影狩人・3

 ある晴れた休日、もうすぐ正午を告げる鐘がなるころ、エンフィールドの西の森に一人の青年の姿があった。彼は手に自分の背より
もいくらか長い棒…いや、正確に言うと棍を持っていた。それを振り回し、棒術の訓練をしているようである。
「とりゃとりゃとりゃ、たりゃー!」
 そのスピードは速く、一閃するたびに空気が揺れた。おそらく破壊力もかなりの物だろう。しかし、彼は動きを止め、棍を地面に刺
すと一つため息をついてこう言った。
「ふう、この程度じゃ、まだまだダメだな…」
 この青年はエンフィールドの何でも屋ジョートショップの居候、彰。彼が棒術でさらなる高みを求めるのには理由があった。
「影狩人になった後元に戻ると、その反動で体にすごいダメージを受ける…それを軽減させるためには変身してない状態の俺自身をレ
ベルアップさせるしかないんだが…」
 影狩人とは、彰が『闇の力』と呼ばれる物によって変身する戦士である。もともとは彼の負の感情が実体化したシャドウの力だが、
今では彰自身がそれを支配している。
「よし、もうちょっとがんばるか!」
 そして再び棍を振り回そうとした彰だったが、その彼の目に、一人の人物の姿が飛び込んできた。
「ん?あのツンツン頭はまさか…?」
 それは、自警団第一部隊に所属するアルベルトであった。
「よう、彰。精が出るじゃねえか」
「何しに来やがった?ケンカを売りにきたんだったら、買ってやるぜ?」
「別にそれでもいいが、とりあえず今日は違う用事だ。ほれ」
 そう言ってアルベルトは、彰にバスケットを差し出した。
「何だこれ?」
「おまえの昼メシだ。アリサさんに頼まれたんだよ。西の森で訓練してるだろうから届けてくれってな。オレはおまえが腹減って餓死
しようが知ったこっちゃないが、そうなるとあの人が悲しむからな」
 そして彰にバスケットを手渡すアルベルト。
「んじゃ、確かに渡したからな」
「ああ、サンキュな」
「ふん、別におまえのためじゃなくアリサさんのためだ。じゃあな」
 そう言った後、アルベルトはその場を立ち去ろうとしたのだが−。
「ん?おいアルベルト、ちょっと待て」
「何だ、まだ何か用か?」
「手紙が入ってたんだよ。アリサさん、おまえの分の弁当も入れてくれたみたいだぜ」
「な、何ぃ!?それは本当か!?」
「ああ。ま、食いたくないってんだったら、俺が二人分食うけど?」
「バカ野郎、誰がそんなことさせるか!オレも食うぞ!!」
 そうして彰とアルベルトはアリサの手作り弁当を食べることになった。二人ともかなりの大食らいであるため、その食べっぷりはす
さまじかった。
「いやあ、食った食った。やっぱアリサさんの料理はうまいなあ…。おい彰、オレが礼を言ってたって、ちゃんと伝えとけよな」
「ん、わかった」
「忘れるんじゃねえぞ。ところで、そこにあるそれ、棍だよな?」
 そう言ってアルベルトは彰のかたわらにある棒を指差した。
「ああ、最近使い始めた俺の武器だ」
「おまえが棍か…。そういや、最近流行ってるんだよな」
「流行ってる?棍が?」
「何だおまえ、トリーシャちゃんと付き合ってるくせに知らないのか?」
「俺は別にトリーシャと付き合ってるわけじゃ…。それより棍が流行ってるってのは…」
「ああ、本当だ。おまえ、まさか影狩人ぐらいは知ってるよな?」
「そりゃあ、まあな」
 本当は知っているどころか彰自身がその影狩人なのだが、そのことは知られてはいけない。その正体を知っているのは、彼本人とト
リーシャだけである。
「世間を騒がす漆黒のヒーローだとか何とか言われてるが、オレはいまいち信用できん。正義の味方気取りで悪人を懲らしめているよ
うだが、そんなのはオレたち自警団に任せておけばいいんだ!」
「おまえらが頼りないからそいつが出てきたんじゃねえのか?」
