とあるセンパイの受難

「センパイ、男の人紹介してくれませんか?」
「またか。この間紹介したあいつはどうした?」
「あの人?ちょっと付き合ったけど、合わないから別れちゃいました。というわけで、別の人紹介してくれません?」
「あのなー、俺はそーゆーコンサルタントをやってるわけじゃないんだ。そう何人も紹介できるわけないだろう。だいたいな、俺がこ
れまでにいったい何人の男をおまえに紹介してやったと思ってるんだ?」
「何人でしたっけ?」
「六人だ六人。しかもどいつとも長続きしなかったし…。そのおかげで友情にヒビが入りかけたことだってあるんだからな」
「それはすみません。で、誰かいません?」
「おまえな…。まあ、心当たりがないわけじゃないけど…」
「本当!?じゃあ、会わせてくださいよ」
「わかったわかった、そのうちな」
「えへへ、ラッキー」
「けど、おまえももうちょっと落ち着いた方がいいと思うぞ。そのうち、あいつは遊び人の尻軽女だなんて噂立てられちまうぞ」
「センパイ、わたしのことをそんな風に見てたんですか?ひっどーい!」
「俺はそんなこと思ってないってば。でも気をつけないと本当に…」
「わかりましたよ。今度からなるべく気をつけます。それじゃセンパイ、さよなら」
「あっ、おい、ちょっと…しょうがないな、あいつも…」

「そういうわけで、俺と付き合ってくれないかな?」
「‥‥‥‥」
「ダメならダメでいいから、この場で返事聞かせてくれない?」
「‥‥‥‥。ごめんなさい、わたし、彼女のいる人と付き合うつもりはないんです」
「へっ…?」
「それじゃあ、そういうわけで…」
「ちょっと待ってよ、彼女って何だよー!?…行っちゃった…」
「あっ、いたいた、センパーイ」
「なんだ、おまえか…あーっ、彼女ってこいつかー!!」
「何?何のこと?」
「おまえが俺につきまとってるおかげでなー、俺はフラれちまったんだよ!」
「何だかよくわからないけど…それよりも、いつになったら新しい男の人紹介してくれるんですか?」
「ああっ?そのうちって言ったろ」
「センパイ、そんなこと言ってもう三日も四日もわたしから逃げてるんですよ。今日こそはちゃんと…」
「そんなこと言ったって、そいつ、今日はもう帰って…あれ?」
「どうしたんですか?」
「あいつ、まだ帰ってなかったのか。おーい!」
「ん?何だ、おまえか。なんの用だ?」
「おまえ、女の子紹介しろって言ってたよな?」
「ああ。それで?」
「こいつなんてどうだ?」
「その娘?だってその娘、おまえの彼女だろ?」
「違いまーす。センパイなんかこれっぽっちも相手にしてませーん」
「おまえってヤツぁ…まあいい。とにかく、俺はちゃんと引き合わせたんだからな。あとはおまえらで好きにしろ。じゃあな」

「センパ〜イ」
「どうした、泣きそうな顔して…って、おまえが俺の所に来るのは男紹介してもらいたい時だけだな。またあいつもダメだったのか」
「違うんです。わたしたち、趣味とか好みとかがぴったりで、紹介してもらったその日から付き合うことにしたんです。それから何日
か過ぎてるけど、本当にこれぽっちも不満がないんですよ」
「よかったじゃないか。これでおまえが俺につきまとうこともなくなるな」
「でも…」
「でも…何だ?」
「不満はないけど満足もしてないんです。わたしって、もしかしたら一人の男の人と付き合うだけじゃ満足できない、そんな女なんで
しょうか!?」
「俺にそんなこと聞かれても…。そもそもさあ、どうしておまえってあれほどまでに彼氏作りたがってたんだ?」
「それは…この歳になって彼氏の一人もいないようじゃみっともないかなーって…」
「世間体ってヤツか?言っとくけどそれは間違ってるぞ。おまえぐらいの歳で彼氏彼女がいない連中なんてゴマンといるんだ」
「センパイとか?」
「言うな!…とにかくな、そう焦って彼氏を作る必要なんてどこにもないんだよ」
「そんなこと言われても、わたしにはもう彼がいるんです。どうしたらわたしが満足できるかを知りたいんです」
「うーん…。おまえってさあ、もしかして彼氏ができるまでを楽しんでたんじゃないか?」
「何ですか、それ?」
「つまりだ、俺に男を紹介しろって言って、その俺がどんなヤツを紹介するかをドキドキワクワクしながら待ってる…それが楽しかっ
たんじゃないか?」
「あっ…」
「心当たりがあるのか?だから俺が紹介するとそこで楽しみは終わり、すぐにそいつと別れちまう…。そういう悪循環なんだよ」
「もしかしたら…そうかもしれない…」
「だとしたら、解決策は一つしかないな。今付き合ってるヤツと別れて、また俺に別の男紹介しろって言う。で、俺は紹介せずにいる
と。そうすれば、おまえはずーっとドキドキワクワクしていられるからな」
「そんなのいやですよ!それって、一度フリーにならなきゃいけないわけでしょう?だってわたし、あの人のこと好きだし…」
「なーんだ、結局はそれが本音か。なんだかんだ言ってあいつのことが好きなわけだ。だったら、今こういう状態だったとしても、こ
のまま付き合ってれば改善されてくんじゃないの?」
「…わかりました。もうちょっとあの人と付き合ってみます」
「そうか。それがいいよ」
「じゃあ、今日はこれで…っと、そうだ」
「何?」
「今度、センパイに女の子紹介してあげますね!」

<了>

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