スーパーリアルmoo雀PV

*注意
1.この話にはかなり専門的な麻雀用語が出てきますので(特に東三局)、麻雀を知らない人は楽しめないかもしれません。
  ご了承ください。
2.脱ぎません。

東一局 仲間を増やそう
 その日、学校の終わったマリアとトリーシャは二人で道を歩いていた。
「あーあ、何かおもしろい遊びないかなあ」
 ふとトリーシャがつぶやいたこの言葉を聞き取ったマリアはこんなことを言った。
「あるわよ、とっておきのおもしろい遊びが」
「マリアが言うんじゃ、どうせ魔法絡みの何かでしょ?」
「違うもん、マリア、魔法だけじゃないもん」
「ふーん。それじゃ、そのとっておきの遊びっていうのを教えてよ」
「いいわよ。ちょっと耳貸して」
 そうしてマリアがトリーシャに耳打ちをしたのだが−。
「ま、麻雀!?麻雀って、あの!?」
「他にどんな麻雀があるのよ?」
「そりゃそうだけどさあ…。だけど、麻雀なんていけない大人がやる遊びなんじゃないの?」
「もー、そんな偏見を持った人たちばかりだから麻雀が流行らないのよ!」
 突然、マリアが大きな声をあげ、続けてこんなことを言った。
「いいトリーシャ?危ないのはお金をかけたり、負けた女の子の服を脱がしちゃうようなことをしてる人たちで、麻雀そのものは全然
危険じゃないの。本当におもしろいんだから。実はマリア、魔法の次に麻雀が好きなのよ」
「へ、へえ、そうなんだ…。でも、麻雀なんて流行ってないし…」
「何言ってるのよ。流行してないんだったら流行らせればいいんじゃない」
 こう言われたトリーシャは少し考えた。確かにマリアの言う通りである。流行っていない麻雀を街中に広げることができれば、それ
は自分の手で流行を作り上げることになる。そう思ったトリーシャに、さらにマリアが言う。
「ねー、やろうよトリーシャ。実は周りに相手してくれる人が全然いなくてさあ…」
 これを聞いたトリーシャはさらに少し考えた後、にっこりと笑ってマリアに言った。
「いいよ、やろう。なんだかおもしろそうだし」
「えっ、本当?ラッキー!」
「ただし、ボクはルールとか全然知らないから、ちゃんと教えてよ、ね?」
「それはもちろんよ。それじゃ、マリアの家に行きましょう!」
 こうして二人はマリアの家へ。その一室、マリアの部屋で彼女とトリーシャが雀卓を挟んで座っていた。卓の上には牌もある。
「それじゃマリア、まずは何から教えてくれるの?」
「えっとねえ、席の決め方に山の作り方に牌の配り方に、それから…」
「うーん、何かたくさん覚えることがありそうだなあ…」
「そんなことないわよ。すぐに覚えられるって」
「そうだよねえ、マリアが覚えられるくらいだし」
「ちょっと、それどういう意味?」
「ベ、別に深い意味はないよ。じゃあ、さっき言ったこと、一つずつ教えてくれる?」
「何か引っかかるけど、ま、いっか。それじゃ最初はねえ…」
 こうしてマリアの麻雀講座が始まった。確かに、トリーシャはマリアが教えることを意外と簡単に覚えることができた。
「じゃあ、次はいよいよ役について教えるわ」
「マリア、ちょっとタイム。悪いけど、今日はここまでにしてくれないかな?一度にたくさんのこと教わったから、何か頭痛くなって
きちゃった。それに、そろそろ家に帰ってご飯作らなきゃいけないし…」
「そっか、じゃあ、今日はこれで終わりにしましょう」
「ごめんねマリア。せっかく教えてくれてるのに」
「ううん、いいってば。それじゃ、続きはまた明日ね」
「うん」
 こうしてその日の麻雀講座は終わった。

 そして次の日、またもトリーシャはマリアの部屋にいた。
「それじゃ、昨日の続きね。確か今日は役の説明からよね?」
「あの〜、マリア、ちょっといい?」
「何?」