「何だと!?聞き捨てならねえな、そのセリフ!!」
「わ、悪かった。で、そいつが?」
「その影狩人が使ってる武器が棍らしいんだよ。オレは話に聞いただけで、実際に見たわけじゃないがな。それで、カッコイイって使
う連中が増えてきてるんだそうだ。今闘技場に行ってみると、剣を使うヤツらより多いぐらいだぜ」
「ふーん、そうなのか。でもトリーシャ、そんなことこれぽっちも言ってなかったな」
「いくら流行り物だからと言っても、棍なんてあの娘の専門外だ。そんな物に手を出すほど、トリーシャちゃんもバカじゃないってこ
とだろ」
「いや、自分で使わないまでも、あいつのことだから話のネタぐらいにはするんじゃないかって思うんだけど…あっ!?」
 急に彰が大声を出した。
「ん?どうした彰?」
「い、いや、何でもない…」
 彼はそう言ったが、彰が大きな声を出したのは、トリーシャが棍の話をしない理由がわかったからである。実は、彼女は影狩人絡み
で二度ほど殺されかけているのだ。二度目の危機を救ったのが影狩人の武器である影撃棍だったのだが、自分が死にかけた経験に深く
関わっている棍の話をしたがらないのも当然と言えば当然であろう。
「うーん、やっぱりそうなのかなあ…」
「何だよ彰、何がそうなんだよ?」
「いや、別に…。とにかくだ、俺が棍を使い始めたのは、流行とはまったく関係ないぜ」
「そうか。ま、オレはおまえがどんな理由でどんな武器を使おうがかまわねえけどな」
 そう言うとアルベルトは、彰の側にあった彼の棍を手に取った。
「おいアルベルト、勝手に人の武器に触るんじゃねえよ」
 その彰の言葉を無視し、アルベルトは何度も棍を振った。その棒さばきは、彰に勝るとも劣らない物だった。
「へえ、やるじゃないか」
「ふん、オレを誰だと思っている?長槍のアルベルトだぞ。槍ってのは、棒の先に刃をつけたもんだろうが」
「ははっ、そういえばそうか。それよりいつまで人の武器持ってるんだよ。早く返せよ」
「わかったわかった。ほれ、返すぞ」
 そう言ってアルベルトは彰に向かって棍を投げつけた。
「おっと!危ねえなてめえ!!」
「この程度でびびってるようじゃまだまだだな。んじゃ、いいかげんオレは行くぜ。これから仕事なんだ」
「仕事?今日は休みだろう?」
「自警団員ってのはな、おまえらと違って決まった日に休みが取れるもんじゃないんだよ。それに今日は夕方から特別警戒態勢が…っ
と、こんなことを民間人に言う必要はねえな。じゃあな彰。アリサさんに弁当の礼を言うの、絶対に忘れるんじゃねえぞ!」
「ああ、わかったよ」
 そしてアルベルトは森から去っていた。彼の後ろ姿を見送った後、彰はニヤリとしてこう言った。
「今日の夕方、特別警戒態勢ねえ…」

 その日の夜のことである。すでに暗くなったエンフィールドの街を走る数人の男たちがいた。そして彼らを追うように数人の自警団
が走っている。
「おまえら、せっかく網にかかった賊を逃がすんじゃねえぞ!」
 他の団員にそう言ったのはアルベルトだった。昼間彼が彰に言った特別警戒態勢とは、盗賊を捕らえるための物だったのだ。
「アルベルトさん、ヤツら、西の森に逃げ込むつもりです!」
「ちっ、森に入られたらやっかいなことになる…。何としてもその前に捕まえるぞ!」
「はいっ!」
 しかし、その彼らの追撃もむなしく、盗賊は森に入ってしまった。
「くそぉ…。こうなったら手分けしてヤツらを探すぞ!発見したら、状況次第で捕まえるか応援を呼ぶか判断しろ!!」
「はいっ!!」
 こうして散り散りになったアルベルトたちだったが、その彼らを森の木の上から見つめる瞳があった。彰である。彼は口元でニヤリ
と笑うとこうつぶやいた。
