「パティ知ってる?またあったんだって、あの事件」 さくら亭で、彼女にそう言ったのはマリアだった。今、この二人以外に店内に人はいない。 「あの事件?ああ、女の子が道を歩いてるといきなり突風が吹いてきて、スカートがまくれ上がっちゃうっていうあれね?」 「そう、それ。ここ最近多発してるのよね」 「らしいわね。で、あんたもそれにあっちゃったの?」 「ううん、マリアはいつも短いスカート履いてるけど大丈夫」 「ならいいじゃない。結局ただの自然現象なんでしょ?」 「本当にそう思う?」 「えっ?」 「ただの自然現象がこんなにたくさん立て続けに起きるはずがないわ。それにね、被害にあった女の子が見てるのよ」 「見てるって、何を?」 「スカートがまくれ上がった瞬間、ものすごいスピードで自分を後ろから追い越していく赤い物体をよ。速過ぎてはっきりとは見えな かったらしいけど。それに、その時どこかでカシャカシャっていう音がしたとも聞いてるわ」 「カシャカシャ?」 「そ。マリアが思うにこれは誰かが人為的にやってるスカートめくりよ。純情な乙女の下着をただで見ようなんて許せないわ!」 じゃあお金を払えばいいのかとパティは思ったが、彼女はその言葉をぐっと飲み込んだ。マリアが続けて言う。 「ねえパティ、あんたも許せないでしょ、そんなヤツ?」 「うーん、まあ、そうね…」 「何よー、歯切れが悪いわね。あっ、わかった。あんたいつもスパッツだから、自分は被害にあわないって思ってるんでしょう!ふー ん、そうだったんだ。あんたって自分さえよければそれでいいっていう、そんなひどい人間だったんだ」 「ちょ、ちょっと、なんでそうなるのよ!あたしはね、今回の事件が本当にあんたが言ってるみたいに人為的な物なのかなーって思っ て…。もしそうなら、許せないところはあるけどさあ…」 「それはもう間違いないわ、絶対」 「その根拠は?」 「さっき言ったみたいな証言は、一人の女の子だけじゃなくてたくさんの娘たちが言ってるのよ。それと、マリアの直感」 証言はともかくマリアの直感なんて当てにならない。パティはそう思った。しかし彼女は先ほどと同じようにその言葉も口には出さ ないでおいた。そしてパティはマリアにたずねる。 「で、あんたいったい何がしたいの?これまでの話から推測すると、その犯人を捕まえるとか言い出しそうだけど…」 「そう、当たり」 やっぱりそう来たかとパティは思った。 「だけど、それをあんたがやる必要はないんじゃない?自警団に任せれば…」 「個人的に許せないの!自警団にやってもらえばいいって問題じゃないのよ!」 「そ、そう…。でも、どうやってやるのよそんなこと?」 「そりゃあ決まってるじゃない。おとり作戦よ。もちろんおとりはマリア。マリアみたいなかわいい女の子がターゲットにならないは ずがないしね」 「でも、今まで被害にあってないんでしょ、あんた?」 「こ、これまではたまたまあわなかっただけよ!事件が多発してるポイントに行けばマリアだって…」 「あー、はいはい。ところであんた、ただで下着見られるのは嫌だとか言ってなかった?」 「ブルマ履くから大丈夫よ。そ・れ・で…」 マリアの不適な微笑みにパティは嫌な予感を感じた。 「まさか…」 「パティにも手伝ってもらいたいんだけど、ダメ?」 予想通りのマリアの言葉に、パティは力いっぱい否定をした。 「ダ、ダメよダメダメ!」 「どうしてよ?許せないんでしょ?」 「そりゃあそうだけど…ダメよあたしは」 「だからどうしてなのよ?」 「だってあたし…スカート持ってないもん…」 「は?」 パティの言葉にマリアは口をぽかんと開けた。 「だから、持ってないのよスカート!」 「ほ、本当に?一枚も?それって今回の事件がどうのこうの言う前に、女の子としてやばくない?」 「大きなお世話よ!!」 