「よく考えたらさあ、麻雀って四人でやるもんだよね?だから、こんな風に二人で勉強してもあんまり意味はないんじゃないかなあっ
て思うんだけど…」
「そんなことないわよ。二人だって四人だってやることはだいたい同じなんだから。だから、まずは二人麻雀に慣れて、それから本格
的な四人麻雀に移行していけばいいのよ」
「うーん、そういう物なのかなあ?」
「そういう物なの」
「うーん…ま、いっか。じゃあマリア、役だったっけ?それの説明してよ」
「わかったわ。えーっと、まず最初に教えるのはピンフって役で…」
 そしてマリアはトリーシャに麻雀の役を教えていった。トリーシャはそれらを、自分でも意外なほどすらすらと覚えていく。
「で、これが最高の役、九連宝澄よ」
「ふーん、チュウレンかあ…」
「これで全部の役の説明が終わったんだけど、どうだった?」
「うん、何か、説明聞いてたらものすごく麻雀やりたくなってきちゃった。ここまで覚えればもうできるんでしょう?」
「うーん、まあ、できることはできるんだけど…」
「けど?」
「実はあと、点数計算っていうのがあって…」
「げっ、ボク、計算って苦手…。マリアはできるの?」
「あはは、実を言うとマリアもこれだけは苦手なのよね。麻雀の計算には、符とかそういうのがあって…」
「うーん、よくわからない…」
「そうでしょうね。それでね、マリア考えたんだけど、誰か頭のいい人をマリアたちの仲間に引き込んで…」
「その人に計算全部任せようって言うの?」
「さ、最初のうちだけよ。やってもらってるうちに、マリアたちも自然に計算できるようになってくわよ、きっと」
「そんな物かな…。それで、誰を誘うかもう決めてあったりするの?」
「ふふふ、それはねえ…」
 ほくそ笑みながらマリアが口にしたその人物の名は−。

「ねえ二人とも…これは…何?」
 翌日、マリアの部屋に用意された麻雀用具一式を見てそんなことをたずねたのは、彼女やトリーシャと共にエンフィールド学園に通
うシェリルだった。マリアが麻雀仲間に引き込もうとしているのは彼女なのである。
「見てわからない?麻雀よ、麻雀」
「麻…雀…!?」
「そう。マリアがボクに教えてくれたんだけど、二人だけじゃつまらないからシェリルも仲間に入れてあげようと思って」
「そんな、私、麻雀なんてしたことないし…」
「大丈夫大丈夫。トリーシャにだってすぐに覚えられたんだから、頭のいいシェリルだったらもっと簡単に覚えられるって」
「そ、そういう問題じゃなくて…」
「あーもうじれったいなあ!ウダウダ言ってないでそこに座る!」
「は、はい!」
 マリアやトリーシャの勢いに押され、シェリルは彼女たちに半ば強引に麻雀を教え込まれることになったのである。

 その一週間後、シェリルは旧王立図書館で一冊の本を手に取り、それをカウンターに持っていった。
「こんにちはイヴさん。今日はこの本を借りたいんですけど…」
「あら、こんにちはシェリルさん。何を借りていくのかしら?…えっ?」
 その本を見たイヴは本当にほんの少しだけ驚いた様子を見せた。そのタイトルは、「麻雀入門・こうすれば強くなれる」−。
「シェリルさんがこんな本を借りるなんて…。いったいどういうこと?」
「えっと、それは…」
「まあいいわ。あなたがどのような理由でこの本を借りていくかということは私には関係のないことだし、新しい世界に足を踏み入れ
るのもいいことだわ」
 イヴはそんなことを言ったが、こう言われたシェリルは心の中でこうつぶやいた。
(足を踏み入れるどころか、もうどっぷりと浸かっちゃってます…)

東二局 麻雀部を作ろう
 マリアがトリーシャとシェリルを麻雀の道に引きずり込んでから、約一ヶ月が過ぎた。
「トリーシャちゃん、それ当たり…」
「げっ…」