「なるほど、昼間の話はこういうことだったのか…。別にあいつらに肩入れするわけじゃねえが、賊なんて連中は嫌いだからな」
 そして彼は木の上を跳ぶようにして移動していった。
「ちくしょう、ヤツら、どこに逃げやがったんだ!?」
 森の中を歩き盗賊を探すアルベルトの、いらだちの言葉であった。
「まさかもうこの森にはいないんじゃ…ん?」
 彼は何かを見つけた。それは倒れている人間であった。アルベルトがその人物に駆け寄る。その顔を見た彼ははっとした。
「こいつはオレたちが追ってた賊の一人じゃねえか!気を失ってるだけのようだが、いったいなぜ…」
 そう言ったアルベルトだったが、その時彼は奇妙な悪寒を感じた。
「な、何だこれは!?」
 身構えるアルベルト。その彼の耳に、どこからか声が聞こえてきた。
「この俺の気配を察知するとは、さすが自警団でも指折りだな」
「だ、誰だ!?」
「影狩人と言えばわかるか?」
「何ぃ!?」
 その名前にアルベルトは緊張した。今までは話にしか聞いていなかった影狩人が自分のすぐ近くにいるのだ。
「ほ、本当に本物の影狩人なのか?」
「ああ」
「まさか、こいつをやったのはおまえか?」
「その通りだ」
「何のために!?」
「おまえたちが追ってたみたいだからな、ちょっとばかりお手伝いをしてやったのさ。この程度のヤツを捕まえるのにてこずってるよ
うじゃ、自警団も知れてるな」
「ふざけやがって…!姿を現せ!!」
 そのアルベルトの言葉の後、少しの沈黙があった。しかし、その沈黙は闇の中から再度聞こえてきた声によって破られた。
「いいだろう、姿を見せてやる。だが、俺の姿を見て驚くなよ」
 そしてその直後、アルベルトの前に一人の人間が現れた。木の上から飛び降りてきたのである。その顔を見たアルベルトが、驚きの
大きな声をあげた。
「て、てめえは…シャドウ!!」
 アルベルトは、影狩人を見たことがあったのである。一つ目を型どった眼帯と拘束衣のようなその服は、数ヶ月前に自分の部隊の隊
長であるリカルドの娘トリーシャを誘拐し、その後大武闘会で毒をばらまき、さらにその後エンフィールドにある火山を噴火させよう
とした悪人、シャドウの姿であった。
「こいつはどういうことだおい!なんでてめえが!?てめえは悪人だろうが!!」
「確かに昔の俺はかなり悪いことをしたさ。だがな、俺は改心したんだよ」
「改心だと!?バカな、信じられるかそんなこと!!」
「信じる信じないはおまえの勝手さ、アルベルト」
 そう言うと影狩人はアルベルトに背を向けた。
「てめえ、逃げる気か!?」
「逃げるだと?別にそんなつもりはねえよ。ただ、こんな所でおまえと言い争ってちゃ、捕まえられる悪人も捕まえられなくなっちま
うからな」
「何!?」
「おまえらが追っていた盗賊は四人。そのうち一人はここでくたばってて、さらにもう一人はおまえの部下が捕まえた。で、残る二人
がこの先にいる」
「何だって?おまえ、なぜそんなことがわかる!?」
「俺にはちょっとした特殊能力があってな、悪人の居場所を察知できるんだ。ヤツらはあっちの方角にいる。つーわけで俺は行くぜ。
来たけりゃついてくるんだな」
 そして影狩人は木の上に跳んだ。その後彼は、木の上を跳ねてゆく。
「ま、待ちやがれてめえ!!」
 影狩人の下を追いかけるアルベルト。しかし、木の上と地上というハンデがある上にスピードにも差があり過ぎたため、彼はすぐに
影狩人を見失ってしまった。
「くそっ、何て速さだ!しかし、影狩人の正体がシャドウだったとは…。あの悪人が正義の味方じみたことをやってるなんて信じられ
ん…」
 そんな言葉を言った後、アルベルトは足を止めた。そしてこうつぶやく。
「…あんなヤツを信じて、この先に進んでもいいのか?」
 そしてしばし動きを止めるアルベルト。だが、その後彼はさらにつぶやいた。
