒すのは僕の役目で…。 |
メリー: |
行くわよ、お兄ちゃん! |
氷室: |
かかってきたまえ! |
マリー: |
やっちゃえやっちゃえ!わたしは高みの見物してるから。 |
火野: |
人の話聞いてよ! |
メリー: |
先手必勝!ピンシャンピロピロ、ドゥー! |
|
(地響きがして、だんだんと大きくなる。同時に照明がいろいろな色に変化する) |
火野: |
な、何だ? |
氷室: |
まさか! |
|
(今までにない大きな爆発音) |
三人: |
ぐわああっ!(吹っ飛ぶ) |
メリー: |
あれ…?あはは、失敗しちゃったあ★ |
マリー: |
「失敗しちゃったあ★」ぢゃねえわよ、この爆裂天然へっぽこ人災魔法娘! |
氷室: |
何度目の失敗だ、これで! |
火野: |
ちったあ学習能力を身につけろ! |
メリー: |
あはははは〜…ごめーんね★(オチの音楽の後暗転、END) |
|