とマリアを怒鳴りつけてみたパティだったが、彼女もいささかの危機感を覚えたようで、マリアにこうたずねた。 「…やっぱりおかしいかな?」 「うん、おかしい。いくらあんたがボーイッシュな女の子で通ってるからって、一枚も持ってないのは絶対におかしい。よーし、こう なったらあんたのためにこのマリアが一肌脱ぐわ」 「一肌脱ぐって…何するつもりよ?」 「決まってるじゃない、パティに似合うスカートを買うのよ。ほら、ローレライ行くわよ!」 「えっ?あっ、ちょっと!あたしお店がーっ!!」 その言葉もむなしく、パティはマリアの手によって強引にさくら亭から引きずり出されてしまった。そして二人が向かったのは洋品 店ローレライ。中に入ったマリアが店のおばさんと話をし、彼女はほくそえむ。嫌な予感を感じたパティだったがもう逃げられない。 こうして彼女は二人がかりで服を見つくわれることになった。そして、十数分後。 「ちょっとマリア、今日はスカートを買いに来たんでしょ?どうしてその他の服まで着なきゃならないわけ?」 「だって、あんたの服がスカートに合わないんだもん。トータルコーディネートってヤツよ」 「そのミニスカート似合うわよパティちゃん。じゃあ、これでいいわね?」 「うん。あっ、これはマリアからパティへのプレゼントだから、お金は後でマリアが持ってくるわ」 「そんな勝手に…。まあいいわ、とりあえずありがとう。じゃあ、もう元の服に着替えるからね」 「ちょっと待ちなさいな。せっかくだからそのまま帰ったらどう?」 「おばさん、余計なこと言わないでよ!」 「あ、いいわね。それじゃ行きましょうかパティ」 「あ〜れ〜!」 こうしてまたもマリアに引きずられローレライを出るパティ。しかも、人通りのある道を、さくら亭とは逆の方角に。 「ちょっと、どこに連れてくつもりよ!?家に帰らせてよ!!」 「せっかくかわいくなったんだから街の人に見てもらいましょうよ。特にジョートショップのあいつにさ」 「わかったわよ、わかったから引きずるのやめてよ!せっかく買った服が伸びちゃうじゃない!」 「あっ、それもそうね」 そしてようやくマリアから解放されたパティだったが、その時であった。彼女たちの間に、突如として一陣の風が舞った。 「!?」 その風のせいで二人のスカートがめくり上がり、中の物が白日の元にさらされた。先ほどのさくら亭での話にあったようにマリアは ブルマを履いていたのだが、パティの方はそんな武装はしていない。白い物がはっきりと見えた。 「きゃーっ!!」 大きな声で叫び、時すでに遅しではあったがスカートを抑えるパティ。そしてそのまま彼女は地面に座り込んでしまった。 「出たわね!☆#○×△%▲★〜っ!!」 マリアが何やら怪しげな呪文を唱えた。すると彼女の指先から光が放たれ、二人の前方に向かって飛んでいった。 「今のが誰かのスカートめくりなら、追尾の魔法のおかげでそいつに命中するはず!」 「えっ?どういうこと?」 「マリア、自分の服に魔法をかけておいたの。これに自分以外の人が触ったら、次に使う魔法がその人を自動追尾するようにね」 「いつの間にそんな…なかなかやるじゃないあんたも」 マリアの抜かりのなさに感心するパティ。そしてマリアの放った光は、通りを歩いている人をかわしながら突き進んでいった。そし て数秒後、彼女たちの前方から「ぎゃーっ!!」という叫び声が聞こえた。 「どうやらヒットしたみたいね。パティ、行くわよ!」 「あっ、ちょ、ちょっと待ってよマリア!」 いきなり走り出すマリアと彼女を追いかけるパティ。そして通りを走っていった二人が見た物は、道に倒れ込んでいる赤毛の少年で あった。 「ピ、ピートぉ!?」 その彼は、クラウンズサーカスに住み着いているピートだった。 「…ねえマリア、本当にこいつが犯人なの?あんたの魔法が失敗したっていうオチじゃないでしょうね?」 