「…ヤツしか信じられる物がないんだ、行くしかねえだろう」
 アルベルトは意を決して再び走り出した。方角的にはあっているはずだ。そしてしばらく進んだ所で、二人の男と戦闘をしている影
狩人を見つけたのである。その二人とはアルベルトたちが追っていた盗賊である。影狩人は武器を持って彼らと戦っていた。
「あの武器は…ヤツが棍を使うって噂は本当だったようだな…。見たところ苦戦してるようだ、手を貸すぜ!」
 そう言うとアルベルトは影狩人と盗賊たちの間に飛び込み、敵の一人に一撃をくらわせた。衝撃でその男は吹き飛んだ。
「おっ?アルベルト、遅かったじゃねえか」
「まあな。しかしこんなヤツらにてこずるようじゃ、おまえもたいしたことねえのか?」
「ちっ、痛いとこついてきやがるな。こいつら、二人合わさるとかなり強えんだよ。今おまえが吹っ飛ばしたヤツがもう一人に精霊魔
法をかけてパワーアップさせて、しかも俺に連金魔法をかけてパワーダウンさせやがるんだ」
「なるほどな。じゃあ、戦力を分散させれば何とかなるか?」
「何とかどころか余裕で勝てるね、きっと。頼めるか?」
「ああ、こういう状況だ、そうするしかねえだろ。こいつは任せたぜ!」
 そしてアルベルトは先ほど彼が吹き飛ばした男に突進していった。そして影狩人ともう一人の男から、しだいに離れていった。
「こいつ、俺とボスを引き離すつもりか!」
「そーゆーこった。しかしヤツがボスだったとはな。仕方ねえ、格は落ちるがてめえで我慢してやる!」
 そう言うとアルベルトは得意の槍で盗賊を攻める。
「ちっ、そう簡単に俺を倒せると思うなよ!エーテル・バースト!」
 一瞬のすきを突いて、盗賊が最強の精霊魔法を自分自身にかけた。これで彼は大幅なパワーアップをしたはずである。が−。
「おおおおおおりゃあああ!」
「ぐあっあっ!?」
 次の瞬間、アルベルトの長槍が盗賊の肩口を貫いていた。
「な…なぜ…」
「精霊魔法ってのは、かけられた側のもともとの能力が関係してくるんだ。おまえ、戦士としての能力はたいしたことがなかったよう
だな」
「くっ、無念…」
 その言葉を最後に、盗賊は気を失った。
「ふん、楽勝だったな。よし、こいつをふん縛った後に、ヤツの所に行かねえとな」
 そしてアルベルトは自分が倒した盗賊を止血した後彼を縄で縛り上げ、先ほど影狩人と盗賊のボスが戦っていた場所に戻った。そこ
では、二人が一進一退の攻防をしていた。どうやら先ほど双方にかけられた魔法の効果がまだ残っているようだ。
「まずいな、シャドウが押されてる…」
 そのアルベルトの言葉通り、影狩人の方が不利であった。そしてそのうち、彼の武器である影撃棍が弾き飛ばされてしまった。
「しまった…!」
「もらったああ!」
 ボスの攻撃。影狩人はそれを紙一重でよけた。しかし、武器のない不利な状況は変わっていない。その時であった。
「シャドウ、こいつを使え!」
 アルベルトが影狩人に向かって自分の槍を投げつけた…つもりだったが、手元が狂ってかなり上の方に行ってしまった。
「ちっ!」
 舌打ちとともに影狩人は飛び上がり、空中で槍をつかんだ。その直後、彼は宙で体勢を立て直すと、槍の先端に自分の気をためてボ
スに向かって放った。
「神魔鳳月弾!」
 気の塊がボスを襲う…と思いきや、それは彼の手前の地面に落ちた。
「外れた!?いや、外した!?」
 直撃はしなかったものの、ボスにすきができた。そして次の瞬間、彼の目の前には影狩人がいた。
「行け、シャドウ!ぶっ刺せ!!」
 アルベルトが叫ぶ。しかし影狩人は槍の刃で敵を突くと思いきや、それを半回転させて柄でボスに一撃をくらわせた。
「があはああ…!!」
 その攻撃は確実にボスの急所を突いた。彼は衝撃で吹き飛び、気を失った。
「ふう…」
