デイルの勧誘

 まったく、ルーファスのヤツ、一週間かかってたったの二人しか入部させられなかったのか。しかも、その二人はいずれもクラスメ
イトだ。アリシアと真琴とかいう名前だったが、知り合いのお情けで入ってもらったようなもんだな。まったく情けない。あんなヤツ
を俺の次のマスターにしたのは失敗だったかな。
 …とは言え、あいつしか部員がいなかったから仕方なかったか。
 とにかく、あのクソ生徒会長は最低でも五人の部員を入部させないと廃部にするなんて言ってやがる。こうなりゃ俺があと三人勧誘
するしかないか。

 さて、まずは学内広場に来てみたが、誰かいるだろうか。
「ルーファスおにーちゃーん!」
 ん?おわー!?何だこのハーフキャットの女の子は!?俺の足にひっつくんじゃない!!
「シンシア、やっぱりおにーちゃんのアカデミーにはいるー!」
 ええい、うっとうしい!
「俺はルーファスじゃない!」
「えっ?あっ、ほんとだ」
 やれやれ、やっと離れてくれたぜ。
「ごめんなさい。ルーファスおにーちゃんとおなじにおいだったから、シンシアまちがえちゃった」
 ん?シンシアだって?
「シンシアって俺の幼なじみがこのS&Wに入ってきたんですよ。で、俺のアカデミーに入ってくれないかって言ったんですけど、料
理のアカデミーに逃げられちゃいました」
 俺はルーファスがそんなことを言っていたのを思い出した。自分の幼なじみも勧誘できないとはつくづく情けないなあの男は。
「シンシア君、料理のアカデミーはどうしたのかね?」
「なんか、すっごくむずかしそうなんだもん、はいるのやめちゃった。あれっ?どうしてそのことしってるの?」
「実は俺はルーファスの知り合いでね、彼からそのことを聞いたんだ。ところで、ルーファスのアカデミーに入ってくれるというのは
本当かね?」
「うん。シンシア、やっぱりおにーちゃんといっしょにいたいもん!」
 これは脈があるぞ。労せずして一人獲得だな。
「それじゃあ、今すぐアカデミールームに行ってみなさい。ルーファスが待ってるはずだよ!」
「うん!わーい、おにーちゃーん!!」
 何か、ものすごい勢いで走っていったな…。とにかくあと二人か。最初の一人はあっさりと勧誘できたが、次はどうかな?

 普通学科と魔法学科に行ってみたが、なぜか誰もいなかったな。闘技学科には…おっ!
「おーい、そこの犬人間君!」
「!!」
 何だ?ものすごい形相でこっち見たぞ。
「誰が犬だー!!」
 げっ、突っ込んできやがった!
「ちょ、ちょっと待て!やめろ、落ち着け!!」
「うがー!!」
 まるで聞いてないな、こりゃ。仕方がない、魔法を使うか。
「アース・バインド!」
「うっ!?」
 地面に縛りつけてやったから、これで一安心だな。
「この野郎!!」
「何をそんなに怒ったんだ、ん?」
「あんた、俺のことを犬って言ったろう!俺は人狼族であって犬じゃない!俺のことを犬呼ばわりするのは最大の侮辱だ!!」
「そうだったのか。知らぬとは言え、それはすまなかったな」
「ずいぶん素直に謝るじゃねえか…。そう下手に出られちゃあ、これ以上怒るわけにもいかないな。こっちこそ悪かった。俺、ああい
うこと言われると、相手が誰でもみさかいなく怒っちまうんだよ。…ところであんた、どうして俺に声をかけたんだ?」
「そうだ、忘れていた。君はどこかのアカデミーに入っているかね?」
「アカデミー?去年は格闘のアカデミーに入ってたけどな、弱いヤツばかりで話にならなかったからやめたんだ」
「そうか!どこにも入ってないのか!それでは、ウィザーズアカデミーなんかどうかな?魔法のアカデミーなんだが…」
「魔法か…。苦手なんだよな…」
「それなら鍛えるために入部してみてはどうかね?君の格闘の強さに魔法が加われば、それはもう天下無敵だよ!」
「なるほど…。あんたの魔法はすごい威力だが、そこで鍛えたのか?」
「そうだ。俺はOBだが、今のマスターも俺に負けず劣らず強いぞ」
 二つも嘘をついてしまった。俺の魔法はこれはもう才能以外の何物でもないし、ルーファスと俺とじゃ天と地ほどの差がある。
「そいつは楽しみだな…おっ、動けるようになったぞ。魔法の効果が切れたんだな。それじゃあ、そのウィザーズアカデミーとやらの
アカデミールームに行ってみるか!じゃあな!!」
 あっ、行っちゃったよ。俺の言葉を信じたみたいだな。嘘も方便か。とにかく入ってくれるみたいだし、よかったよかった。さて、
あと一人か!