「そんなはずないわよ。ほら、他の娘たちも言ってたでしょ?スカートがめくれた瞬間に赤い物体を見たって。こいつのことよ」 「…ま、本人に聞けばわかるわね。ねえピート、本当にあんたがスカートめくりの犯人だったわけ?」 こうたずねられたピートは、申し訳なさそうな声でポツリと言った。 「うう、ごめんよ二人とも…」 「えっ!?じゃあやっぱり!?」 驚く女の子たち。そしてピートは続ける。 「協力してくれたらメシを腹いっぱい食わせてくれるなんていうあいつの口車に乗せられたオレがバカだったんだよ…」 「あいつですって?黒幕がいるの!?誰よそいつは!?」 「そいつ、そこの茂みの中にいるんだ。出てこいよ、おい」 ピートが、自分たちのいる道の側にある茂みに向かって話しかける。その瞬間、茂みからガサガサという音がして一つの影が飛び出 してきた。そしてその影はマリアたちから逃げようとした。 「あーっ、待ちやがれこら!でりゃああ!!」 逃げようとする影にピートがタックルをぶちかまし、それは倒れた。 「オレだけに責任なすりつけて逃げようだなんてずるいぞアレフ!」 「アレフ!?」 女の子二人が声を上げる。それはエンフィールド一のプレイボーイ、アレフだった。しかもなぜか手にはカメラを持っている。 「どういうことなのかしらアレフ?説明してもらいましょうか?」 「正直に言わないなら、マリアが必殺魔法を炸裂させるからね!」 拳を固めるパティと、手に魔法力を溜めるマリア。その二人にすごまれたアレフはどうやら観念したようである。 「わ、わかったわかった。説明するよ。とりあえず、この本見てくれ…」 そう言ってアレフは一冊の雑誌をパティに手渡した。 「何これ?…『月間美少女写真塾』!?」 「うわ、やらしい!こんなエッチな雑誌見てるんだあんたってば!!」 「か、勘違いするなよ!これは別に裸とか下着姿の娘が載ってる雑誌じゃなくてだなあ…」 「ふん、どうだか…あら、本当だわ。みんなちゃんと服着てる。行ってて水着だわ」 「それで、この本とピートにスカートめくりをやらせた関係は?」 「あーっと…そいつの、一番最後のページを見てくれ」 アレフに言われて、パティは雑誌の最終ページをめくった。 「なになに…テーマ写真投稿募集、今月のテーマは『驚いた女の子』…」 「いやー、そいつに応募しよう思って、どんなことをされたら女の子は一番驚いた表情を見せるかなーって考えたわけよ。で、いきな りスカートをめくられたらそりゃすっごいびっくりするだろうって思ってさ」 「‥‥‥‥」 「てなわけで、俺はあくまで女の子の驚いた顔を写真におさめてただけなんだよ。スカートの中を撮ってたわけじゃないから、許して ほしいなーなんて…」 「許せるかああああっ!!」 その直後、パティの鉄拳とマリアの攻撃魔法が同時にアレフにヒットし、彼は5メートルほど後ろに吹っ飛んだ。 「おっぼおおおおお…!」 「ふざけんじゃねーわよ、この腐れド外道が!」 「知り合いのよしみで自警団に突き出すのだけは勘弁してあげるけど、今度やったらただじゃおかないからね!」 吹っ飛んだアレフに罵声を浴びせるパティとマリアを見て、ピートがぼそりと言う。 「…これが世に言う、『自業自得』ってヤツなのかなあ…」 「あんたもねーっ!!」 パティの怒りの矛先がピートに向いた。見えないスピードのキックで彼女はピートを上方に蹴り上げ、彼は宙を舞った。約5秒の滞 空時間の後、地面に落ちるピート。キックのフィニッシュポーズで固まっているパティに、マリアが言った。 「…ねえパティ、そーゆー服装で蹴り技は使わない方がいいと思うわよ。今、バッチリ見えた…」 こう言われて慌てて自分のスカートを抑えるパティだったが、彼女に蹴られたピートは、とても幸せそうな顔でKOされていた。 <了> 図書室へ |