「あはは、トリーシャってばまた振り込んでんの」
「う、うるさいなあ。こんな迷彩バリバリの待ちを読めって言う方が無理なんだよ!」
 この三人はこんな風に麻雀を楽しんでいた。しかし、メンバーがそろわないために本格的な四人打ち麻雀ではなくサンマであった。
そして、いつの間にかトリーシャよりもシェリルの方が強くなってしまっていたのである。さすがに彼女に麻雀を教えたマリアにはか
なわなかったが。
「ねーねー二人とも、そろそろ三人で打つのにも飽きてこない?」
 突然、マリアがトリーシャとシェリルにそんなことを言った。
「そうだねえ…確かに麻雀は楽しいけど、いっつも同じメンツじゃちょっとねえ…」
「私もそう思うわ。同じメンバーだと、自然に同じような打ち筋になってきちゃうし…」
「そもそも麻雀ってのは、四人でやる物なんだしね」
「そう思うでしょ?だからこの辺で新しい人を仲間に入れない?」
「新しい人?」
 トリーシャとシェリルが聞き返した。
「そう。それも一人じゃなくって、一気にどーんと増やすのよ」
「ど、どうやって?」
「エンフィールド学園に麻雀部を作るのよ」
「えーっ!?」
 いきなりのマリアの提案にトリーシャたちは驚いた。マリアは続ける。
「学校に正式な部として認められれば麻雀人口も増えるはずよ。何たってこっちにはトリーシャがいるんだから」
「えっ、ボク?」
「そうね、流行に敏感なトリーシャちゃんがやってるゲームってことで、他の人たちが流行の最先端だと思うかもしれないわね」
「そういうこと。さあ、そうと決まれば明日にでも学校に申請するわよ!」

 そして、翌日。前日の話通り、マリアたち三人はエンフィールド学園に麻雀部設立の嘆願書を出した。しかし−。
「もー、頭来ちゃうわね!話を切り出したとたんにいきなりダメだって言うんだもん」
「そうだよね。もう少し話を聞いてくれてもよかったのに」
「やっぱり学生が麻雀をするのはいけないことなのかしら…」
 この三人の会話からわかるように、彼女たちの申請は受理されなかったのだ。だが、これであきらめるマリアたちではない。
「こうなったら作戦変更よ。今回の敗因は、麻雀部を作りたいって言ってるのがマリアたち三人だけだったせいだと思うのよ」
「確かにたった三人で部活動として認めろというのもかなり無理な話よね」
「ということは、もっと人数を増やしてから申請すれば認めてもらえるかもしれないってことだね?でもそれって本末転倒してない?
だって、ボクたちが麻雀部をつくるのは麻雀人口を増やすためでしょ?それなのに人が増えなきゃ部ができないなんて…」
「この際細かいことは気にしないの。とにかく仲間を増やせばいいのよ。でも誰がいいのかなあ。最初の一人ぐらいは単なる人数合わ
せじゃなくってちゃんと麻雀できる人がいいし…」
「うーん、学園にボクたち以外で麻雀ができる人なんているのかなあ…」
「トリーシャちゃん、別にこの学園の生徒である必要はないのよ。確か『部の設立および尊属に関する既定』には、『学外の人間でも
有志であれば部員として認める』ってあったはずだから」
「へえ、そうなんだ。だとしても心当たりないなあ、ボク…」
「マリアも知らなーい。ねえ、シェリルは誰か知らない?」
 こう聞かれたシェリルはしばし考え、そしてこう言った。
「あの…今思い出したんだけど…」
「えっ、誰かいるの!?」
 マリアの目が輝いた。
「ええ。秀さんなんだけど…」
「秀さんって、ジョートショップの?」
「あっ、思い出した。そういえばシェリルと秀って付き合ってるのよね?」
「あーっ、そうだ。自分と秀さんのことをモデルにした恋愛小説書いて、貸し切り状態にした図書館で告白して…」
「い、今はそんな話してるんじゃないでしょ?麻雀部のことでしょう?」