 勝利を確認した後、影狩人は一つ息をついた。その彼にアルベルトが話しかける。
「やったな。だが、一つ聞きたいことがある。なぜ刃で刺さずに柄を使った?」
 そう聞かれた影狩人は少し考え後こう答えた。
「槍で刺されたら、下手したら死んじまうだろ?どんなうまい所を突いたとしても、血が出まくれば出血多量で死んじまう。悪人でも
殺したくないんだよ、俺は。俺が棍を使うのだって、『殺しにくい武器』だからだ」
「はっ、ずいぶんと平和主義者なんだな。とても毒や火山で大量虐殺をしようとした人間と同じとは思えねえ」
「言ったろう、俺は改心したってな。それにな、おまえ俺のことを何度もシャドウと呼んでいたが、俺はもうシャドウじゃない。影狩
人だ」
「ふっ、そうかい…」
 そう言ってアルベルトはかすかに微笑んだ。それを見た影狩人も口元で小さく笑った。そして、アルベルトにこうたずねる。
「ところでアルベルト、おまえ、俺の正体を世間に公表する気か?」
「いいや、やめておく。いくら改心したとは言え、おまえが過去にした悪事は消えない。いまだにそれらを忌まわしく思ってるヤツは
たくさんいるからな。特に、おまえのおかげで無実の罪を着せられた彰なんかは、この事実を知ったらどんな行動に出るか…」
「そうか、感謝するぜ」
 その言葉の直後、影狩人は木の上に跳んだ。
「てめえ、どこに行く!?」
「消えるんだよ。影は闇の中がお似合いだからな。おっと、こいつは返すぜ」
 木の上から、アルベルトの槍が落ちてきた。アルベルトはそれをよける。
「っと、危ねえ!…ヤツの気配が消えた?」
 そう、それ以降、影狩人の発していた妙な気は感じられなくなったのである。
「ちっ、あの野郎…。次に会ったら、あの眼帯の下の素顔も拝ませてもらうからな…」

 その翌朝、彰がジョートショップの前を掃除していると、アルベルトがやってきた。互いの姿を目にした二人はしばらく無言のまま
にらみ合っていたが、先にアルベルトが口を開いた。
「彰、昨夜はご苦労だったな」
 こう言われた彰は−。
「昨夜?昨夜って何のことだ?」
 こんな答えを返した。それを聞いたアルベルトが言う。
「はっ、もしかしたらと思ってカマをかけてみたが、どうやら違うようだな。何でもないから忘れろ」
「だから何言ってんだよおまえは?とうとうおかしくなったか?」
「んだとこらあ!?ケンカ売るなら買ってやるぜえ!!」
「上等だおらあ!」
 そしてアルベルトは槍を抜く。彰もジョートショップの壁に立てかけてあった自分の棍を手にした。一触即発かと思われたが、少し
してアルベルトが槍を収めた。
「やめたやめた。こんな所でケンカなんかしたらいい見せ物になっちまう。もし隊長に見つかったりでもしたら大目玉だしな」
「ほう、結構大人じゃねえか。ま、俺としてもケンカをしないに越したことはないけど」
 そう言って彰も棍を店の壁に戻した。その彼にアルベルトが言う。
「だがな彰、おまえとはいずれ決着をつける。首を洗って待ってろよ」
「あー、わかったわかった。それよりもおまえ、いつまでもこんな所でだべってていいのか?遅刻しちまうんじゃないのか?」
「おまえに言われなくてもわかってる!じゃあな」
 そしてアルベルトはジョートショップ前から去った。その後ろ姿を見ながら彰が言う。
「あんな誘導尋問に引っかかるようなマヌケじゃ、秘密の戦士なんてやってられねえよ。でも、昨夜はあいつのおかげで助かったわけ
だし、とりあえず感謝はしとくぜ」
 その後、街を照らす太陽の出ている空を見上げて、彼はこうつぶやいた。
「さて、闇の戦士が活躍する時間になるまでは、表の仕事でがんばるかあ」

<了>

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