「ヘッ?」としか言いようのない、コントラバスに対する世間の誤解・偏見・無知について。
このページの最終更新日:2004/05/05
まずは大物から。といっても、コントラバス弾きにはあまり馴染みのない名前かもしれません。しかし彼は、かの有名なJ.S.Bachの息子(C.P.E.Bach)が仕えたプロイセンのフリードリッヒ大王のフルートの師匠なのです。その名も、Johan Joachim Quantz (J.J.クヴァンツ)です。彼の著書「フルート奏法試論(1752)」(吉田雅夫・H.レズニチェック監修 石原利矩・井本こうじ(申し訳ありませんが、web上では使用不可能な字です。「日」偏に「向」という字に数字の「二」ですので、こう読むのだろうと思います)共著 シンフォニア社刊 1676年)の第17章「伴奏者、又は独奏声部に付随するリピエーノ奏者の義務」(この章名からして、「カチン」ときます)の第5節「コントラバス奏者について」の§1の冒頭で、「ヴィオラとコントラバスがよい演奏をしてもその重要性や価値が認められない理由」として、次のように書いています。
コントラバスに割り当てられた人々の大部分が、能力と趣味の両方を要求される他の楽器では、ぬきん出る能力を持たなかった
「テメェ、オレにケンカ売ってんのか!!!!」
コントラバスを弾くには、「能力」も「趣味」も必要ない。他の楽器ができないから、あのバカでかくて持ち運びに不自由な楽器をやっている。華やかでセンスの良い旋律を演奏することはできない(あるいは「独奏」はできない)から、「伴奏者」としてだけ地味に生きていろ。……そういっているようです。
何も250年も前に書かれた書物にかみついても仕方ないのですが、今でもフルートやヴァイオリンの連中は同じように考えているのだろうと想像すると、腹が立つ。
コントラバスを初めて見た子の反応。
わ〜。でかいギターだなぁ。
「でかいヴァイオリンだ」というなら、話は解る。しかしこの子は、弦楽器はギターしか知らないのだ。これはコントラバスだけの問題でなく、日本の音楽教育全体の問題だ。
こちらは同じくコントラバスを初めて見た小学校の先生の反応。
フレットがない。
ヴァイオリン族の楽器(コントラバスはその先祖のヴィオール族の面影を色濃く残しているとは言いながら、やはりヴァイオリン族の一員だろう)にフレットがないのは当たり前だと思っていたが、弦楽器ではギターしか実際に見たことのない人にとっては、フレットのない弦楽器というのは不思議なのだろう。
ところで、クヴァンツの前掲書の§4では、「コントラバスにはフレットを付けるべきだ」と主張している。それに対して「微妙な音程の調整ができない」という理由から反対する人に向かって、「どうせ非常に低音しか出さない楽器だから、そんな微妙なところは関係ないよ(表現はもっと上品だが、内容はこういうところ)」と再反駁している。……やっぱり、オレたちにケンカ売ってるとしか思えない。
ある高等学校が吹奏楽コンクールのために、たくさんの楽器とともにコントラバスをワンボックスのバンで運んできた。最初にコントラバスが車から降ろされたが、どうも「平たい」。車の運転手(その学校の吹奏楽指導者の先生でないことを祈る)がコントラバス奏者に話している。「ティンパニの上に乗せようとしたんだけど、天井につかえてしまうから、弦を弛めて
駒をはずして乗せてきた。
駒はケースのポケットに入っているぞ」
私はその学校とは縁もゆかりもなかったが、あわてて飛んで行った。急いでケースを開けてf字孔から覗いてみると、案の定、魂柱がはずれていた。「このままでは、弦を張ることはできない。魂柱は、専門家に立ててもらう以外ない。専門家がここにいない以上、この楽器で本番を迎えることはできない。どこかの学校から楽器を借りて本番を迎えるしかないね」とそのコントラバスの子に話した。そこから先は、どうなったか知らない。
こちらはある小学校の先生。「駒が倒れてしまうんですよ。いくらやっても、弦を締めているうちに必ず倒れてしまうんです。だから、
駒を本体にボンドで付けてみました。
本当は、何で接着するんですか」
ギャー!!。やる前に相談してくれ〜〜。
エンドピンが床を傷つけるからと、ヤスリで削って平らにしてしまった中学校の音楽の先生。
弓の毛が少なくなったからと、弓自体を捨ててしまった中学校の音楽の先生もいた。(人間の毛が少なくなった場合、同じように捨てられてしまうのだろうか……コワイ)
こちらはある大学のオーケストラのヴァイオリン奏者(女性)。小学校に上がる前からヴァイオリンを弾いていたという。弓のねじの調子が悪いというコントラバス奏者が、毛箱をはずしてねじにグリスを塗ろうとすると、それを見ていた件のヴァイオリン奏者、「エッ!
コントラバスの弓って、分解できるの」
別にコントラバスの弓でなくったって、ヴァイオリンの弓だって毛箱くらいはずれるよ。この子、15年以上ヴァイオリンを弾いていながら、弓の毛箱をはずしたことがなかったのだ。毛箱がはずれなかったら、どうやって毛を張り替えると考えていたのだろう。
私がフレンチボーを練習に初めて持っていったとき、それを見たもう一人のコントラバス奏者(専門学校学生。高校からコントラバスを弾いていた)が、
「これ(フランス式の弓)もコントラバスの弓ですか」
当たり前だ。こんな太い弓でヴァイオリンなんぞ弾いた日にゃ、楽器が分解しちまう。
彼女は4年間もコントラバスを弾いていながら、「フレンチボー」というものが存在していることさえ知らなかったのです。
これこそ、究極の無知。
「あそこのミの音はフラットだぞ」などと話していたら、それを聞いていたある中学校の体育の先生。「なに、これ(コントラバス)にもドレミあんのか。
おれ、ただブンブンやってるだけだと思った」と曰った。
太鼓じゃあるめぇし、ドレミぐらいあらぁな。ドレミだけじゃぁねぇぞ、ファソラシだってあるぞ。