 そうやって話を戻そうとするシェリルの顔は真っ赤になっていた。
「ま、シェリルと秀のことについては後でじっくり聞くとして、とにかくあいつが麻雀できるって本当なの?」
「ええ。この間秀さんに、私がマリアちゃんたちに麻雀を教え込まれたってことを話したら、そんな話になって…」
「そうなんだ。ねえマリア、秀さんの所に行ってみようよ」
「ええ、そうね。それじゃ、ジョートショップにレッツゴー!」
 こうして三人の女の子たちは秀のいるジョートショップに向かった。

「なるほどね、話はわかったよ」
 そう秀が言った。ここはエンフィールドの何でも屋ジョートショップ。その日の仕事を終えた秀が店で一息ついていると、マリアた
ちがやってきて麻雀部の話をしたのである。
「シェリルに話は聞いてたけど、そこまで入れ込んでるとはね…。それで、ぶっちゃけた話俺にその麻雀部に入れと」
「うん、そういうこと。ねえ秀、お願いだよ」
 マリアがすがるような目で言う。シェリルも秀のことを見ている。もちろんトリーシャも。そんな彼女たちに秀はこう言った。
「別にいいぜ。まあさすがに毎日出ろってのは無理だけど、それでもいいならな」
「えっ、本当?ありがとう、秀!」
「ははっ、いいっていいって。それじゃ、さっそく一局打つか?」
「打つって…ここでですか?」
「ああ。ちょっと待ってな」
 そう言うと秀は一度店の奥に消え、そして何かを持ってまた戻ってきた。
「それってもしかして雀牌と雀マット…?」
「そうだ。さあ始めるぞ。おまえたちの強さがどれほどか試してやる」
「むぅ、かなり自信がありそうね…。でもそのセリフ、そっくり返すわ。トリーシャ、シェリル、本気でやってあげましょう!」
「おーっ!」
「え、ええ…」
 こうして、ジョートショップに卓が立った。

東三局 初めての四人打ち
 席決めの結果、トリーシャが東、マリアが南、秀が西、シェリルが北という座席になった。東一局の親もトリーシャになった。 なお、ルールはアリアリ、持ち店は各人25000点である。
「よーし、いきなり親だし、張り切っちゃうもんねー!」
 そんな元気な声を出してトリーシャがサイコロを振る。そして牌が配られて、いよいよ対局開始である。
 まず東一曲は秀がリーチをかけたマリアから白、中の手を上がった。この時点で秀28000点、シェリルとトリーシャがそれぞれ
25000点、マリアが22000点。
 次の東二局はシェリルがトリーシャのピンフのみに振り込んだ。
 そして続く東三極だったが、これがマリアたちにとって悪夢のような局となってしまった。親になった秀がすさまじい攻撃を見せた
のである。
「ピンヅモドラ1、1300オール!」
「シェリル、その中は当たりだ。中ドラドラで5800点!」
「悪いね、またツモっちゃった。のみ手だから500オールね」
「ロン!タンヤオのみの1500点だぜ、トリーシャ」
「マリア、ここでそんな甘い牌出すなよ。ダブ東でニックな」
「リーヅモピンフ一通、親の満貫4000オール!」
「ごめんトリーシャ、チンイツドラ1、親ッパネで18000点」
 …と、あっという間の七連荘であった。この時点で秀が76300点、マリアが13300点、シェリルが12400点、そして秀
の跳満直撃を受けたトリーシャがダントツドベの700点。ハコ直前である。しかも次に親の秀が何か上がれば、八連荘で役満という
最悪の事態。
「何としても八連荘だけは阻止しようね、二人とも!」
 このマリアの言葉にうなずくシェリルとトリーシャだったが、次の秀の言葉で早くもその意気込みが崩壊しかけた。
「ごめん、ダブリーだわ、俺」
「えーっ!?」
 人間、ツく時はとことんツくものだと三人は思った。
「で、でもまだ上がったわけじゃないしね?」