 この時間帯なら図書館に人が集まっていると思って来てみたが、ピタリ的中だ。自分の読みの鋭さに感心してしまうな。さて、どの
人間を勧誘しようか…。よし、あのメガネの女の子にしよう。
「やあ、こんにちは!」
「えっ?あっ、はい、こんにちは…」
「突然で失礼だが、君はどこかアカデミーに入っているかね?」
「い、いえ…去年は入っていましたけど、今は…」
「入っていないのか!それでは、ウィザーズアカデミーなど…」
「ご、ごめんなさい!」
 あれ、走っていっちゃったぞ。まあいい。このくらいで逃げてしまうような人間など、俺…じゃなくて我がアカデミーは必要として
いない。
「あっ、デイル・マース!どうしてこんなところに!?」
 あん?誰だ?…げっ、ソーニャ・エセルバート…!この女、性格きついから嫌いなんだよな…。
「どうして卒業したはずの悪の権化がこんな所にいるの!?」
「悪の権化とはご挨拶だな。卒業したからって学園に来ちゃいけないって決まりはないだろ?」
「あなたみたいな人間が学園に出入りするようならば、そういう規則を作った方がいいかもしれないわね」
「かわいくねー女だな。そんなだから男が寄ってこないんだよ」
「‥‥‥‥」
 あれっ、何も言い返してこないぞ…って、この女、何か魔法唱えてるぞ!
「エア・ブラスト!」
 ちょっと待て!こんな所でそんな攻撃魔法を使うんじゃない!
「エア・シールド!」
 とりあえず、魔法の盾で空気の固まりをはね返しておいた。
「くっ…!ならば次はこれよ!フレイム・アロー!!」
「バカ!図書館で火の魔法を使うなんて…!!」
 俺が言うとソーニャははっとした。仕方ない、あの魔法を使うか。
「メイク・ウォーター!」
 俺が作り出した水がソーニャのフレイム・アローを消した。周囲が水びだしになってしまったが、本が燃えてしまうよりはましだ。
「ソーニャ君、いかなる場合にも熱くなってはいけないな」
「大きなお世話よ!それじゃあ聞くけど、去年あなたが行った破壊活動は、理性を保ったままやったことだって言うの!?」
「まっ、それがほとんどだな」
「し、信じられない…。いったい何考えてるのよ!?…そういえば、あなた、ウィザーズアカデミーのOBだったわよね?」
「まあな。今も新入部員を探してるところだ。君には関係ないがね」
「関係ないって…わたしが入部しちゃいけないって言うの!?」
 あん?この女、何言ってんだ?
「わたし、ウィザーズアカデミーに入部するわ!」
「えっ?」
「そこであなたを越える魔力を身につけるわ!そしてその魔力でいつかあなたを倒してあげるから、見てなさいよ!!」
「そりゃどーも…」
 何だかよくわからないが、入部してくれるのならばよしとしよう。そして、これで新入部員五人獲得だ!

 それにしても、今年はやけにおもしろいメンバーが集まったな。ああ見えてもルーファスは人徳があるから、一度入部させてしまえ
ば逃げられることもないだろう。さてと、どうやってあの六人をいじめてやろうか。とりあえず、今開発中の魔法の実験台にでもなっ
てもらうとしようか。くっくっくっくっく…。

<了>

図書室へ