「そうよね。もしかしたらあまりいい待ちじゃないかもしれないし」
「マリアたちが先に上がっちゃえばいいのよ、うん」
 しかし、彼女たちの言葉を聞いても秀は絶対に上がれるという自信を持っていた。なぜならば、彼の待ちはイースーチーピンの三面
待ちなのである。
(どうか当たり牌をつかみませんように…)
 女の子たちの願いが通じたのか、一巡目は三人とも当たらなかった。そして秀のツモ番である。
「一発ツモれぇ!…ちっ、ダメか」
 これにマリアたちはほっとした。しかしこれで終わったわけではない。流局まではまだ何巡もあるのだ。
(ま、上がるも時間の問題だな)
 秀はそう思った。三人の女の子たちもそう思っただろう。だが秀は上がれなかった。そして、九巡目に奇跡が起きた。
「あっ…」
「どうしたの、シェリル?」
「上がりました。ゴミです」
「ええっ!?」
 これには全員が驚いた。特に上がったシェリル自身が驚いている。ともかく、これでシェリルは上がり点の1100点+連荘棒7本
の2100点+秀の出したリー棒1000点の合計4200点を得たのである。
「うーん、やられたね、これは」
 秀が言ったが、ダントツトップの彼にはまだまだ余裕が見られた。
 長い長い東三局が終わり、シェリルが親になった東四局だったが、流局してトリーシャ一人だけがテンパイしていた。これにより、
秀69000点、シェリル15600点、マリア12000点、トリーシャ3400点で東場を終了した。
 続いて南場が始まった。もちろん南一局の親はトリーシャだ。
「よーし、今度こそ!今度こそ連荘してやるんだから!」
 現在最下位でここからの巻き返しを図る彼女は気合いが入りまくっていたが、その気合いがツモをよくした。いい牌がどんどん入っ
てくる。そしてテンパったトリーシャがリーチをかけて、秀がその手に一発で振り込んでしまった。
「出たあっ!リーチ一発ピンフイーペー!」
「げえっ!?」
 そしてさらにトリーシャが裏ドラをめくると−。
「やったあ、頭が裏ドラだあ!」
「げげげげげ…。ということは…」
「親ッパネ直撃だね!よーし、さっきの分取り戻したぞお!」
 この一手でトリーシャの点数は21400点となり一気に二位に。一方彼女に振り込んだ秀は51000点でいまだトップだ。
 そして親であるトリーシャが上がったために南一局が続くが、結局流局。秀一人がノーテンだったので、他の三人に罰符を払った。
この時点での点数は、秀48000点、トリーシャ22400点、シェリル16600点、マリア13000点。
 続く南一極二本場。マリアが秀からナナナナを上がった。これで秀の点数は40300点。一方上がったマリアは連荘棒も手に入れ
21300点。連荘棒を持っていかれたおかげで21800点になったトリーシャとの差が500点になった。シェリルの16600
点は変わらず。
 次にマリアが自力で親を持ってきた南二局だったが、秀がトリーシャからピンフのみの手を上がった。なんだかずいぶん久しぶりと
いう感じである。親のマリアは連荘はできなかったものの、トリーシャが秀に振り込んだために三位から二位に浮上した。二人の点差
は500点。そして相変わらずシェリルの点数に変動はなく、最下位という順位も変わらなかった。
 そして、秀が親になった南三局。マリアたちの心の中に、東三局での悪夢の七連荘が思い浮かんだ。
「こ、今度はあんな風に行かないから。ね、マリア?」
「そうよね。がんばろうね、シェリル」
「ええ。…って、あら?」
 自分の手牌を理牌していたシェリルが急に手を止めた。そしてその顔に脂汗が流れ始めた。
「おいシェリル、どうした?」
 彼女の顔を見ながら秀が第一手を捨てた。
「い、いえ、何でも…。じゃあ、ツモりますね」
 そして牌をツモったシェリル。そしてその牌を見た瞬間、彼女は心臓が止まる思いをした。
「ツ…ツ…ツモです!8000、16000です!」
「ええーっ!?」
 秀たち三人が一斉に立ち上がり、シェリルが倒した手牌を覗き込んだ。確かに上がっている。地和、役満である。
「うわー、こんな所でこんな大きい手上がるなんて…」
「まいったわね、これは」
「本当にまいったのは俺だよ。何たって親なんだからさ…」
 三人が口々に言う。そんな秀たちを見ながらシェリルはにっこり笑った。
「うふっ。みんな、ごめんなさいね」
 ともかくこれでシェリルが最下位から一気にトップに踊り出た。そして次はそのシェリルが親の南四局、いよいよオーラスである。
四人に牌が配られたがその時の各人の心境を見てみると−。
(まさかこんなことが起きるなんて…。でも、せっかくトップになったんだし、私が親を流して終わりね)
 シェリルはそんなことを思っていた。次にトップから転落した秀は−。
(あーあ、まさかあの点差をひっくり返されるなんてなあ…。ちょっとこの三人を甘く見過ぎてたよ…。でもこの配牌、かなりいい手
が狙える…。跳満以上をシェリルから上がるのも無理な話じゃない…)
 続いて三位のマリア。
(もー、マリアがこんな順位なんて信じらんなーい!えーと、ここからトップに出るためには…。ま、いっか。役満上がればその場で
マリアの勝ちが決定よ!この配牌で狙える役満は、と…)
 最後に最下位のトリーシャ。
(せっかくトップが狙えるとこまでいったんだけど、やっぱりダメか…。しかもこの配牌じゃ何にもできないよぉ…。とりあえずすぐ
上のマリアとの差が500点だし、安い手を上がって三位に上がることだけを考えようっと)
 それぞれの思惑の中、親のシェリルが第一牌を切って静かにオーラスが始まった。序盤は誰も動かない。そして七巡目、秀の番。
(よし、テンパッた!本来ならリーチをかけたいところだけど、そうするとトップで親のシェリルがベタオリしてくる…。あいつから
上がらなきゃ逆転できない手だし、ここはダマだ!)
 そうして秀は何食わぬ顔で牌を切った。シェリルもトリーシャも秀のテンパイに気づかず牌を捨てた。それらは当たり牌ではない。
そして次はマリアの番だったが−。
「リーチー!」
 彼女が勢いよく牌を捨てた。これに他の三人は、来たか、と思った。
(そのうち来るんじゃないかって思ってたんだけどな…。で、追っかけるかどうかだけど…やっぱりダマテンで行こう)
 ツモ番の秀はそんなことを考え牌を捨てた。それは今回ツモってきた牌だが、すでにマリアが捨てている現物だった。そして、次の
ツモはシェリル。
「私、オリるわね」
 そう言って彼女も現物を切った。初めから親を流すつもりだったシェリルは、危険だと思われる牌を序盤のうちに捨てていたのであ
る。もちろん手役などできていないが、今彼女の手の内にあるのはマリアに当たることは絶対にない牌ばかりである。
(マリアのリーチかあ…。どうせ最下位なんだし、強気で勝負だ!)
 そう思ったトリーシャは無スジの危ない牌を切った。「当たれるもんなら当たってみてよ」と言わんばかりである。しかしその牌も
マリアの当たり牌ではなかった。では、彼女の待ちは?そして手は?
(うふふ。手の中には南、西、北のアンコに東とローピンのトイツ。シャボ待ちで、どっちが来ても役満だもんねー。しかもツモれば
四暗刻もついてダブル役満!さー、一発来い!)
 そうして牌をツモるマリア。だが、それは彼女が待っているいずれの牌でもなかった。カンもできない。
「ちぇーっ、残念」
 そしてマリアはツモってきた牌を捨てた。その時、捨て牌を見た秀が一瞬残念そうな顔をしたのをマリアは見逃さなかった。
(今の顔…秀のヤツ、テンパってるの!?)
 マリアの考えは正しかったが、リーチをしている彼女には、自分が上がるか自分が当たり牌をつかむ前に誰かが秀に振り込むのを待
つしかなかった。そして秀は牌を捨てた。どうやらツモではないようだ。
(ふうっ…)
 心の中で安堵のため息をつくマリア。ところで、他の二人は秀のテンパイに気づいているのだろうか。そんなことをマリアは思った
が、その直後に少なくともシェリルはそのことに気づいていないということが判明した。
「じゃあ、これを切るわね。マリアちゃんの現物」
 そして捨てたイーソー。それこそが秀の当たり牌だったのである。
「ロン!純チャン三色イーペーコー、跳満!」
 その瞬間、シェリルの背景に稲妻が走った。
「そ、そんな…」
「どうだ、これで俺の逆転トップのはずだ!」
 四人は点棒を数える。確かに秀がシェリルを逆転していた。これに三人の女の子たちは−。
「すごいよ秀さん、最後の最後で再逆転だ!」
「まいりました。テンパイをしてないって思ったんですけど…」
「対局前の自信はハッタリじゃなかったってわけね」
 それぞれ秀をたたえている。そして彼は三人に言った。
「おまえらだってなかなか強かったぜ。で、どうなの?俺、麻雀部に入れる?」
「もちろん!麻雀部部長マリア・ショートは、秀を部員として認めます!」
「あはっ、な〜にをいばってるんだかマリアは」
 このトリーシャの一言に全員が笑った。

東風戦オーラス 麻雀部設立?
 秀が麻雀部の部員となった翌日、マリア、シェリル、トリーシャの三人はエンフィールド学園の職員室前にいた。
「昨日はダメだったけど、部員が増えたんだから今日こそは学校に認めてもらうわよ!」
「でも、たった一人増えただけで…」
「シェリル、せっかくマリアがやる気になってるんだから余計なこと言わないの。やる気になってるのはボクも同じだけどね」
「よーし、それじゃ二人とも、行くわよ!」
 そして職員室に入った三人であったが、数分後、彼女たちは「不許可」の言葉と共に職員室から追い出された。
「もー!これってどういうことなのよー!」
「マ、マリアちゃん、落ち着いて…」
「そうだよ。焦っても仕方ないって」
「マリア焦るもん!こうなったら…」
 そう言ってマリアは一人で再度職員室に入った。
「マリア、何をするつもりかなあ…」
「わからないけど、私、ものすごく嫌な予感が…」
 このシェリルの言葉にトリーシャははっとした。
「まずい、まさか!」
 そしてマリアを追って職員室に入るトリーシャ。
「えっ?トリーシャちゃん?」
 シェリルにはトリーシャがマリアを追った理由がはっきりとはわからなかったのだが、ともかく彼女も後を追った。そして職員室内
では、手に魔法力をためたマリアが先生を前にしてこんなことを言っていた。
「マリアのお願い聞いてくれないなら、魔法でこの職員室を…」
「やめーい!」
 後から来たトリーシャが、マリアの凶行を止めるべくその脳天に必殺トリーシャチョップをぶちかました。
「きゃうっ!?」
 まともにチョップをくらったマリアはその場で気を失った。
「トリーシャちゃん、ちょっとやり過ぎなんじゃ…」
「いいの!それじゃ先生方、失礼しました〜」
 そうして気絶したマリアを引きずるように職員室を出るトリーシャ。シェリルも室内の人間に頭を下げた後で外に出て行った。
「う…ううん…?」
 マリアが目を覚ましたのは、学園の中庭だった。そのかたわらにシェリルとトリーシャがいる。
「あれ?ここどこ?マリア、先生と話をしてたはずだけど…」
「話?あれは恐喝って言うの!」
「どうしたのトリーシャ?なんだか怒ってるみたいだけど…」
「みたいじゃなくって怒ってるの!もう、ボクがチョップでマリアを止めてなかったらいったいどうなってたか…」
「そうよ。マリアちゃん、ちょっと暴走し過ぎよ」
 トリーシャとシェリルの視線が痛い。しかし、これでマリアも反省するかと思いきや−。
「もーっ、二人がジャマしなければ麻雀部作れたのにー!よーし、こうなったらもう一回…」
「だからやめいちゅーに!!」
 その言葉と共にチョップを乱打するトリーシャ。そしてまたもやマリアは気絶した。その頭には数個のコブができていた。
「だからやり過ぎだってばトリーシャちゃん…。マリアちゃんの頭から煙が出てるわよ…」
 どうやら、この学園に麻雀部ができるまで、マリアと先生の闘いおよびそれを止めるトリーシャやシェリルの気苦労はなくなりそう
にない。

<了>

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